(ユーリス)845 希望を────
(ユーリス)
「な、な、なんじゃありゃ────!!!!」
ドノバンさんが耳を押さえたくなるくらいの大声で叫び、黒い蝶の攻撃を消し去ったリーフ様の方を指差す。
いつもは同意しかねる事が多いドノバンさんの話も、今は全くの同意見で……『アレは一体何だ?』と心の中で混乱している。
呪いの攻撃があんなにあっさり消されるなど、絶対にあり得ない事だ。
それはこの場にいる全員が知っている事で、誰も彼もががリーフ様を見上げ、あんぐりと口を開けたまま固まっている。
「か、解析班……?」
ケンさんが呆然としながらそう呟くと、一瞬の間が空いて直ぐに「呪いです。」という答えが返ってきた。
するとそれを聞いて、ケンさんに下がれと命じられ後ろに下がっていた若い前衛隊員達がゾロゾロと前に戻っていく。
「『後は頼んだぜ!』」
「『さぁ、呪いの攻撃、何発耐えられっかな〜♬』」
先程叫んだケンさんのモノマネをしながら、ぷぷぷ────ッ!と笑う若い隊員達を見て、ケンさんはブルブル震えながら真っ赤な顔に。
「解析はぁぁぁぁぁぁぁ────────んんんっ!!!!!」
続けてケンさんは大声で怒鳴ったが、解析班からは「呪いでぇぇ────すっ!!」とキッパリ言い返されてしまった。
実は俺も『後は任せろ!』などと言ってしまった手前、ものすごく気まずい。
しかも腹立たしい事にドノバンさんも同じ気持ちなのか、いつもなら真っ先に笑うくせに不自然な程スルーしている。
何となく気まずい雰囲気が漂う中、またしても黒い蝶が攻撃しようと力を貯め始め、全員に再び緊張が走った。
「また呪いの攻撃が来ます!!今度は3つ同時です!!」
解析班の者達がそう叫ぶと、即座にケンさんは大盾を構え隊員たちに指示を出す。
「今度こそくるぞ!!若い奴らは下がれぇぇぇぇ────────!!!!!!!」
展開されたスキルで迎え撃つ準備をしたケンさん。
若い隊員達はまた即座に後ろへと下がった────が……またしてもその攻撃はリーフ様によって全て打ち消されてしまった。
シ〜ン……。
戦闘中とは思えない程静まり返る中、またしても後ろに下げられた若い隊員達は「『今度こそくるぞ!』」「『若い奴らは下がれぇぇ────!』」とモノマネをしながらスタスタと自身の持ち場に戻る。
ケンさんは胸ポケットからタバコを取り出し、スッ────……と大きく吸い込むと、直ぐにその顔は突如怒りの形相へと変わった。
「解析はぁぁぁぁぁぁ────────んんんっ!!!!!!」
「だから呪いですってばぁぁぁ────────っ!!!」
先程よりも大音量で叫ばれるやり取りに、近くにいた隊員達は耳を塞ぐ。
しかし原因であるケンさんは、そのまま大きく震える手でタバコをスッパスッパと吸いながら、右へ左へとブレブレに揺れる指をリーフ様へ向けた。
「いやいやいやいや────??!あっりえないだろぉぉぉぉぉぉ────!?!?!呪いを消すなんざ聞いたことねぇしっ!!
なんでアイツあんなにケロッとしてんの?何??何??あいつホントに何なの??
────……あ〜救世主様だった。よしっ!祈っておこう。」
そのままブツブツと祈り始めてしまったケンさんに影響されたのか、守備隊員達は膝をつき全員が祈り始めてしまった。
更にヘンドリクさんに至っては懐から小さなイシュル像まで出して本格的に祈っている。
一体何をしているんだ……。
流石に戦闘中にこれはないと思い口を出そうとしたのだが、その前にマルクさんがため息をつきながら前に出る。
「全く……混乱しすぎだよ。ケン、皆。ちょっと待って。今パン作るから。」
そう言ってマルクさんは自身の大鎌に付いているトゲ付き鉄球を持って、スタスタと何処かへ歩いて行こうとしたので慌てて羽交い締めにした。
「ちょっと!貴方が一番落ち着いて下さいよ!」
そう必死になだめていると、ドノバンさんがそのやり取りを見てブブ────ッ!!と吹き出し、そのままゲラゲラと笑い出す。
それを限界まで細めた目で見つめながら『これだからおじさんは嫌なんだ!』と改めて強く思った。
柔軟性はなくてすぐにパニックになるし、デリカシーはないし……俺からすれば呪いと同レベルの厄介な生き物だ!
『俺は絶対にこんな歳の取り方はしない!』
そう誓いながら極力落ち着いた声で、動揺してグズグズのおじさん集団に言った。
「皆さん、とにかく落ち着きましょう!とにかく今は『何故?『』と考えるより、今見たモノをそのまま受け入れるべきです。
リーフ様はどうやら呪いに対抗する力を持っている……それに強い!
俺はもしもの話をするのは好きではありませんが、リーフ様ならアレを倒してくれるのではないかと……そんな夢みたいな事を期待し始めています。」
かつてルセイル王国の半分を飲み込んでしまった大厄災『呪災の卵』
最強と謳われた戦士たちがなすすべもなく倒されてしまった最強の化け物を、たった12歳の子供が倒す……そんな夢物語、誰も信じやしない。
今、目の前で目撃した俺達以外は。
黒いモヤが生き物の様に絡みつくおぞましい化け物を見上げ、グッ!と唇を強く噛む。




