第11話:狂い始める歯車(ジール側2)
ミーアが父親と婚約破棄について話し合っている頃。
久しぶりに錬金術ギルドを訪れたジールは、受付カウンターでギルドカードとポーションを提出していた。
「Bランク錬金術師の昇格試験用ポーションを提出しに来た、ジール・ボイトスだ」
「あぁ~……、あのジール様ですね……」
本来なら『若くしてBランク錬金術師の昇格試験を受けるあのジール様』と、認識するだろう。しかし、受付嬢の軽蔑するような眼差しは、それとは違った。
王都で悪い噂が流れているあのジール様、なのである。
幸か不幸か、錬金術ギルドにジールが足を運ぶのは、Cランク錬金術師に昇格して以来のこと。こうしてポーションを納品する際は、いつもミーアに足を運ばせていたため、錬金術ギルドでの印象も最悪だった。
――まったく。どいつもこいつも馬鹿にしやがって。悪いのはホープリル家だと噂を流したはずなのに、どうして俺が悪者扱いされなきゃならないんだ。
ミーアとの騒動があったその日、すぐさまジールは金を使い、悪い噂を流した。しかし、実際に自分の耳に入ってくる情報は全然違う。
人の心を持たない最低の男だの、ボイトス家は落ちぶれただの、出来損ないの錬金術師だの。
挙句の果てには、捨てられたのはジールの方、と言われ始めているのだから、我慢できるはずもない。
「あ? 文句あるのか?」
思わず、ジールは受付嬢を睨みつけた。
「い、いえ、そういうわけでは……」
「それならグダグダ言わずに早く手続きしろよ、ノロマが! どっかの足手まといだった女と一緒で、役立たずの人間がいると仕事にならないんだよな!」
ジールは平然とした態度を取っているつもりだが、焦る気持ちを隠しきれていない。言葉がとげとげしく、苛立ち表すように机をトントントンッと指で軽く叩き始めた。
豹変したジールに怯える受付嬢が急いで手続きを始めると、ギルドの奥から一人の老人が近づいてくる。
その人物を見て、ハッと我に返ったジールは、背筋をビシッと伸ばした。
「婚約破棄したと噂になっているが、大丈夫なのかね」
錬金術ギルドのギルドマスターである。
わざわざギルドマスターが受付カウンターに足を運び、話しかけてくる機会など滅多にない。ジールが直接言葉を交わしたのも、これが初めてのこと。
やはり自分は一目を置かれている錬金術師で間違いない、そう思うには十分だった。
「出鱈目な噂ばかりで困っていますが、仕事とプライベートは分けていますので、問題ありません。俺、いつでも冷静なんで」
「君のことなど心配しておらん。錬金術の腕が落ちないか、と聞いておる」
「……どういう意味ですか?」
「錬金術師の活動を始めた時から、婚約者を助手にしていたのであろう? 彼女の手助けなしで、錬金術ができるのかね」
ギルドマスターに言われた言葉の意味を、ジールは深く理解できなかった。
婚約者だったのなら、手伝うのは当然のこと。自分の錬金術とは、何の関係もない。
「ちょっとした雑用を手伝わせていただけです。今まで納品したものは、すべて俺の実力ですよ」
「自信を持つのは良いことだが、決して慢心するでないぞ。錬金術はシビアなものであり、助手が代わるだけでも影響を及ぼす者が多い。魔力を使った作業を任せていたとしたら、致命的な影響が出かねん」
真剣な表情で訴えかけてくるギルドマスターに、ジールの心は震えていた。
ミーアに錬金術の雑務を教えてやったのは、自分だ。悪影響など出るはずがない。むしろ、その逆。すべて自分でやれば、最高品質のアイテムすら作れるかもしれない。
ギルドマスターが注目している今、人生最大のチャンスが訪れているのだ。
「あまり笑わせないでくださいよ。今日が技能試験用のポーションの最終受付じゃなかったら、もっと良いポーションを納品できました」
「早くも言い訳かね」
「いえ、純粋な事実です。今後のポーションの納品で、あっと驚かせて差し上げますよ」
「別の意味で驚かなければいいんだがな」
ギルドマスターと会話している間に、昇格試験の手続きが終わると、ジールは意気揚々と錬金術ギルドを後にした。
鋭い目つきでジールの作ってきたポーションを見つめる、ギルドマスターに気づくことはなく……。
「続きが気になる」「面白い」「早く読みたい」など思われましたら、下記にあるブックマーク登録・レビュー・評価(広告の下にある☆☆☆☆☆→★★★★★)をいただけると、嬉しいです!
執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。







