(ユーリス)846 諦めた未来に
(ユーリス)
今まで数々の強敵と戦ってきた俺から見て、アレは人間がどうにかできる代物ではないと断言できる。
今、目の前にしても気を抜けば足が崩れてしまう程の圧倒的存在感に、体は自然と震えてしまうというのに……。
その前に毅然と立つリーフ様を見て、俺はバンッ!と強く胸を叩き己の震えを止めた。
俺は今、恐怖と同時にどうしようもなくワクワクしている!
あのどうしようもない化け物を倒す者が現れたと言う事に。
しかしそんな胸を躍らせる俺とは裏腹に、周りのベテラン隊員達はシ────ン……と静まり返り、表情も硬い。
そんな緊張感が漂っている事に首を傾げていると、ケンさんが大きく吸い込んだタバコの煙を、ふぅ~~~……と吐き出してそのままゆっくり口を開いた。
「────────……バッ……ばっかやろうっ……!!!おっさんは涙脆いんだから変な事言うんじゃねぇ〜よ!!
そんな馬鹿みてぇな希望、見ちまっていいのか……?
……俺だって……本当はまだ死にたくねぇよっ!!まだナッツの花嫁姿だって見てねぇんだから!!」
突然滝の様な涙をボロボロと流し、そのまま大号泣を始めてしまったケンさん。
それに呆気に取られていると、羽交い締めにしていたマルクさんまでワ────!!と泣き出してしまった。
「わっ……私だってっ……本当はまだ死にたくないですよっ!!
リーンが連れてきた男に『娘はやらん!』って言ってやりたいじゃないですかっ!
ケンのくせに泣くからっ……こっ、こっちまで泣けてきちゃったじゃないですかぁぁ────!!!!
せめて娘が幸せになるのを見届けるまで……生きたいよぉっ……!!」
そのままワンワンと泣き出してしまった大人二人を呆然と眺めていると、今まで表情を固くしていたベテラン隊員達全員が同じ様に一斉に泣き出す。
「俺の倅だって……っ!」
「私の娘だって……私しかいないのに……っ!!」
「まだ死にたくないよぉぉぉぉ〜〜!!!」
その悲痛な叫びに何と言っていいか分からずとりあえず口を閉ざして黙っていると、今まで大爆笑していたドノバンさんが突然ニカッ!と笑った。
「だったら簡単じゃねぇか。目の前にある希望に賭けようぜ!
せっかくその願いが叶うかもしれないんだ。まずは信じりゃ〜いい。
俺は今、ものすごぉ〜く!ワクワクしている!諦めるしかなかった未来に手が届くかも知れねぇんだ。そうだろう?」
そう言ってドノバンさんが期待に満ちた顔で黒い蝶を見上げた、その瞬間!
『おおおお────!!!!』と雄叫びに近い大きな歓声が上がる。
「うぉぉぉぉ────!!!!やっちまえぇぇぇ────!!!救世主様ぁぁぁ────!!」
「うわぁぁぁ────!!!リーフ君、ふぁいとぉぉぉ────!!!」
ケンさんとマルクさんが顔をぐちゃぐちゃに濡らしながらそう叫ぶと、守備隊員達はそれに続き「救世主様ぁぁぁ────!!!」「頑張れぇぇぇ────!!」と叫んではワンワンと大号泣。
「…………。」
……ど、どうする??
その対応にほとほと困っていると、何故か第二騎士団の隊員達まで全員泣き出し────……。
「ぎゅ救世主ざまぁぁぁぁぁ────────!!!」
「がん”ばれ”ぇ”ぇ”ぇぇぇぇぇ────────────!!!!」
……と、一緒に大声でエールを送り始めてしまった。
全く、これだから脳筋はっ!!
グズグズの隊員達に大きなため息をついたが、何だかんだと言いつつ俺の胸も高ぶっていて、今最高のテンションに達している自覚はある。
俺も結局は脳筋か……。
諦め半分で呟き、その後声高々に騎士たちに指示を出す。
「────総員に告ぐ!!今より『呪災の卵』から生まれた化け物は<救世主様>に任せ、我々はこれより襲い来るモンスター達の殲滅に尽力する!!
一匹たりとも街に入れるな!!我々第二騎士団の実力、モンスター共に見せつけるぞ!!」
「「「「おおおおおお────────っ!!!」」」」
騎士団員達は勇ましい声で俺の声に答えた。
そしてそれを聞いたケンさんは涙を乱暴に袖で擦ってから続けて守備隊員達に向かって叫ぶ。
「ここは俺達守備隊員達が守るグリモアだ!!
守備隊の誇りにかけてモンスターは絶対に街に入れさせねぇぞぉぉぉぉぉ────────っ!!!」
「「「「おおおおおお────────っ!!!!」」」」
守備隊員達は全員涙を乱暴に拭き、片手を上げてケンさんの声に答えた。
先程と同じ戦況にも関わらず、皆の心には大きな希望が宿っている。
あの化け物を倒せるかもしれないという希望が────。
「!!新しいスキルの発動を感知!!総員警戒せよ!」
解析班からの言葉が告げられ、全員が武器を構えてそれに備えると、呪いに蝶が動き出す。
《ミ゙ィ”あ”あ”あ”ァ”ァ”ァ”〜────────────!!!!!》
多重に重なった人の悲鳴の様な鳴き声をあげた化け物が、羽をバッ!!と開くと、その羽にビッシリと人の口や目の様なモノがついており、それが一斉に笑った。
ゾゾゾゾッ〜〜!!!
背中を走り抜ける恐怖に体は麻痺したように痺れ、汗がドッと吹き出す。




