第52話:国王様の依頼
国王様のおかげで言い争いが収まったものの、周囲には緊迫した空気が流れていた。
「ゼグルスよ。力の腕輪はどうだ」
「はっ。使用している騎士の姿を見ても、まだ思うように制御できておりません。一時の力を得るためのものとしては、実用性があると存じます」
ゼグルス様の言葉を聞き、訓練している騎士の様子をチラッと確認すると、先ほどとは違う光景が目に飛び込んできた。
体格差を感じさせないほど力強く打ち合っていた小柄な騎士たちが、早くも肩で息をして競り負けている。
力の腕輪を使い慣れていないというより、魔力の消耗が激しすぎて、疲労が蓄積しているような印象だった。
「ふむ。使い方次第では、実用段階に到達しているように見えるが、何とも言えそうにないな。力の腕輪を使用した騎士の意見を聞き、評価は持ち越すとしよう」
国王様の意見を聞いたゼグルス様は、納得いかなかったのか、僅かに顔をしかめる。
現場の意見を取り入れて、総合的に判断しようとする国王様の考えに同調できないみたいだった。
そこまでして功績がほしいのか、それとも力の腕輪を使いたい別の目的があるのかわからない。ただ、製作者のリオンくんが話題に出ないことに、私はちょっぴりモヤモヤした。
助手の手柄は宮廷錬金術師のもの、になるのかな。EXポーションを作った私の場合はクレイン様が譲ってくれたけど、かなり異例のことだったのかもしれない。
リオンくんが納得するのであれば、私が口出しすることではないが。
力の腕輪についての話し合いが終わると、国王様の視線がクレイン様に向けられた。
「別件でクレインに声をかけようと思っていたところだ。少し時間をくれ」
「……どうなさいましたか。あまり良い予感はしませんが」
思うところがあるのか、クレイン様は国王様から目を逸らす。
「そう言うでない。其方にしか頼めぬことだ」
「断るつもりはありません。しかし、まだまだ助手を雇ったばかりです。あまり危険な依頼は引き受けたくないというのが、素直な気持ちです」
唐突に自分の話題が上がり、国王様に視線を向けられてしまう。
思わず、私も全力で目を逸らしたい気持ちに駆られるが……、さすがにそんな失礼なことはできないので、軽く会釈してやり過ごした。
「こればかりは何とも言えぬ。此度の騒動の原因となった魔物の繁殖を調査してほしいのだ」
しかし、急を要する事態なのか、私のことを気に留める様子はない。国王様は真剣な表情をして、クレイン様に訴えかけていた。
一方、予想とは違う話だったみたいで、クレイン様は首を傾げる。
「騎士団が調査していると聞いていますが」
「無論、調査しておるが、難航しておってな。瘴気の浄化も兼ねて、其方に依頼するべきだと判断した」
「……わかりました。ただちに浄化ポーションの作成にあたりますが、調査には――」
「みなまで言う必要はない。危険と思わしき地に向かわせるのだ。調査には騎士団も同行し、護衛させる」
「ありがとうございます」
「うむ。頼んだぞ」
とんでもない依頼が舞い込んできたなーと、他人事みたいな気持ちでいると、再び国王様はゼグルス様と向かい合った。
「ゼグルスよ。王都の結界はどうなっておる」
王都の結界……? そういえば、王都に魔物が来にくくなる結界を設置したって、子供の頃に聞いたことがあったっけ。
実験になった小さな村には効果があり、魔物の被害が減少したらしいけど……。
あれって、ゼグルス様の功績だったんだ。なんかイメージと違うなー。
「今のところ結界に異常はありません。念のため、再付与を行なっている最中にございます」
「そうか。もし異常が見受けられたら、すぐに連絡してくれ」
「承知しました」
話を終えた国王様が去っていくと、クレイン様が近づいてくる。
「厄介な仕事が入ったが、時間は十分に取れるはずだ。ポーションの取引が再開するまでに、ある程度の目処を付けよう」
「私は構いませんけど……。宮廷錬金術師の仕事って、こんなものもあるんですね」
「役割の違いと言ったところか。騎士団では、凶悪な魔物が住み着いていたり、生態系を崩すほど繁殖したりしていないかを調査する。しかし、瘴気が見つかった時点で、対処できる宮廷錬金術師に仕事を回すことが多い」
言われてみれば、冒険者ギルドで受付をしていた時、クレイン様は護衛依頼を発注することが多かった。
地質調査という名目で依頼が出ていたけど、ポーションの研究には関係なかったみたいだ。
「ミーアに無理はさせられないが、仕事を覚える良い機会だ。騎士団が同行してくれるのであれば、危険は少ない。まずは浄化ポーションを作成するぞ」
「わかりました」
国王様の依頼を進めるための準備に取り掛かろうと決まった瞬間、セグルス様に背中を押されたのか、リオンくんのよろめく姿が視界に映る。
「リオン。お前はしばらくそっちで世話になれ」
「ど、どうしてですか? 僕はまだ力の腕輪の調整が――」
「王都に結界が貼られているにもかかわらず、周辺で魔物が繁殖する異常事態だ。こちらからも人を出さないと、後でそこのチンチクリンたちが何を言い出すかわからないだろ」
そう言ったゼグルス様は背を向けて、何事もなかったかのように去っていく。
国王様の話を聞いた以上は、仕方なく……というオーラが滲み出ていて、良い印象は受けない。
「なんか嫌な態度を取られる方ですね」
「完全に同意するが……ゼグルスなりに事態を重く見て、気遣った結果なんだろう。国のために動く姿勢だけは、宮廷錬金術師と言える」
「ん? どういう意味ですか?」
「浄化ポーションを作成するには、付与の工程を挟まなければならない。リオンが手を貸してくれたら、国王陛下の依頼はスムーズに進むはずだ」
あんなに言い合っていたクレイン様が、ゼグルス様の肩を持つんだから、腐っても宮廷錬金術師、ということかな。
わざわざクレイン様と交流のあるリオンくんを手伝いに差し遣わすあたり、口が悪いだけで、意外に気遣いができるタイプなのかもしれない。
嫌な人っていう印象は変わらないけど。
「奴に借りを作りたくはないんだがな」
「わかります。余計に嫌味を言ってきそうですからね」
ただ、早くもリオンくんは納得したみたいで、クレイン様に笑顔を向けていた。
「ドタバタしていてすいません。お世話になります、クレイン様」
「構わん。リオンに頼みたいこともある。ミーアもそれで大丈夫か?」
「あっ、はい。よろしくお願いしますね、リオンくん」
「こ、こちらこそよろしくお願いします。ミーア様」
一時的とはいえ、二人だけしかいない広い工房に人が増えるのは良いことである。
クレイン様とも付き合いがあるみたいだし、私が断る要素は何もない。
何より付与を専門にするリオンくんと一緒に仕事ができて、良い環境が生まれたなーと思うのだった。







