第29話:新種ポーション、誕生する
形成の魔法陣の上で調合したら、見たことないポーションができてしまった。
興味津々な私とクレイン様は、それをジッと見つめた後、顔を合わせる。
「ミドルポーションみたいだな」
「ミドルポーションみたいですね」
意見が被ったので、普通のポーションができたわけではなく、上位変換されたポーションができたと考えるべきだろう。
通常、錬金術のベースとなるポーションは、擦り傷による出血を止め、軽い傷を治癒させる効果がある。
一方、ワンランク上のミドルポーションにもなれば、普通のポーションでは治せない深い傷を回復させる効果があった。
「ミドルポーションに使う薬草は、種類が違いますよね」
「ああ。本来なら、この素材で作れるものではない。おそらく、形成の魔法陣の影響を受けて、薬草の成分が向上したんだろう」
「それを考慮すると、ミドルポーションよりも回復しないけど、普通のポーションよりは品質が良い、という感じでしょうか」
「魔力の含まれる量も違うし、俺はそういう認識でいる。ただ、詳しく成分分析しないとわからないな」
冷静に査定しても、結果は変わらない。普通のポーションではなく、ミドルポーションにちかいものが誕生してしまった。
なんでこんなものができたんだろう。形成の魔法陣の上で、普通に作っただけなのになー……。
「いや、こんなことあります?」
「作った本人が言うな。薬草の成分を形成スキルで向上させた、と考えるべきだろう」
そんなことを言われても……という気持ちになるが、見れば見るほど、このポーションは謎に包まれている。見た目も成分も作り方も、何もかもが普通のポーションと異なっていた。
これもまた悪魔の領域と同じように、ビギナーズラックと言えるのかもしれない。
ただし、今回は決定的に違うことが一つだけある。
「再現性が高そうですよね」
形成の魔法陣の上でポーションを作っただけ。それさえわかれば、この現象が何なのか、解明することができるかもしれない。
「ポーションの材料は残っているな」
「下処理が終わったばかりなので、いくつでも作れます」
「よし、わかった。魔法陣の上で調合する以外に、特別なことはやったか?」
「他に特定の条件はありません。調合と形成の二つの領域内で、ポーションを作成するだけです」
思い立ったが吉日。早速、私たちは魔法陣の上でポーションの作成に取り掛かる。
しかし、そう簡単に作れるものではない。自分の魔力で錬金術をしているのか疑いたくなるほど、形成の魔法陣が妨害してくるのだ。
顔をしかめるクレイン様を見れば、かなり難易度の高いことをやっていたと推測できる。
「こんなにも魔力が干渉する中で、よく調合作業を続けていたな」
「見習い錬金術師を舐めないでください。正しい判断ができないんですから」
「一つだけ言っておくが、ハイポーションの製造よりも難しいぞ」
「まだ上級ポーションの調合経験がなく、形成スキルがうまく扱えない私には、もっと難易度が高いと思いますけどね」
「心配するな。俺よりミーアの方が魔力操作は上手い」
「お世辞はありがたく受け取っておきますよ。どう見ても、クレイン様の方が早いですし」
「経験の差が出ているだけだ」
そのまま必死になって調合を続けるものの、すんなりとは作れない。慣れない作業で集中力が切れやすく、普通に作るよりも魔力消費量が大きかった。
まさか宮廷錬金術師のクレイン様でも苦戦するほどとは、夢にも思わなかったが。
広々とした工房の中、小さな魔法陣の上で調合していると、先にクレイン様が肩の力を抜き、一本のポーションを作り上げる。
しばらくして、私ももう一度ポーションの作成を終えた。
それらのポーションを照らし合わせてみると、最初に作ったものと同じものができている。
「同じものが三本もできたとなれば、確定だな」
「そうみたいですね。改めて作ってみると、思っている以上にしんどかったです」
「見習い錬金術師がやる作業ではない。一本でもよく作り上げたものだと思うぞ」
自分でもそう思う。錬金術に厳しいクレイン様が言うのだから、高難易度の調合作業だったんだろう。
「このポーション、どうしましょうか」
「普通のポーションと同等に扱うべきではない。問題ないとは思うが、人体に悪影響が出ないか確認して、然るべき処置を取ろう」
「よろしくお願いします」
こういう時にポーションの研究をしているクレイン様がいてくれると、とても助かる。
「あとは違う素材でも同じことが起こるのか、形成スキルと調合スキルを多重展開できるのか、という部分がポイントでしょうか」
「前者については、できる可能性が高い。形成の魔法陣が魔力の干渉をしてくるが、悪影響を及ぼしていない気がした」
「同意見です。作りにくくなるものの、薬草の成分を悪く変性しているような印象は受けませんでした」
すべて錬金術で上位互換できるかどうかは、やってみないとわからない。難易度が上がるのは間違いないけど、やってみる価値はある。
「後者については、わからないな。形成と調合のスキルを同時に使うなど、考えたこともなかった」
「このまま魔法陣を使う形だと、高ランクの素材でアウトになりますよね」
「あくまで魔法陣は形成スキルの感覚をつかむための補助道具だからな。Cランク以上の素材を使おうとすれば、何も反応しなくなる」
未だに形成スキルが使えない私にとっては、どうしようもない。まずはスキルを身に付けないと、先に進めないような状態だった。
「まあいい。現段階でわかったことだけでも、かなり有用なことだ。あとは何度も挑戦して、少しずつ問題点を探り出していくぞ」
キリッと身を引き締めているクレイン様には悪いが、私は新種のポーションを開発していたわけではない。ヴァネッサさんに押し付けられた依頼をこなしていただけである
「ちょ、ちょっと待ってください。これは私の依頼をこなすための薬草なので、実験する余裕はありませんよ」
よって、ポーションの下準備はしてあるものの、これを使って実験するのは避けたかった。
「それもそうか。わかった、俺が買い出しに行ってこよう」
クレイン様は物分かりが良くて助かる……と言いたいところだが、さすがに買い出しに行かせるわけにはいかない。宮廷錬金術師が買い出しに行って、助手が工房で仕事するなんて、前代未聞の珍事になるだろう。
つまり、私が買い出しに行くしかなかった。
「クレイン様はポーションの研究を続けてください。私が行ってきます」







