第39話:労いパーティーでは、肉をいただきま……
体調を治すためにいただいた、一週間の休みが終わる頃。今回の魔法学園の遠征実習に関わった人を労うパーティーが、王城で開催されることになった。
冒険者ギルドや錬金術ギルドに所属する人々や、魔法学園に通っている生徒とその親たち、そして、戦い抜いた騎士団員。大勢の人が足を運んでいるため、改めて大きな事件だったと実感した。
「おーっにく♪ おーっにく♪」
もちろん、ポーション作りを頑張った私は、ウッキウキで参加している。なんといっても、昨日まで体調不良が長引いていて、ずっとおかゆ生活を強いられていたのだ。
まともな食事が食べられるのは、実に一週間ぶり。パーティー用のドレスがすんなりと入るほど体重が落ちているため、今日はガッツリ食べると決めている。
婚約者がいない私にとって、もうダイエットは必要ない。少しくらいムチッとしていても、誰も気にしないのだ。
よって、野菜よりも先に肉に手を出そうと決心して、パーティー会場にやってきた。
いくら私が子爵家の人間とはいえ、この場ではただの見習い錬金術師にすぎない。そんな私に声をかけてくる人など、絶対に存在しな――。
「これはこれは、ミーアくん。此度は随分と活躍したと聞いているよ」
一週間ぶりの幸せを味わおうとしているのに、いったい誰が……。と思いつつも、声をかけてきた人を見て、私はすぐに貴族スマイルを浮かべた。
「とんでもございません。色々とご迷惑をお掛けしております、ブルース伯爵」
ジール様と婚約していた時、ポーションの取引をしていたブルース伯爵だ。武家の名門であり、お父様が大変お世話になっているため、頭が上がらない方だった。
「ハッハッハ、昔の取引のことかね。こちらは何も気にしていないよ。それよりも、ミーアくんが錬金術師になっているとは思わなかった」
「自分でもそう思っておりますが、私はまだまだ見習いの身ですので」
「謙遜しなくてもいい。君さえよければ、もう一度ポーションを取引してほしいくらいだ」
「もったいないお言葉をいただき、光栄に思います」
「錬金術ギルドに登録しているのであれば、依頼を出しておくが……」
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく頼むよ」
満足気に立ち去っていくブルース伯爵を見て、私は思った。
どうしてこうなった? と。
お父様と付き合いの深い方とはいえ、私が錬金術師として活動をしていると知って、すぐにポーションを契約してくださるなんて。ジール様との長期契約は、打ち切るつもりなんだろうか。
今後の貴族付き合いを考えれば、私とポーションの取引をしても、ブルース伯爵のメリットは薄い気がするんだけど。
まあ、ここで考えても仕方ない。今は肉を食べて――。
「おお、ホープリル子爵令嬢。こんなところにいたのかね」
「えっ。ウルフウッド公爵……! お、お世話になっております」
肉が食べられない、などという問題ではない。魔法学園の運営に関与されていらっしゃるウルフウッド公爵を前にしたら、皿なんて持っている場合ではないのだ。
ましてや、こちらもジール様と婚約していた時の取引先である。しかも、冒険者ギルドで働いていた時に数えるほどしか会っておらず、ポーションの取引も秘書の方としていて、あまり面識がない。
ハッキリ言って、このパーティーで一番会いたくない権力者だった。
「噂では、宮廷錬金術師の助手として働いているそうじゃないか」
「は、はい。おかげさまで……」
嫌味として言われているのか、素直に褒められているのかわからない。よって、苦笑いを浮かべて様子を見ることしかできない。
しかも、そんな私を追い詰めるかのように、ウルフウッド公爵が顔を近づけてくる……!
「あまり大きな声で言えないが、君が例の件を引き受けてくれた時は驚いたよ」
「例の件……ですか?」
「錬金術ギルドのヴァネッサくんから聞いているだろう? ポーションの契約の件だ」
もしかして、錬金術ギルドに登録した時、ヴァネッサさんに押し付けられたCランク依頼のことだろうか……。
トラブルになりそうな案件と聞いていたけど、相手がウルフウッド公爵だったとは。
ハッ! まさか、元婚約者の私に尻拭いをさせようとしていたってこと!? そんなつもりなら、予め伝えておいてほしかったよ、ヴァネッサさん……!
「その節はどうもご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
「いやいや、色々と何の冗談かと驚きはしたが、今ではスッカリ満足しているよ。今回の魔物の襲撃でも、非常に役立ったと聞いている」
「そうおっしゃっていただけると、ありがたく思います。ポーションが足りないと聞いていたので、不安に思っておりました」
「魔物の襲撃を受けて、大半のポーション瓶が紛失した影響は大きかったね。だが、残ったポーションで命を取り留め、無事に帰還した者もいる。君は良い仕事をしてくれたよ」
そう言ったウルフウッド公爵は、私の肩をポンポンッと軽く叩き、パーティ会場の人混みへと消えていった。
まさか子爵家の私が、ウルフウッド公爵に直接労いの言葉をいただくなんて。クレイン様に助手の話をいただいた時と同じくらい、頭が混乱してしまっている。
今日はいったいどうしたんだろうか。とりあえず、肉を食べて考えよう。そう思っていたのだが……。
まだ騒動に巻き込まれるみたいで、次々に貴族男性が近づいてきていた。
「ミーア嬢、少し時間をもらってもいいかな。今、フリーなんだってね」
「お前、抜け駆けするのは卑怯だぞ。ミーアさん、ちょっと俺と話さないか?」
「彼らのことは放っておいて、僕と一緒に来ることをおすすめするよ」
なぜ興味を抱かれているのか、さっぱりわからない。結婚寸前で婚約破棄をして、私は婚約という呪いから解放されたばかりなのだ。
肉をガッツリと食べるという、貴族令嬢らしからぬ行動が取りたいのに――。
「「「今、婚約してないんだよね?」」」
どうして邪魔をするの! もっと素敵な貴族女性はいっぱいいらっしゃるでしょうが!
「あぁ~……えーっと、ちょっと婚約破棄したばかりでして……。地に足が付いていないと言いますか……まだ考えられないと言いますが……あは、あははは……」
嫌な予感がした私は、サッとその場を後にする。
気遣うばかりの貴族らしい生活から抜け出し、自由に物を生み出す錬金術師の生活を手に入れたのに、また誰かの婚約者になんてなりたくない。
婚約という首輪を嵌められるなんて、二度とごめんだ! 私もヴァネッサさんみたいに自由がほしい!
ひとまず身を隠さなければならないと思い、パーティー会場を飛び出し、王城の裏庭へとやってくる。
すると、そこにはポツーンと一人の人影があった。
「……ミーアか?」
「うげっ! ジール様!」
この世界でもっとも会いたくない元婚約者に対して、思わず「うげっ!」と言ってしまう私なのであった。







