天下一舞踏会
「さあ今年も始まりました天下一舞踏会! 27回目となるこの大会ですが、年々レベルが上がってることもあり予選から既に目が離せません!」
このパイパイヤ島では毎年、天下一を競い合う闘いが繰り広げられている。
世界中から我こそは最強と自負する猛者たちが集まっていることもあり、会場全体がピリピリとした空気に包まれていた。
そんな会場の前で、似つかわしくないという意味で悪目立ちしている男女の二人組が、何やら問答をしている。
「……おい橘書記、これはどういうことだ?」
「見ての通りです会長。ここはかの有名な天下一舞踏会の会場です」
「ゆ、有名なのか!?」
「ええ、鶴見家のお嬢様である会長でも、耳にしたことくらいはあるはずですよ」
「いや、ないんだが……。強いて言えば武道会ならあるが、これは舞踏会なのだろう?」
「そうですが、何か問題でも?」
「問題しかないだろう!? まさか、私をこれに参加させるつもりか!?」
生徒会書記である橘は、これまでも度々会長である鶴見に厄介事を持ち込んでいた。
鶴見はその度に持ち前の体力で強引に何とか対処していたが、今回ばかりは厳しいかもしれないと焦りを覚えている。
何故なら鶴見は、踊り――ダンスが大の苦手だったからだ。
鶴見家は鶴見流柔術を代々継承しているため、これならまだ武道会であった方がマシだったと思っている。
「厳密には会長だけでなく、私も参加します」
「っ!? まさか、ペアダンスなのか!?」
確かに、技術を競い合う大会なのであれば競技ダンスである可能性はあった。
しかし、競技ダンスは男女のペアでするものなので、個人技だけではどう足掻いても勝ち残ることは不可能である。
仮に橘が一流のダンサーだったとしても、ペアでの練習をしていない以上予選を突破することすら難しいだろう。
「……? ペアではありますが、ダンスではありませんよ?」
「は、はぁ? いや、でもこれは、舞踏会なのだろう?」
「ええ、文字通りの舞踏会です。この大会は、いかにパートナーを美しく踏み、それを愛で受け止められるかを競う大会ですよ」
「な、なんだってぇぇー!?」
確かに舞踏という字は舞い踊るではなく舞い踏むと書くが、いくらなんでもこじつけが過ぎる。
「蝶のように舞い、蜂のように踏む。会長ならできるはずです。そして私も、それを愛で受け止める覚悟があります。さあ、一緒に踏み入りましょう! 絢爛舞踏の世界へと!」
「イ、イヤァァァァァァッ!!」
なんだかんだ二人は予選を突破し、本戦三回戦まで勝ち進んだのだとか。




