(ゲイル)851 完全勝利
(ゲイル)
「ゲイルさん、本当に俺達に危険はないんですか?何か街全体が何かヤバい雰囲気ですし……。」
「こんな事態初めてっすよね。一体これから何が起こるんでしょうか?」
未だかつてない物々しい雰囲気に圧され、二人はビビっている様子だったが、俺はそれを鼻で笑った。
「ば〜か。俺達には<移転リング>があるだろうが。
合図があったら使えって言ってたが、危ねぇと思ったら直ぐに使って逃げりゃ〜いい。」
自身の親指に嵌めてある簡素な銀細工の指輪を見下ろし、ニヤッと笑う。
この話を持ってきたある高位貴族の遣いの者、レイナはこの馬鹿高い魔道具<移転リング>を、何と俺達クラス全員分持ってきた。
『合図があるまで待機して、その後はこれを使ってグリモアを全員で脱出してちょうだい。』
レイナはそう指示を出し、そのリングを置いて行ったわけだが────流石に初めてそれを見た時は震えが走った。
こんな超高額の魔道具を大量に用意できるなんて、恐らく依頼主は相当高位の人間か。
そう確信し身震いしながらも、クラス全員にそれを装着させて今日の今日までひたすら出番を待っていたのだ。
仲間二人もその事を思い出し不安は無くなった様子で、またニヤニヤと欲望が丸出しの表情で笑うと────1匹の小さな小蝿の様な虫が俺の肩に止まった。
《そっちに特に問題は起きてない?今の所は順調だけど……絶対に油断しないでね。
ただでさえ大幅に計画が遅れてしまったから、これ以上何かあったら許されないわ。》
小蝿から聞こえてきたのはレイナの声で、どうやらあの女のスキルでこの小蝿を通じて会話ができるらしい。
俺はレイナの気鬱をプッと吹き出し笑ってやった。
「問題なんざ起きねぇよ。こっちはクラス総出での参加だぜ?
こんな石ころ守るぐれぇ〜楽勝すぎんだろ。」
《へぇ?頼もしい言葉だけど、あんたのクラスの奴ら、頼んだ物を街に仕掛けた後は『宝探し』に夢中みたいだけど?
────全く……少しくらいは遊んだっていいけど、とにかく貴方は〈聖浄結石〉の側から絶対離れないようにね。》
レイナから街に仕掛けろと指示されたあるモノを、クラスの奴らに持たせてそこに向かわせたのだが……どうやらそのお仕事の後、ガランとした街で金目の物を物色し始めてしまったらしい。
「まっ、それぐらい許してやれよ。今ん所なんもなくて退屈なんだからよ。」
《別にきちんと言われた事を守ってくれるなら何をしたって構わないわ。どうせ街の奴らは全滅するし。
でも、こんなに孵化のタイミングが遅くなるなんて本当に想定外だったわ。
そのせいで計画が色々潰されて……忌々しいったら!
モンスター達に一気に街を襲わせるはずだったのに、各戦闘機関の防衛が完全復活しているせいでそれも不可能になっちゃったし……。
まぁ、どうせ何をしたって無駄だけど。》
小蝿を通して伝わるレイナのイライラした雰囲気を感じながら、俺はフッと疑問を感じレイナに尋ねた。
「なぁ、その『呪災の卵』って一体何なんだよ。一体何が生まれてくるんだ?」
《あら?教えてなかったかしら?呪災の卵から生まれてくるのは『呪いの集合体』。浄化も効かない無敵の化け物よ。》
「なんだとっ!!?」
流石の俺もこれにはビビり大声で叫んだが、レイナは何処吹く風。
多分『呪い』と聞けば断られると思い、わざと今まで言わなかったに違いない。
「おいっ!!てめぇ、ふざけんなよ!?そんなもんが生まれちまったら
、街どころか国ごと滅ぶじゃねぇか!!」
『呪い』は戦いを生業にしている者ならその怖さを知らないやつはいないほど、世界で一番恐ろしく、まさに無敵と呼べる最強の『力』である。
そんなモノの集合体を生み出すなど、正気の沙汰ではない。
依頼者は国と共に心中でもするつもりか?!
仲間の二人も恐怖に青ざめ、俺も怒りで顔を赤らめてはいるが手は小さく震えている。
しかし、レイナはそんな俺達とは反対にフフッと心底楽しそうな様子を見せた。
《心配いらないわよ〜。その化け物は、大勢のゴミ共の命か王女様の命と引き換えに消す事ができるから。
こっちとしては、王女様が犠牲になってくれたら万々歳なんだけど────フフッ、どうなるかしらね?
どっちを選んでもこちらは美味しい展開にしかならないから、どっちでもいいけど。》
ご機嫌で伝えられる情報に、俺と仲間達は一応ホッ……と息を吐く。
とりあえず国を滅ぼされる心配はなさそうなので、自分たちが無事、かつ報酬をきっちり貰えるならこちらとしては他はどうでもいい。
そのため、すっかり余裕を取り戻したその時────突然レイナの操る小蝿から息を飲むような音が聞こえた。
《────っ!!生まれたっ!!生まれたわ!!
フフフ……フッ……ア────ハッハッっ!!やっと……やっと計画が始まったっ!!
これで私達の完全勝利よ!ザマァ見ろっ!カルパス!》




