(二ール)860 いいな
(ニール)
「……リーフ様。何でわざわざ喧嘩に参戦しようとするんですか……。喧嘩など良いことなど一つもありませんよ。頭にくるし疲れるし、手が出れば怪我だってします。
できる事なら全力で避けるべきですよ、こんな事。」
吐き捨てる様にそう言ったモルトは、俺に殴られた頬を優しく擦る。
非常に気に入らないが、俺も同意見だったためムスッ!としながらコブが出来ている頭を撫でた。
するとリーフ様はそんな俺達を交互に見た後で「なるほど、なるほど〜。」と言って頷きながら、俺達の肩をグイッと自分の方へ引き寄せた。
「そうそう。喧嘩が嫌いな人も世の中にはいるから、そういう人と無理やり喧嘩しては駄目だよ。
でも俺は喧嘩が大好き。
楽しいしスッキリするし、相手と言い合いすると自分も相手の形もハッキリしていく感じがするんだ。
二人ももしかしてそうなんじゃないのかい?何だかスッキリした顔をしているよ。」
言われた事に驚いて頭を撫でる手を止めると、同時にモルトも頬を擦る手を止める。
喧嘩が好き……。
考えた事もない自分の気持ちに戸惑っていると、突然リーフ様が俺とモルトの手を握り、ババッ!と上に持ち上げた。
「俺達仲良し幼馴染み〜ズ!俺、リーフ!!」
「……俺、モルト〜……。」
「……俺、ニール〜……。」
何となくの流れで言ってしまい、俺とモルトはチラッと視線を合わせて微妙な顔をしていると、リーフ様は更に「そしてそして〜……!」と言いながら、後ろを振り向く。
そこにはまだリーフ様より小さいレオンが立っていて、リーフ様はそんなレオンをヒョイッと持ち上げ「レオ〜ン!!」と言いながら俺達の方を向いた。
俺とモルト、そしてリーフ様とレオンは4人揃って仲良し幼馴染み〜ズなのだそうだ。
それを聞いて俺は漠然と思った。
あぁ、ココって俺がいて良い俺だけの場所なんだって。
「…………っ〜。」
じわじわと湧いてくる擽ったい様な痒い様な……そんな不思議な気持ちに身を震わせた。
俺が抜けても誰も気づかず、他の誰でも代わりにあっさり入れてしまう場所じゃなく、俺以外入る事のできない、代わりは誰もいない……そんな世界でたった一つの俺だけの居場所が、今俺が立っているココにある。
体中痛いし、モルトはやっぱり気に入らなくてイライラしている。
でも自分をこんなにさらけ出しても、それでもココにいてもいいっていう関係性って……何だか凄く大事なモノな気がする。
そう気づいた瞬間、ココは俺にとってすべてを掛けて守りたい大切な場所になったのだ。
そして多分、モルトも同じことを思っているのか、ボンヤリとしながらリーフ様と持ち上げられたレオンを見つめていたが、リーフ様はムムム〜?と何やら考え込みながらレオンの体の向きを変え向かい合わせになった。
「レオンは喧嘩好きかな〜?よ〜し!試しに俺と喧嘩してみよう!」
「分かりました。」
よく分からない提案だが、リーフ様の言う事は全てYESと答えるレオンはいつも通りの答えを返し、それを受けたリーフ様は悩みながらレオンと喧嘩?を始めた。
「そうだねぇ……?う〜ん……。レオンのバーカ!────じゃないっ!!レオンは凄く頭が良い!」
「はい、俺は頭が良いです。」
「そうか〜……それじゃあ悪口にならないな……。
────あっ!レオンのチビ──!!だから沢山食べて大きくなるんだよ──!」
「はい。俺は沢山食べて大きくなります。」
レオンがそう答えると「その意気だ!頑張れ〜!レ・オ・ンっ!」と言いながら嬉しそうに高い高いをし始めたリーフ様だったが、突然ピタリと止まり、レオンを静かに降ろす。
「……何か俺、黒豆パン食べたくなってきた。アントンに作っても〜らおっと!
じゃあ、二人共また明日ね────!!バイバ~イ!」
<黒豆パン>
黒い豆を使って作る小麦パンの一種。
全体的に真っ黒な外見のパンは始めの頃は人気がなかったが、現在は甘くて美味しいその味に魅了された平民の間ではスタンダードなおやつとして食べられている。
……レオンが黒いからか。
はぁ……と同時にため息をついた俺達を置いて、リーフ様とレオンはあっという間に去っていってしまった。
その後、フッと自分の手を見下ろせばサンドイッチが入っているバケットがあったため、その場に座り込み、そのサンドイッチの一つをモルトにスッ……と渡すと、モルトは無言でそれを受け取り同じくその場に座る。
そしてそのまま無言で食べ続けていたのだが、2つ目のサンドイッチを食べ終わった時にモルトが急に喋りだした。
「……君はいつも飄々としているから、他人に全く興味がないのかと思っていた。……でも、結構見ているんだな。」
「そういうモルトこそ、いつも人を小馬鹿にしたような冷たい態度を取るから、人嫌いなのかと思ってたっす。
でも、意外に熱いヤツだったんすね。パンチ痛かったっす。」
頭を撫でる仕草をしてみせると、モルトはいつもの嫌味ったらしい笑いではなく、素直に『楽しい』が滲み出た笑みを浮かべる。
「俺だって痛かったからお互い様だろう。
……9年間生きてきて知らなかったが、俺は喧嘩が好きらしい。」
「奇遇すっね。俺も好きみたいっすよ、喧嘩。」
この時の俺達はきっと同時に思っていた。
『何かいいな』って。




