(ドノバン)88 ドノバンから見たレオン
(ドノバン)
強さ……で言えば、まだ単純な剣に関してだけだが間違いなく化け物級。
既に超人の域に到達していると思われる。
これからの成長を考えても恐怖しか感じない。
しかし、それ以外?というカルパスの抽象的な質問には、なんと答えるべきか少々悩む。
「どうって……またえらく分かりにくい質問だな。……とりあえずは8歳のガキらしさは微塵もねぇな。
それにあの外見……幸いにも伝染するタイプではなさそうだが、騎士団の連中はおろか一般人も遠ざかるだろうよ。正直俺も震えちまったし。
だが、それ以上に怖いと思ったのは……あの眼だな。
真っ黒でな〜んも入ってねぇの。
ありゃ〜心を持たねぇ戦闘用ゴーレムとか魔道具と同じ……感情無きモノの眼だ。
────まぁ、あいつのあの外見を見りゃ〜どんな境遇で生きてきたのか予想はできるし、そうなっちまうのも無理はねぇだろうが……それにしても普通じゃねえ。それに……。」
俺は一旦言葉を切り、あのレオンと呼ばれる少年についてさらに考えた。
見た目に関して言えば、そこまで厳格なイシュル信者でない俺からすれば黒髪、黒い瞳はそこまで畏怖するものではない。
しかし、呪いは別だ。
まずそれからして全面的な警戒は解けない。
そして次に底が見えぬほどぽっかりと空いた目……感情が読めず、次の行動が予測できない事に騎士としての恐怖を抱く。
とにかく目的までの最短距離をただ淡々と突っ走るその姿は、戦う側としては恐怖以外の何者でも無い。
それだけでももう腹いっぱいと言えるのに、更にはアイツを纏う存在感、あんなにも出鱈目な強さを内に秘めているのに、まるで静まり返った泉の様────あれでは死人に近しい。
『生きている』ものとして、俺の脳が認知しない……?
正直自分でも何を言ってるのか分からなくなるが、何にせよチグハグ過ぎる存在に対する恐怖を常に与えられる。
それをどう伝えれば良いものかと考えていると、カルパスが先に口を開く。
「そうか……。恐らくお前の感じた感覚と、私の感じた感覚に差異はさほど無いだろう。
……レオン君が悪い訳ではない事は理解しているし、心底同情もしている。
しかし────私は彼の存在が怖くて堪らない。
外見は勿論、あの感情が読めぬ目も未知の感覚に関する恐怖も……。
私の今までの歩んできた人生……経験する事で得た数々の価値観が、彼を全否定するのだよ。……私はリーフ様の様にはなれない。」
いつもは凛として前を向いているカルパスの目が、僅かに下に下がっていった。




