83 レオンハルトの事情
(リーフ)
「そして現在、呪いに対し唯一の対抗手段といえるものは、『浄化』だ。
それが使えるのは、聖職者系の資質持ちのなかでも片手で数える程度しかいねぇ。
人の心を理解し、複雑に絡み合った感情を紐解くことで媒体となっている心を救う。それにより呪いを鎮めるんだ。
結局人の心を救うも見捨てるも、人次第ってことなんだろうよ。
一応、今のところその浄化で一番有名なのは、【聖妃者』 の特級資質を持つ、この国の第一王女<ソフィア>様だな。」
で、で、で、出た────!!!ソフィア様!
一気にテンションが上がり、俺は両目をグワっ!と目を見開いた。
この国の王女にして歴代最高の『聖女』と謳われ、美貌!身分!実力!────の三拍子そろった『アルバード英雄記』の中の正統派ヒロイン!
本の中で、唯一のレオンハルトのラブロマンス要素だ。
明確な言葉では書いてなかったが、多分ソフィア王女はレオンハルトにちょっとした恋心を抱いていた様に思える。
最初はレオンハルトを怖がって近づかなかったソフィア王女であったが、呪いが解けた後は少しづつ会話……といってもレオンハルトは何も答えてくれないので一方通語ではあったが一生懸命話しかけたり、勇気を出して飲み物を渡そうとしたりと、一生懸命接触しようとしていた。
でもレオンハルトは、全部無視。
その対応にしょんぼりしちゃうところがいじらしくて、頑張れって毎回応援していた。
しかし残念な事にレオンハルトは愛する事自体を知らなかった為、結局最後までその恋は発展する事なく物語の幕は閉じてしまったのだ。
悲しき恋のエンドを思い出し、その嘆かわしさに静かに首を振った。
そして続けて思い出すのは、そのほかにもレオンハルトが抱えていた……人を愛する上で決定的に困った事情を思い出す。
それはー……アレだよ、アレ。
その……男として気落ちしちゃう系の……。
俺は片方だけうっすら目を開けて、隣に座るレオンに視線を向けると────そのまま下へ下へと視線を下げた。
ずばり!レオンハルトってば、EDだったんだよね。
レオンのレオンは、ずっとしょんぼり!
結局呪いが解けたレオンハルトは、そりゃ〜もう老若男女関係なくモッテモテになった。
神が創りたもうた絶世の美男子!
軍神もビックリな奇跡のスタイルに、底なしの強さ!
神に選ばれし【英雄様】!
────と、まさに三拍子揃ったレオンハルトは、当然どこに行っても沢山の女の人に言い寄られ続けたが……アレはうんともすんともせず。
ソフィア王女やパーティー仲間であったもう一人の女性、フローズとのエッチなハプニングにも全くその兆しはなかった。
その辛さ、いかほどのものであったか……眉を寄せながらその苦しみを想う。
そしてその原因が更に問題ありで『愛を知らなかったから』というのが一番の原因ではあるのだが……直接的な原因は他にある。
実はその直接的な原因を作った犯人は……物語の最強最悪の悪役!<リーフ・フォン・メルンブルク>────なんだよねぇ〜……。
あちゃちゃ〜!と頭を抱え、そのままぐちゃぐちゃと髪を乱す。
リーフは虐めの中で、レオンハルトを裸にして街中を歩かせたり、街の広場で自分のアレをいじってみろよと命じて笑ったり……男としての尊厳をズタズタにする様な虐めも繰り返ししていた。
どうやら、それからレオンハルトの下半身は、反応しなくなったっぽい……。
悪逆非道の数々を思い出し、激しい怒りのまま、雑草をブチブチー!と引っこ抜いた。
ホントどうしようもない悪ガキだな!リーフ少年は!
そんな悪ガキが目の前にいたら、お尻をペロンと剥いて百叩きにしてくれる!
そのまま頭の中でリーフのお尻をひたすら叩いてやってスッキリした後は、引っこ抜いた雑草をポイってと捨てて、再びレオンの方へと視線を移す。
勿論この俺がリーフになった今は、絶対にそんな痴漢も真っ青な虐めはしない。
思春期の子供の性的な事は慎重に!任せろ!と言わんばかりに鼻息を荒く吹き出すと、ドノバンはニカッと笑った。
「まっ!呪われたくなければ、人の恨みは買わねぇようにしろってこった!」
「…………。」
そう言って話を締めたドノバン。
俺は、今にも殺されそうな程憎々しげにコチラを睨みつけてくるレオンから視線を逸らし……ゴクリと唾を飲み込んだ。




