(ゲイル)852 あの光りは?
(ゲイル)
「はぁ??」
高笑いするレイナに訳がわからないと返答を返したその瞬間、空を黒いモヤが覆い始めた。
ギョッ!!としながら仲間たちと共に空を見上げていると、その黒いモヤはすっかりグリモア上空を覆いかぶさるように包み込み、更に遠くの方までどんどん広がっていった様だった。
「空が暗く……もしかして前にあったヤツと同じですか……?」
「あの時は直ぐに晴れ上がりましたが……。」
仲間の二人は訝しげに空を見上げ、頬に次から次へと流れ落ちる汗を手で拭う。
確かに似ているとは思ったが、正門の方の森の上空でモヤモヤと黒いモヤが集まりだし何か形を形成しだしたのを見て、前のとは違う!と確信した。
その形は徐々にハッキリしていき酷く見知った形になると、その恐ろしい全容にゾォォォ〜……と背筋が凍る。
ドス黒い真っ黒な────蝶!!
その姿を視認した途端、体は固まり体中の血がサァァァ────……と下へと下がっていく様な感覚を味わった。
ヤバい……。
ヤバい……ヤバい……。
アレは人の手でどうにかできるモンじゃねぇ!
「おいっ!もう生まれたんだからいいだろ?!俺達は一足先にずらかるぜ!」
慌ててそう告げ、仲間達と共に<移転リング>を作動させようとしたが、レイナはそれに待ったを掛ける。
《まだダメよ。王都の方で〈聖浄結石〉の使用が決定するまで待機して。
大丈夫、それを使う前にあなた達には連絡するから。
発動する直前に<移転リング>で逃げればいいだけよ。私もその頃に脱出するから。》
レイナの言葉に一旦冷静になることができ、ふぅ〜……とゆっくり息を吐き出すと、俺は自身の親指に嵌っている<移転リング>をゆっくりと撫でた。
<移転リング>さえあれば、いつでも瞬時に逃げる事ができる。
そう考えれば寧ろ、この状況は楽しまなければ損。
慌てふためくムカつく街の奴らや戦闘員達の無惨な死に様を拝んでから、ズラかりゃ〜いい。
「ガ──ハッハッ!!そうだったな!じゃあよ、無駄なのに戦うアホどもを高みの見物でもすっか!楽しくなってきやがった。」
<移転リング>を持ってない奴らは全滅。
つまりあの化け物小僧もまもなく呪いによって苦しみ藻掻いて死ぬ。
俺はただ待つだけでいいと言う事だ。
仲間達も同じ事を思ったのか、不安そうな顔から一転。
またニヤニヤと上機嫌な様子で笑いだす。
これからくる最高の未来に対し気分が高揚した俺は、直ぐに仲間達に指示を出した。
「おい、近くの店で酒を集めてこい。前祝いをするぞ。」
べろぉぉ〜と唇を自身の舌で舐め回すと、二人の仲間達は「「へい。」」とご機嫌のまま返事を返し、そのまま街の方へ走っていった。
それを見届けた後、また笑いが込み上げてきた俺は、黒く染まる空を見上げガーハッハッ〜!!!と狂った様に笑う。
「全ては俺の思い通りぃぃぃ〜〜!!!!
これから上にのし上がってもっともっと人生をハッピーエンドにしてやんぜぇぇ〜!!」
そう叫んだ、瞬間────……。
────────カッ!!!!
強い光が突然正門の方から見え、直ぐにそちらへ顔を向ける。
すると突然空の一部が晴れ上がり、地上を明るく照らすと、その光を嫌がる様に蝶は大きく後退したのだ。
……一体何が────?!
驚きに目を見張っていた、その時、伝電鳥が四方八方に飛び散りある人物の言葉を街中に伝える。
《俺に呪いは効かないぞ!お前は俺がぶっ飛ばす!!
だから皆!!自分の『未来』を諦めるな!!
足掻いて足掻いて足掻いて────全員でハッピーエンド、目指そうっ!!!》
「────────っ!!!??なっ────!!!!」
化け物小僧の声っ────!!!!!??
声の持ち主に直ぐ気づいた俺は、瞬時に頭から湯気を出し「うがぁぁぁぁ───っ!!!」と大声で叫びながら、テーブルを拳で叩き割った。
─────ガシャンっ!!
派手な音を立てて割れてしまったテーブルと、地面にゴロゴロと転がる宝石や金品、そして〈聖浄結石〉。
それを静かに見下ろしながら、俺はレイナに向かって怒鳴りつける。
「どうなってんだ?!何であの化け物小僧の声がするんだよ!!
────あぁっ?!!!」
殺気を滲ませ睨みつけたが、レイナは全く俺が眼中にない様子で酷く慌てている。
《────はっ??……えっ??えっ??……そ、そんな……嘘……。
呪いの攻撃が……消えた……??》
ほとんどパニックになっているレイナにチッ!!と大きく舌打ちをして、俺は落ち着くために爪を齧りながら冷静に考えた。
呪いの攻撃を消す?
そんな事はありえない。
────じゃあ、あの光りは……?




