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【漫画3巻発売中】蔑まれた令嬢は、第二の人生で憧れの錬金術師の道を選ぶ ~夢を叶えた見習い錬金術師の第一歩~【Web版】  作者: あろえ
第一部

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第26話:失われる希望(ジール側4)

 時は少し遡り、ミーアが形成スキルの練習に励んでいる頃。


 錬金術ギルドを訪れたジールは、暇そうに爪を磨くヴァネッサに向けて、頭を下げていた。


「頼む! 少しだけポーションの納品を延期してくれ!」


 ポーションが作れなくなった影響は大きく、店に商品を並べることも納品することもできず、早くも廃業状態。このタイミングで取引している契約が打ち切られたら、収入源が断たれてしまう。


 すでにウルフウッド公爵との契約は打ち切られたジールは、何としてでも既存の契約だけは守りきりたかった。


 たとえ、自身のプライドと経歴に傷がついたとしても。


「あら~、ちゃんと頭を下げられて偉いわね。でも、元々態度の悪い錬金術師は目立っちゃうから、誰も仲介したがらないと思うわ」


 前回、錬金術ギルドで悪態づいたジールに、関わりを持ちたいと思う者はいない。王都に流れる噂の一つ『人の心を持たない最低な男』というのを、自分で証明してしまったのだ。


 しかも、ジールを担当したその受付嬢が辞めているのだから、錬金術ギルドも悪い意味で注視するのは、当然のこと。


 ジール(厄介者)の厄介事には、然るべき人間が対応する必要があるため、サブマスターのヴァネッサが仕方なく対応する羽目になっていた。


「品質の良いポーションだけが取り柄だったのに、それがなくなっちゃったらねー。Cランクの……えーっと、誰だっけ? ボールさん?」

「……ジールだ」


 とぼけたようなヴァネッサの言い間違いを聞き、錬金術ギルドのギルドマスターに一目を置かれている俺の存在を知らないのか? と、ジールは反発したかったが、グッと堪えた。


「あぁ~、ジールさんね。納品の延期理由を教えてもらってもいいかしら。取引先に説明しないと、錬金術ギルドの信用に関わるの」

「い、言えない。だが、もう少し待ってくれれば、いつも納品しているポーションよりすごいものを作ってみせる。それだけは約束しよう」


 錬金術に本気で挑み続ければ、あっという間にスランプなんて脱出できると思っていたが、現実は甘くない。


 口では大層なことを言っていても、ポーションが作れる保証など、どこにも存在しなかった。


 眠ってしまった才能が開花することはなく、こうしてポーションの納品日を迎えているだから。


 ――とにかく今は時間を稼がなければ。天才錬金術師である俺の頼み事なら、錬金術ギルドも無下にはできないはずだ。


 ジールはそう思っていたのだが……。


「じゃあ、契約解除を前提に話を進めるわね。あとは持ち込んでくるポーション次第で、再契約を結ぶか考えるわ」


 無情にも、ヴァネッサにアッサリと契約解除を言い渡されてしまう。


 これには、へりくだった態度を取っていたジールも、さすがに我慢できなかった。


「はあ? 横暴だろ! そんなに簡単に契約を打ち切っていいはずがない!」

「ギルド経由で結んだ契約なんだから、あなたが納得するかどうかは関係ないのよ。正当な理由もなく納期が遅れている時点で、契約違反は確定しているの」


 ヴァネッサの言い分は真っ当だった。錬金術ギルドで定められた規則に基づいて、正しく対処している。


 それがわかっているからこそ、ジールは何も言い返すことができず、イライラし始めてしまう。


「少しくらいはいいだろ! 俺はBランクに昇格する話も出ている錬金術師だぞ! 次世代を代表する人間に、こんな扱いをしてもいいと思っているのか!」


 自分は特別な存在であり、天才錬金術師だ。もっと敬うべきであって、決して無下な扱いをされるような人間ではない。


 強く取り乱したジールは憤るが、ヴァネッサには関係ない。迷うことなくそれを否定する。


「寝ぼけているのね。次世代を代表したいのなら、最低でもBランクになってから言ってちょうだい。君みたいな人材はゴロゴロといるのよ」

「どっちが寝ぼけているって言うんだ! 俺ほどの若さでBランクに挑戦しようとする者は――」

「生涯現役で過ごす人も多いから、錬金術師に年齢なんて関係ないわ。もちろん、早熟して腕が伸びなくなり、哀れな姿を見せる人もいるけど……?」


 ヴァネッサに哀れみの視線を向けられ、ジールは冷静でいられなくなってしまう。


 自分が一番気にしているデリケートな悩みに、いとも簡単に踏み込まれているのだから。


「違う! 俺は天才だ! 次世代を代表する天才錬金術師だぞ!」

「よく覚えておくといいわ。天才などこの世に存在しないって。多くの人間にはできない努力を積み重ねた者が、天才と呼ばれるにすぎないの。自分で次世代とか天才だと名乗っている時点で、オママゴトと同じよ」

「このクソババアが……!」

「すごーいポーションを作ってきてから言うことね、ぼくちゃん。まあ、君にポーションが作れたら、の話だけど」


 すべてを見透かされているようなヴァネッサの視線と言葉に、ジールの胃がキリキリと痛み始める。


 ポーションが作れない、そのことを突き止められるわけにはいかない。錬金術ギルドの評価が下げられたら、すべての契約に影響を及ぼしてしまう。


 これ以上ヴァネッサと関わるべきではないと判断したジールは、余計なことを言う前に錬金術師ギルドを後にする。


 焦りと悔しさが滲み出るその表情を見た周囲の人々から、蔑むような視線を向けられながら。

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