(二ール)861 二人の決意
(ニール)
相手を理解すると大事だと思う気持ちがフワッと飛び出し、そして自分の事を知ってもらう事は、自分が確かにココに存在していると言う何よりも証明するモノとなる。
少なくとも、俺達にとって喧嘩は必要な労力であったと、俺はそう理解した。
すっかりサンドイッチを食べ終え、空っぽになったバケットを静かに閉めると、澄み渡る様な青空へ自然と視線を向ける。
自分が初めて努力して得た大切な場所。
じゃあ、次はこの大切な場所を守るため、自分には何ができるのだろうと考えた。
「リーフ様って強いっすよね……レオンだって……。じゃあ、俺には一体何ができるんすかね?」
「……そうだな。リーフ様はとてもお強いから、きっと一人で何でも解決して何処までも先に行ってしまうだろう……。このまま手が届かないずっとずっと先まで。」
「……それは嫌っすね────……。」
「……それは嫌だな……。」
二人同時に呟いて、そのままゴロンと仰向けに寝転がり空を見続けていると、モルトがポツリと呟いた。
「リーフ様は恐らく不義の子で……そのせいでご家族にあまり良く思われていない様だ。
だから近い将来、お辛い思いをするかもしれない。」
「あ──……そうみたいっすね。全く酷い話っす。
どこで聞いても不義の子への風当たりは厳しいもんっすよ。
浮気した挙句、自分の子供に当たり散らすなんて恥ずかしくないんすかね?」
「恥を知っている者なら、そもそもそんな事はしないさ。
俺が言いたい事はだな……つまり、将来大変な時に少しでも俺達が助けになれればいいなと、そう思ったんだ。
でも、それにはきっと今のままでは駄目だ。人を助けるには力がいる。」
モルトの真剣な表情を見ながら、言いたい事は良く分かった。
もし自分が困った時、モルトやリーフ様、それにレオン(は多分助けにはこないと思うが……)が自分たちの身を犠牲にして助けてくれても、俺は凄く悲しいと思ったからだ。
力がないままの自分では助ける事はできない。
逆に相手を悲しませてしまう。
それを再確認した俺とモルトはお互い顔を見合わせ『はぁ〜……。』と大きなため息をつく。
「「きっと生産職だろうしなー……。」」
「生産職がどうかされました?」
呟いた言葉に答える声が突然背後から聞こえ、慌てて後ろを振り返ると、そこにはニコニコ笑っているカルパスさんが立っていた。
「カルパスさん!どうしたんすか?リーフ様は今帰ったみたいっすよ。」
リーフ様に用があると思った俺が、その去っていった方向を指差すと、カルパスさんはゆるゆると首を横に振る。
「いえね、ウチの主人がそれを忘れて帰ってきたものですから取りにきたのですよ。
そうしたら会話の最中でしたので、話しかけるタイミングを計っていました。」
笑顔のまま、カルパスさんは俺の手にあるランチバケットを指差す。
そのため慌ててそれを返すと、カルパスさんは受け取りながら俺に御礼を述べ、帰る────と思いきや、そのまま会話を続けた。
「そうそう、お二人はさすらいの料理人<ムーシェ>さんという方をご存知ですか?」
突然話される話題に俺達はキョトンとしてしまったが、食べることが大好きな俺は勿論知っている!と断言できる程の超有名人だったので目はキラッと輝く。
西へ東へ北へ南へ────。
珍しい食材を見つけては芸術ともいえる料理の数々を作ってきた伝説の料理人だ。
「はいっ!俺、知ってるっす!
彼の作った料理はその街々で名産物になるほど美味しくて有名っすからね〜。
でもどうして急にそんな話をするんすか?」
不思議に思いながら尋ねると、カルパスさんはニコニコしながら答えた。
「彼は食に対して非常に貪欲な性格をしていて、料理に使う食材は全て自分で取りに行くという強いこだわりを持っているそうです。
たとえそれがAランクモンスターの巣だろうが、第一級紛争地域だろうとね。
彼にとってはそれが己の命を賭ける価値がある事なのだそうです。」
「へぇ〜、そんなんすか。凄いこだわりっすね。」
純粋に凄いなと思って聞いていたのだが、次にカルパスさんの言った言葉に俺とモルトの表情は変わる。
「そんな彼の資質は【調料師】です。
戦闘職とは程遠い、ごくごくありふれた下級生産型資質ですね。」
モルトと共に何となく背筋を伸ばして正座をすると、カルバスさんはそんな俺達を嬉しそうに見下ろし、そのまま話を続けた。
「全く同じ資質でも持っているスキルは人によって違います。
ムーシェさんの様に戦闘スキルをふんだんに持っている料理人もいれば、戦闘系資質なのに戦闘に役立つスキルを生涯一つも発現しない人だっている。
結局のところ、自分がどういった人物になりたいのか、それが一番重要なのですよ。
ですので、あまり資質にこだわらず、やりたい事が決まったならそれに向かって一直線に進んでみるとよいでしょう。」
「やりたい事……。」
俺は自身の手のひらをジッと見下ろし、その上に乗っている大事なモノをギュッと握りしめた。
そして隣のモルトも何か思うことがあったらしく、自分の手のひらをボンヤリと見つめている。
そんな俺達に対し、ニコッと爽やかな笑顔を見せたカルパスさんは踵を返したが、そこで一度ピタリと止まって、「そういえば……。」と思い出したかの様に言った。
「そうそう、私、実は夕食までの間とその後は毎日イザベルにみっちり稽古をつけているのですが……もしお時間がある時はいつでも来て下さい。
まぁ、生半可な覚悟では一日で根を上げると思いますけど。」
クスクスと笑いながら背筋が凍る様な言葉を残し、カルパスさんは今度こそ去っていった。
カルパスさんが去っていった後、俺とモルトは同時に立ち上がる。
答えは、お互い聞かなくても既に決まっていた。
いつかくるであろうピンチの時は、必ず駆けつけて力になってみせる。
大事な場所を守るのは誰でもない、この自分なのだと固く決意し、カルパスさんの後を追いかけて走っていった。




