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【漫画3巻発売中】蔑まれた令嬢は、第二の人生で憧れの錬金術師の道を選ぶ ~夢を叶えた見習い錬金術師の第一歩~【Web版】  作者: あろえ
第一部

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第22話:ミーアとクレイン1

「ふんーっ! ふんーっ!! はぁ……無理です」


 奇跡的に【悪魔の領域】を展開した私は、早くも再現を断念していた。


 相変わらず形成領域すら展開できないのに、もっと難しいことができるはずもない。いわゆるビギナーズラックというもので、本当に奇跡的にできたものだったんだろう。


「やはり無理か。ミーアが本格的に錬金術に携わってから、まだ一週間しか経っていない。当然のことではあるんだが……一度でも成功しているのなら、な」


 期待の眼差しで見つめられても困る。形成の魔法陣を取っ払った私は、魔鉱石を握り締めることしかできない脆弱者なのだ。


「無茶なことは言わないでください。形成スキルが使えない私は、魔法陣がないと魔鉱石がビクともしないんですよ」

「本当に形成領域の展開を意識してやっているのか?」

「もちろんです。逆に手を抜く意味があると思いますか?」


 ふんーっ! という気合いの入った私の声だけが工房内に鳴り響き、とても虚しい。こんな思いをするくらいなら、形成領域の一つや二つはパパッと展開したいものである。


「よく思い出してみろ。どうやって悪魔の領域を展開したんだ」

「どうと言われましても、クレイン様に言われたことを意識して、エイッてやっただけです」

「そんな簡単なことではないんだぞ。世界中の錬金術師が目標としているというのに」

「そう言われましても……」


 すごい剣幕で突っかかってくるクレイン様を前にして、思わず私は一歩引いてしまった。


 それに気づいたのか、クレイン様は気まずそうな表情を浮かべる。


「すまない。つい嫉妬して、熱くなってしまった」


 普段のクレイン様を知る限り、ここまで取り乱すような人ではない。錬金術に情熱を費やしているからこそ、気になって仕方がないんだろう。


「若き天才と言われたクレイン様でも、嫉妬されることがあるんですね」

「周りからはそう見えているのかもしれないが、錬金術に挫折はつきものだ。とんとん拍子にうまくいった経験など、今までで一度もない」

「そうなんですか? 最年少で宮廷錬金術師に就任しましたし、とても華やかな道を歩んでいるイメージがありましたけど」


 私の記憶が正しければ、およそ一年前のこと。まだ冒険者ギルドの受付として働いていた頃に、不治の病に侵された王女をポーションで助けたクレイン様は、宮廷錬金術師に抜擢された。


 知識や経験がものをいう錬金術の世界で若き才能が開花した、と国王様が大絶賛。王都で大きな話題になり、絶対的な地位を築き上げたと思っていたが……、本人は良い気持ちではなかったのかもしれない。


「錬金術に年齢など関係ない。失敗しても挑戦し、試行錯誤を繰り返す力さえあれば、遅かれ早かれ成功する。それを気づくことができたのは、ミーアのおかげなんだ」


 突然、自分の名前が呼ばれ、キョトンッとした情けない顔になってしまう。


「私、何かやりましたっけ?」


 しかし、クレイン様も似たようなもので、言うつもりはなかったらしく、珍しく口元をモゴモゴさせていた。


 ふと言葉が漏れ出てしまった、そんな印象を受ける。


「今だから言えることなんだが……。三年前、ポーションの研究に行き詰まった俺は、錬金術の世界から足を洗おうと考えていた時期があったんだ。その時、ミーアに出会っていなかったら、今頃ここにはいないだろう」


 衝撃的なことを聞かされた私は、言葉が出てこなかった。


「ちょうどミーアが貴族担当になった頃、俺は錬金術師として自信を失っていた。専門分野と言えるものがなく、何をやっても中途半端なものしか作れない。その思いが大きくなっていき、魔力操作に支障をきたすようになったんだ」


 錬金術は精神的な影響を受けやすい、と聞いたことがある。


 緊張してうまく作れなかったり、苦手意識を持ちすぎて失敗したり、心が追い込まれて魔力操作が拙くなったり。


 最初は僅かな影響かもしれないが、徐々に状態が悪化していき、錬金術ができなくなるそうだ。


「挙句の果てには、簡単なポーションを作成しても品質が不安定になるほど、レベルを落としていた。もはや、錬金術ギルドで依頼を受けられる状態ではなかったため、冒険者ギルドにポーションを持ち込んだら、ミーアが対応してくれたんだ。そこから変わり始めた気がする」


 クレイン様に出会った時のことは、私もよく覚えている。冒険者ギルドで初めてポーションの査定をさせてもらった人が、クレイン様だったから。


 まあ、良い思い出かどうかは別にして。


「ポーションのことについて、質問責めにした記憶があるんですが……」

「そうだな。ポーションの作成について聞かれるとは思わなくて、最初は俺も戸惑ったぞ。基本的な質問をされたり、高度な質問をされたり、問題点を指摘されたりと、とにかく不思議な体験だった」


 当時、クレイン様の事情を知らなかった私は、持ち込まれた品質のバラついたポーションを見て、まったく違う気持ちを抱いていた。


 オーガスタ侯爵家の人がわざわざ冒険者ギルドにポーションを持ち込むのなら、何か意図があるに違いない。


 最高級のポーションや買い取れないほどの粗悪なポーションが紛れていたため、ポーションの研究をされている方なんだと、勝手に思い込んでいたのだ。


 色々な作り方を知っている錬金術師なら……と、無礼を承知で疑問に思ったことをすべて聞いていた。それなのに、まさか不調に悩まされていただけだったなんて。


 本当に無礼な行為すぎて、今頃になって手が震えてくる。


「その節はご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳ありません」

「いや、当時の俺はそれで救われた。一緒に悩んでくれているように感じて、もう少し続けてみようと思うことができたんだ。次第に、感覚だけで錬金術をやっていたと理解して、理論やデータを取り入れ、苦手意識を克服することもできている」


 良い方向に向かったのなら、それはそれで良しとしよう。このことは黒歴史として封印し、二度と表に出てこないように願うしかない。


 まあ、何が一番怖いかって、クレイン様がポーションの研究をする原因を作ったのは、私なんじゃないかと思えることだ。何度もポーションのことを話していた結果、研究が進んで宮廷錬金術師になったなんてことは……。


 いや、まさかね。そんなはずは……ないよ。ハハハ、ないと思おう。うん、絶対にない。


 そう言ってほしいと思いながらも、聞くのが怖くて、私はこれ以上深く踏み込めないのであった。

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