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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二章(リーフ邸の皆とレオン、ドノバンとの出会い、モルトとニールの想い)

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(モルト)95 モルトからみたリーフ様

(モルト)


『変わり者のリーフ様』


リーフ様といえば、学院は勿論、街でも100%この答えが返ってくる。


俺、モルトがリーフ様に初めて出会ったのは、小学院の始まる一ヶ月ほど前。

以前から、体が弱い公爵家の次男が療養目的でこの街に一人で暮らしている────と言う話は両親から何度も聞かされていた。

そしてその度に、「くれぐれもその方の機嫌を損ねるな。」「命令には絶対に従え。」と真っ青な顔で最後に言われる。

ニールも同様に両親にそう言われている様で、俺達は内心嫌で嫌で仕方がなかった。

しかし────身分が重んじられるこの国では、上の身分の者達にどんなに理不尽な事をされてもただ耐えるしか無い。

どうにかしたくても、身分はどんなに努力したところで絶対に変わらず、貴族同士の関係性も変わらないからだ。


俺の家は貴族と言っても平民に毛が生えた程度の男爵家、そして公爵家はその遥か上にいる存在であった。

そんな公爵家のご子息様のご機嫌を万が一でも損ねたりすれば、男爵家の俺など直ぐに首を飛ばされる……いや、一族全員極刑にされてもおかしくはない。


『自分の行動一つが家族の命を奪うかもしれない。』


そんな大きすぎるプレッシャーに毎日押しつぶされそうだった。


リーフ様とのお目見えが近づくにつれて、その恐怖はジワジワと大きくなっていったが、だからといってどうすることも出来ず、とにかく俺は俺にできることをするしかない。


『リーフ様の命令には全て従う。』


『言動や行動には細心の注意を払う。』


現状出来ることはそれのみであったため、ニールと共にそれは徹底しようと誓いあった。


そしてとうとう教会へお祈りに行く日、リーフ様と初めての御目見の日がやってくる。


公爵家など、きっと他の高位貴族達同様に凄く嫌なやつに違いない。

いや、それに輪をかけたようなろくでもない奴だろう。


そう予想しながら初対面を迎えたが、その第一印象は一言で言えば、『普通』であった。


平民に多い茶色い髪に緑の瞳、そしてぱっと見たくらいでは全く印象に残らない平凡な顔立ち……。

貴族が持つ独特の威圧するオーラもない。

これでは公爵家どころか男爵と言われても信じてくれる人はいなさそうなくらい『普通』の外見と雰囲気の人だった。


俺とニールは思わず戸惑いが顔に出てしまいそうになっていたが、慌てて気を引き締める。


外見など関係ない。

結局は公爵家という身分が重要なのだから。


俺達は警戒を決して解かずに、背筋を伸ばし何度もシミュレーションしてきた挨拶を口にした。


「「おはようございます!リーフ様!!」」


ニールとハモった無難な挨拶……これは成功。

しかし、ここからが第二難所。

リーフ様が退屈しないよう、それでいて気に障る事のないように話題を提供し続けなければならない。


まだリーフ様のお好みも分からない中、ここでの話題として一番無難なものは家業に関する話だろう。

それがいかに自身の家の発展に役立つかによって興味を持って貰えるかもしれないし、そこに有用性を見出して下されば多少無礼を働いても許して貰えるかもしれない。


話題はニールと交代で、とにかく話題を切らさない。

どんなに家業をバカにされても悔しいが耐えよう、そんな心構えで挑んだのだが────……?


