第53話:付与スキル1
一時的にリオンくんと協力体制を取り、国王様からの依頼をこなすことになった私たちは、手分けして浄化ポーションの作成準備に取り掛かった。
騎士団が調査しても原因がわからない今回の魔物の繁殖は、国王様が頭を悩ませるほどの異例の事態であり、危険な香りがプンプンしてくる。
宮廷錬金術師の助手になったばかりの私には、まだ早いと思うのだが……。久しぶりに新しいポーションを調合できるとなって、胸が高鳴っている。
なんと言っても、楽しみにしていた付与スキルも一緒に覚えられるかもしれないのだ。
これはもう、一石二鳥の依頼と言っても過言ではない。
よって、異様に張り切る私は早くも機材のセッティングを終え、浄化ポーションを作成する準備を整えた。
買い出しに行ったリオンくんがまだ戻ってこないので、難しい顔で騎士団の報告書に目を通すクレイン様の元に近づいていく。
「魔物の繫殖について、何かわかったことはありますか?」
「予想以上に瘴気の影響を受けている範囲が広く、改めて厄介な依頼だとわかった程度だ。国王陛下が早い段階で話を持ち掛けてきたことにも、納得がいく。できるだけ早く瘴気を浄化しなければ、また魔物の繫殖が進みかねないだろうな」
「それはマズいですね。まだ薬草不足の問題もありますし、頻繁に魔物が繁殖するとなれば、色々なことに問題が生じてきます」
前回はポーションが足りなかったり、魔法学園の生徒が巻き込まれたりしたが、たった一度の魔物の繁殖で大きな騒ぎになってしまった。
それが二度三度と起これば、王都に住む人々の不安が高まって治安が悪化するし、街を移動する商人に避けられて物流が滞る恐れがある。
いくら騎士団が頑張ったとしても、また薬草不足が深刻化したら、繁殖する魔物の方が優勢に……。そう考えるだけでゾッとした。
「あくまで可能性の話だ。そうならないように、俺たちが食い止める必要がある」
「どうやら大変な依頼を受けたみたいですね。今回の魔物の繁殖も瘴気が原因だったんでしょうか」
「結論を急ぐべきではない。魔物の繁殖が進んだ結果、瘴気が発生した可能性もある。どちらかと言えば、それを調べるために調査する、と言ったところだな」
ややこしくて頭が痛くなってきたなーと思っていると、工房の扉が開き、リオンくんが帰ってくる。
しかし、何やら様子がおかしい。予想以上に大きな荷物を持ち、顔が青ざめていた。
「不吉な予感がします。今回の依頼は危険かもしれません」
「ど、どうかされたんですか?」
「バーバリル様に、クレイン様たちと国王様の依頼を共同作業すると伝えたら、突然気前が良くなって……」
あぁー……そのパターンですね。私も見習い錬金術師になったお祝いとして、大量の魔鉱石をいただいた経験がありますから、気持ちはわかりますよ。
偏屈でぼったくりが大好きなオババ様が気前良くプレゼントをくれるはずがない、と信じられない思いでいっぱいなんだろう。
とんでもない恐怖体験をしてきたような表情を見る限り、相当良いものを頂いたらしい。
「そういう時期みたいですね。私もこの間、オババ様のご厚意でおまけしてもらいましたよ」
リオンくんがもらってきた荷物が気になり、中身を確認すると……。見たこともない魔物の素材や貴重な鉱石がたっぷりと入っていた。
さすがにこれは、厚意という言葉で片付けられるものではない。リオンくんが現実逃避してしまうのも、無理はなかった。
その姿を見たオババ様の『イーッヒッヒッヒ』という笑い声まで聞こえてきそうだ。
「いったい王都で何が起きているんでしょうか」
悩む規模が大きいですよ、と突っ込みたいところだが、王都で魔物が繫殖するほどの騒ぎが起きているため、あながち間違いではない。
「それを調査するためにも、浄化ポーションを作りましょう」
無理やり話をまとめた私は、浄化ポーションの作り方を教わるべく、必要な素材を机に並べていく。
すると、近づいてきたクレイン様が聖なる魔石を一つ手に取った。
「浄化ポーションを作る下準備として、まずは聖なる魔石を使い、聖水を生成しなければならない。そこで必要になるのが――」
「付与スキルですね!」
「その通りだ。本来なら、俺が教えようと思っていたんだが……。リオン、ミーアに付与のやり方を教えてやってくれ」
突然、出番がやってきたリオンくんは、一気に現実に引き戻される。
「ぼ、僕がですか?」
「ああ。付与を専門にしているリオンの方が、俺よりうまく教えられるはずだ」
「それはそうかもしれませんが……。人に教えた経験なんて一度もありませんよ」
「人に何かを教えるというのは、自分のスキルを見つめ直す良い機会にもなる。うまくいけば、力の腕輪を制御するヒントを得られるかもしれない。経験しておいて損はないだろう」
まだ二人の関係性がわからないが、クレイン様はリオンくんのことをしっかり気にかけているみたいだ。
今回の依頼で、私とリオンくんが共に成長するように考えてくれている。
急遽、新しい仕事をもらったリオンくんは、戸惑いを隠せていないが。
「み、ミーア様もそれでよろしい……ですか?」
「はい。教えてもらえるのであれば、文句は言いません。私には平民の友達がいますので、身分など気にせず、普通に接していただいても大丈夫ですよ」
「あっ、やっぱりそうなんですね。ミーア様の言葉遣いが妙に平民寄りだったので、気になっていたんですよ。はぁ~、よかったですー」
肩の重荷が降りたように溜め息を漏らすリオンくんを見て、私は首を傾げる。
私、貴族の風格が失われてない? と。
まあ、元からあってないようなものだから、別にいいけどね……。関わりにくいと思われるよりは全然……。
そんなことを思いつつも、目上の貴族の前では、もっとしっかりしようと思うのだった。







