第27話:絶望への階段(ジール側5)
錬金術師ギルドを後にしたジールは、追い込まれたようにうつむき、早足で歩いていた。
街には自分の悪い噂ばかりが流れていて、周りには敵しかいない。やっと良い噂が流れていると思ったら、自分が突き放したミーアを称賛するものばかり。
それがどうしようもなく惨めに感じて、苛立ちが加速してしまう。しかし、今の自分ではどうすることもできなかった。
現状を打破するには、買い込んだ薬草でポーションを作り出すしかない。見返す方法は、それだけだ。
そんな思いで自分の店まで戻ってくると、三人の騎士の姿が視界に入り、ジールは物陰に隠れる。
「ジール・ボイトス殿! 店にはおられぬのか!」
騎士団との大型契約も納期が遅れているため、わざわざ三人の騎士が取り立てに来ているのだ。
「いったいどうなっておる。ポーションの契約を結んだばかりだというのに、期日が過ぎても納品に来ないとは」
「何か問題が起きたとしても、普通は事情を説明した上で半分くらいは納品するぞ。どうにもヤバそうな奴だな」
「婚約者に捨てられたって噂もありますからね。本当は仕事ができない無能な男だったんじゃないっすか? この店、潰れた雰囲気があるっすよ」
ガラス越しに店を覗く騎士に見えているのは、商品がまったく並んでいない空き家のような光景。
それが今のジールの状況を、一番正確に表していた。
「夜逃げするほど馬鹿ではないと思うが……。一度、錬金術ギルドに問い合わせてみるか」
騎士が去っていった後、ジールはコッソリと裏口から店の中に入る。
本来なら、そこに納品時期が近いポーションを置いているのだが、今はガランッとしていて何もない。
雇っていた従業員にも早々に見切りを付けられ、店内はシーンッと静まり返っていた。
そんな悲惨な状況に耐えられず、思わずジールは壁に拳を叩きつける。
「クソッ! 下っ端の三流騎士どもが、好き放題言いやがって! 天才の俺様が無能なわけないだろ!」
プライドの高いジールにとって、ただの一兵卒に見下されるのは、我慢できるものではなかった。
「これ以上、ポーションの契約を打ち切られるわけにはいかない。何とかスランプを抜け出せば、まだやり直せる。大丈夫だ、俺は天才なんだから」
いったん心を落ち着け、荒れ果てた工房を掃除していると、不意に裏口から物音が聞こえてくる。
恐る恐る誰が来たか確認すると、そこには大量の薬草を抱えたカタリナの姿があった。
薬草さえあれば、何度でもポーション作りに挑戦ができる。今まで稼いだ金があれば、薬草なんて山のように買える……はずだった。
「ジール様……。これで、最後らしいです」
「は? 何を言ってるんだ?」
「販売できる薬草は、これで最後らしいですぅ……」
半泣きのカタリナの姿を見て、嘘を言っているわけではないと、ジールは察する。
「どうしたんだ? 今は雨期でもないし、王都にはいくつもの薬草園がある。こんな時期に薬草が不足するはずないだろ」
「でも~、いろんな店に目を付けられちゃってるみたいで、これ以上は買えそうにないっていうか、店頭にも薬草が並んでないっていうか……」
何が起きているのかわからない。少し前にカタリナと買い出しに行ったときは、初めての店でも問題なく買えていた。
それなのに、どうして急にこんなことに……。
「顔を見ただけで追い出してくるところもあったんですよ~。お前らのせいだ、って言われて~。どうして私が怒られないといけないんですか~」
お前らのせい……? その言葉と共に泣きつくカタリナの姿を見て、ジールは恐る恐る振り返る。
そこには、掃除したばかりの薬草の残骸が大量に溢れていた。
――まさか俺が薬草を買い占めた影響で王都が薬草不足に? いや、そ、そんなはずはない。たった一人の錬金術師が大量に消費したくらいで、深刻な事態に陥ることなどあるはずが……。
しかし、現実を突き付けるようにカタリナが泣きじゃくっている。
「ぐすっ、騎士団にポーションを納品しなくちゃいけないって言って、ぐすっ、無理やり買ってくることしかできなくて~……」
心を落ち着かせたい気持ちと、現実逃避したい気持ちが重なり、ジールは冷静でいられなくなってしまう。
カタリナが騎士団との契約まで持ち出して、貴重な薬草まで買い込んできたとなれば、もう後戻りはできなかった。
これでポーションが作れなかったら、王都に居場所はない。それどころか、罪に問われる可能性が出てくる。
その重圧と焦りから、思わずジールは手が震えていた。
「ジール様、本当に大丈夫なんですよね? ポーション、作れるんですよね?」
「あ、当たり前だろ。俺は天才錬金術師……なんだからな」
「そう、ですよね。ジール様は、天才ですもんね……」
今となっては、天才という言葉が虚しい。口では肯定していても、もう心は付いてこなかった。
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