第44話:ヴァネッサのネックレス
ヴァネッサさんの特別報酬と聞き、私は彼女の裏の意図を探ろうとしていた。
「目を閉じている間に、変な契約を結ばされるとかありませんか?」
「嫌だわ。私がそんな酷いことをするはずがないのに。もう、ミーアちゃんったら。おちゃめなことを言うのね」
「似たような前科がありますからね。錬金術ギルドに登録する際、Cランクの契約を結ばされたこと、私は忘れていませんよ」
ちょっとポーションを納品してくれたらいい、と言われただけだったのに、百本も請求されたので、忘れようがない。ましてや、元婚約者と取引していたウルフウッド公爵とのトラブル案件だったと後で知り、肝を冷やした。
先方が喜んでくれたから良かったものの……、本当に心臓に悪い。思い出すだけでもゾッとする。
「今回は心配しなくても大丈夫よ。本当に悪いものではないから」
ヴァネッサさんがお姉さんオーラを放ち始めたので、彼女を信じて目を閉じてみる。
一応、変な契約をさせられないようにと、両手をギュッと握り締めていると、首元に何かがかけられた。
思わず目を開けてみると、そこには可愛らしいデザインのネックレスがあった。
三日月型に形成された魔鉱石に白い宝石があしらわれたもので、ネックレスが白い魔力に包み込まれている。
ヴァネッサさんがいつも身に付けていたものだ。
「私が錬金術をやっていた頃に作ったネックレスよ。ミーアちゃんは運が良いのか悪いのかわからないから、厄除けに持っておくといいわ」
どんな理由ですか、と突っ込みたいが、あながち間違いでもないので言い返せない。私の人生は落差が激しすぎると思う。
「もしかして、これがヴァネッサさんの運の源ですか? このネックレスには【付与】が施されていますよね」
「そうよ。緊急依頼の報酬としては、十分なものでしょう? 邪なものを押し退ける効果があるの」
今の私にピッタリかもしれない。邪な心を持った者からの縁談話が来なくなる……って、さすがにそんな都合の良いことは期待できそうにない。
ただ、有益なものだというのは、すぐに実感した。
良い噂の重圧で心が荒んでいたのに、このネックレスを身に付けてから、不思議と気持ちが安らいでいく。
自分で考えていたよりも、ずっと無理をしていたのかもしれない。
こういった効果を体感すると、付与のありがたみがよくわかる。私が知らないだけで、まだまだ錬金術は未知の可能性が秘めているのだ。
よしっ! 今度の目標は、付与スキルを覚えることにしよう!
スッカリ気分を良くした私は、ちょっとだけ胸を張って、ヴァネッサさんに笑みを向ける。
「どうですか? 似合ってますか? 婚約中はアクセサリーの類を身に付けないようにしていたので、少し違和感を覚えるんですよね」
「大丈夫よ、似合っているわ。ミーアちゃんも貴族なんだから、ちょっとくらいはおめかししないとダメよ」
「そうですね。最近はドタバタしてばかりで、そんなことを考える余裕もありませんでした。これを機に、もう少し服装にも気を使おうかな……」
机に置かれている鏡で自分の姿を確認すると、綺麗な輝きを放つネックレスに目を引かれてしまう。
元Aランク錬金術師のヴァネッサさんが作った、三日月型のネックレス。可愛いデザインで仕上げ、付与まで施されているとなれば、けっこうお高いのではないだろうか。
いくら特別報酬とはいえ、このままもらってもいいのかな。
さすがに悪い……とは思うものの、この機会を逃せば、もう二度と手に入らないかもしれない。そう思うと、ついつい図々しくなってしまう。
「本当に頂いてもいいんですか?」
「遠慮しなくてもいいわ。ミーアちゃんに託したいなーと思っただけだから」
「ん? 託す?」
「ううん、何でもないの。錬金術を引退した私には、もう必要ないだけよ」
相変わらずヴァネッサさんがお姉さんモードなので、今回は本当に善意によるものだと判断する。
ぼったくりで有名なオババ様も、人の厚意は受け取っておけ、と言っていたし、ありがたく頂戴しよう。
「ありがとうございます。遠慮なく報酬として受け取らせていただきますね。ちなみに、これは魔装具に該当しますか?」
「いいえ、魔装具の紛い物よ。私にはそれが限界だったの」
「こんなにも魔力が綺麗に絡み合っていてるのに、魔装具には認定されないんですね」
「ふふっ。やっぱりミーアちゃんには、魔力の流れがわかるのね」
「わかります、わかります。魔力が均一に張り巡らされていて、とても繊細だと思います。まあ、付与スキルはやったことないんですけどね」
「やってみるといいわ。ミーアちゃんならできると思うから」
お姉さんモードのヴァネッサさんに背中を押され、影響を受けやすい私の錬金術魂に火が付いた。
薬草不足が改善される前に、クレイン様に付与スキルを教えてもらおう。そう心に誓うのであった。







