第20話:形成スキルの練習を開始!
「今日から鉱物を加工する【形成】スキルの練習に入る。準備はできたな?」
予定よりも早くポーションを作り終えた私は、クレイン様に新しい錬金術のスキルを教えてもらおうとしていた。
でも、とてもダサイ格好に納得がいかない。
「この大きな保護メガネとマスク、およびエプロンは本当に必要なんですか?」
錬金術師の服装は、清潔であれば何でもいい、というのが一般的だ。汚れたら自己責任ということもあり、今まで何も言われたことはない。
それなのに形成スキルを練習するとなった途端、汚れないような完全武装をさせられていた。
「コツをつかむまでの辛抱だ。鉱物を加工する際に液状化して、顔に付着させる者が多い。形成スキルが身についていない状態では、自分で取ることは不可能だぞ」
「それは困りますね。一応、貴族の身なので、顔に鉱物を付けたままウロウロしたくはありません」
「作業途中に頭を触り、鉱物で髪をカピカピにさせる者もいる。気を付けてくれ」
「作業用帽子も欲しくなるようなことを言わないでください」
「用心するに越したことはない。形成スキルを身に付けた者が待機していても、目に入って失明する事故が年に何度か起きている。ポーションがあるとはいえ、完治するかは別の話だ」
「……保護メガネ、大事にします」
「それでいい」
ちょっぴり怖くなったので、保護メガネとマスクがズレていないか確認する。
サイズが少し大きく、似合っていないような気がするが、我慢しよう。工房内にはクレイン様しかいないし、他の人に見られることはない。
私の気持ちが落ち着く頃、クレイン様が机の上に一つの巻物を敷いてくれた。
「これが形成の魔法陣だ。口頭で説明するよりも、実際にやってみた方が早い」
「そんなアイテムがあるんですね」
「先人の知恵だな。魔法陣の中心に魔鉱石を置いて、軽く魔力を流すだけでいい。あとは勝手に魔法陣が魔力を制御して、形成領域を展開してくれる」
クレイン様に言われた通り、魔鉱石を魔法陣の中心にセットして、魔力を流してみる。すると、魔法陣が起動して、体が宙に浮くような不思議な感覚に包まれた。
「うわっ、すごい違和感がありますね。小さい頃に馬車酔いした感覚と似ています」
「魔法陣で発動させる形成領域は、あくまで感覚をつかむためのものだ。魔法陣の魔力と自分の魔力を同調させ、無理やり形成領域を展開させる分、不快な症状が現れることはある」
「早く形成スキルを身に付けないと、これがずっと続くということですね。恐ろしい修行法ですよ」
「そう思うのなら、早く練習を始めてくれ。もう少し魔力を流せば、魔鉱石を加工できるだろう。思っている以上に簡単に変形させられるはずだ」
硬い魔鉱石をつかみ、グッと力を入れてみるが、何も変わらない。しかし、徐々に魔力を流していくと、突然、グニャッと柔らかい粘土のように形が崩れた。
「うわっ、新感覚ですね。硬い魔鉱石がグニャグニャしま……痛ッ」
「油断するなよ。あくまで魔鉱石は鉱物だ。魔力が流れていない部分は、普通に硬い」
「早く言ってください。もっと万能なものかと思っていましたよ」
「魔法陣は感覚をつかむだけのものだと言っておいただろ。簡単な形にしか変えられないし、高ランクの素材には使用できない。作りたいものがあるのなら、早くスキルを身に付けることだな」
そう言ったクレイン様は、魔鉱石を片手に持つと、形成領域を展開。魔鉱石を自由自在に操り、アッサリと別の形に変えてしまう。
鋭いクチバシに、バタバタと動きそうな手、そして、この愛らしいフォルムは……!
「ペンギンですね」
「専門分野ではないが、これくらいなら簡単にできる。まずはアクセサリーと言わず、置物を作るべきだな」
コトンッと机の上にペンギンが置かれると、今にも動きそうなほどリアルで、精妙に作られていた。
これで専門分野外と言うのだから、やっぱり宮廷錬金術師は侮れない。
魔法陣の上でぎこちない動きしかしない私の形成スキルとは、全然違う。
「一つだけ気になるんですが、ペンギンはお好きなんですか?」
「この辺りでは生息しない生物だ。一度は生で見てみたいと思っている」
「なんとなく気持ちはわかります。可愛いですもんね」
「俺は癒し目的ではないぞ。ただの好奇心だ」
少し恥ずかしそうにするクレイン様を見て、人類は皆、可愛いものに弱いと悟った。
ひとまず、私もペンギンを作ることを第一目標にしようかな。クレイン様の作ったペンギンの隣に、私が作ったペンギンを置いてみたい。
「このペンギンはいただいてもいいですか?」
「構わないが、ただの置物にしかできないぞ」
「目標にするものが近くにあった方が、頑張れそうな気がしまして」
「……工房の外には持ち歩かないでくれ。それが条件だ」
「わかりました」
やっぱり恥ずかしそうにするクレイン様を見て、私は思った。
きっと可愛い置物を見せた方が女性はやる気が出ると考え、作製してくださったのだろう、と。
厳しい一面はあるけど、とても優しい方なのは間違いない。
だから、私も期待にこたえられるように、しっかりと形成スキルを身に付けよう!