「お花は咲くまで根気がいるからね〜。俺チューリップなら割と得意だよ。」


「ヤギの乳搾りなら毎日してたよ。牛は大きいからお世話が大変そうだね。」


「「?????」」


かなり庶民的というか……まるで経験したことがあるかのような物言いをされてしまい面を喰らう。

恐らく冗談の類だと思うが、とにかく思ったのと違った。


『貴族の癖に土いじり。』

『田舎の貴族もどき』


社交の場に出ればこぞって言われる言葉達だが、そんな侮辱的な言葉はリーフ様の口から飛び出すことはなく、きちんとこちらの想いを尊重した言葉を返してくれる。


なんだか貴族らしくないひとだな……と思った。

それに加えてリーフ様はいわゆる聞き上手というか、よく分からない事を言ってはくるものの、不思議なテンポとタイミングで、あっという間にそのペースに乗せられてしまう。


なんだか同世代と話している気がしない。

不思議な人だ。


そう短い時間ながら思っていると、ニールと共に頭を撫でられた。


「????」


驚いて思わず撫でられた頭を自分でも擦り、首を傾げる。

こういった接触は初めてで戸惑いがあったが……それと同時に、自分の大事にしている家業と今までの努力を認めてくれた様に感じた。


思わずニールと顔を見合わせてしまったが、その直後じわじわと湧く感動に身を震わせた。

嬉しい気持ちと安堵する気持ちのまま随分と饒舌になってしまい、『当たり障りなく』を忘れペラペラと話したい事をお喋りしていると、あっという間に教会の前へと到着してしまう。


『いつの間に……。』


『もう少し話したかったな。』


そんな消化不良の様な気持ちを抱いたが、教会へ入る際は雑念を消さねばと、ニールと共々シャンと背筋を伸ばしリーフ様を連れて中へと入って行った。


俺とニールの家は、教会をとても大事にしていて毎年行われる行事には必ず参加するし、毎週のお祈りも欠かさず行っている。

そのため教会は勝手知ったる場所であるのだが、リーフ様は初めて来たのだろうか?物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回していた。


その様子にニールと共にぷぷっと小さく笑いそうになったが、それは隠してリーフ様をイシュル神の像の前まで案内し、そのままいつもどおりに祈りを始める。

今後仕えるリーフ様が嫌な奴じゃなくて本当に良かった。

そのことに感謝を述べていた────その時だった。


────ゴローンゴローン!!


イシュル神の像の上に設置されている鐘がひとりでに鳴り始めたのだ!


それにざわつき始める周りの人達と同様に、俺達も驚きお互い目を合わせたが……間に挟まれているリーフ様は全く動じていない様子であった。


「ありえない……。」


驚き狼狽える俺が鐘が鳴ったことに対してそう呟くと、リーフ様はキョトンとした顔をしながら「?何があり得ないんだい?」と尋ねてくる。

 それに答えようと口を開こうとしたその前に、ニールが教会の鐘についての説明をしだした。


「教会の鐘は、イベントの時や何らかの緊急時に神官さま達によって鳴らされるんです。

それ以外では鳴らさないですし、更にその際は2〜3人掛かりで鳴らすんですよ。

勝手に鳴るなんて……ありえないっす。」


「おいっ……言葉遣い……!」


ニールのくだけた言葉遣いに更に青ざめ注意したが、とにかく今目の前で起きている現象が恐ろしくて体はカタカタと小さく震える。


まさか何かの厄災の前触れか……。

はたまた神が何かの警告を鳴らしているのか……。


それを危惧して悶々と考え込む俺達や周囲の人達をよそに、やはりリーフ様は狼狽える事なくあっけらかんと言った。


「じゃあ俺たち今日はスーパーラッキーだ。

きっと日頃頑張ってる君たちを褒めてくれたんだよ。

だからとりあえず、神様にありがとうしてから帰ろうか。」


信じられないほどポジティブ……。


呆気にとられてしまったが、確かにそう考えると心がふっと軽くなる。

なんだか悪い方へ考えていた俺が馬鹿みたいじゃないかとまで思うほどに。


本当に不思議な人だな。


そう思いながら、とりあえずお祈りの続きをした、その時────……気配なくリーフ様の護衛のイザベルさんが突然背後に現れ、三人同時に大絶叫。

前にバターン!と倒れ込んでしまった俺たち三人を、まるで呆れながらイシュル神の像が見下ろしているような気がした。


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