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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二章(リーフ邸の皆とレオン、ドノバンとの出会い、モルトとニールの想い)

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82 呪い

(リーフ)


「いいか?『呪い』っーのは、魔法とは全く異なる代物だ。

魔法の発動原理はもう知ってるな?

使いたい物質構成を、その属性に応じた魔力で描き出し、更にそれを────『打つ』『爆発させる』などの命令を描き足して発動させる、それが魔法だ。

例えば、火の属性魔力を持った奴が『火』という物質構成をその魔力で描き出す。

そしてその描かれた『火』を敵に向かって『打つ』という命令を新たに書き足せば初級魔法の『ファイヤーボール』が発動するってわけだ。

そこにはキチンとした法則性がある。」


確かに魔法は、前世的に言えば科学や物理、数学の複合科目みたいなもので、そこには必ず法則性が存在している。


俺がコクリと頷き肯定すると、ドノバンはニヤッと口端を上げた。


「法則性が分かっているものは、勿論解除する事も難しくはない。

だけどな────呪いは違う。

それに法則性は一切無く、同じ呪いは一つとして無い。全てがオリジナルのものとなっている。

その理由は発動原理にあって、魔法の様に決まった物質構成ではなく自身の感情を魔力で描き出し発動させる、いわば心を形にした特殊魔法……ってやつだからだ。

人の心っつーのは恐ろしく複雑で難解で、それに法則性なんざありはしねぇ。

そしてその時媒体にした感情が強ければ強いほど、強力な呪いが発生する。

代表的なものは、怒りや憎しみなんかの負の感情だな。」


ゾゾっと背筋に冷たいものが走り、俺は体を大きく震わせた。


生きている人間が1番怖いとはよく言われるが、結局その恐怖の根本は人の心にある。

魔力で絡まり合った感情は、確かに相当厄介そうだ。


それこそ釣りの餌で使う糸ミミズの集合体レベルじゃなかろうか……?


以前釣りに行った時の事を思い出し、グシャリと顔を大きく顰める。


釣り餌の絡まった糸ミミズ。

それを解こうと奮闘したが、結局ツルッと滑って海に落としてしまい、せっかく何時間も掛けて海に来たのに釣りができなかった。

そんな死ぬほど後悔した気持ちがブワッと蘇り、悲痛な表情を浮かべると、ドノバンは困った様に頭を掻く。


「わりぃな、脅かしすぎたか?

まぁ、そんなわけで呪いは一度発生すると普通の魔法みてぇに防ぐ事は出来ねぇって事だ。

そして厄介な理由はもう一つある。

それがその【性質】だ。

これも全く一貫性が無いんだが、1番多いのは『触ると移っていく』タイプだな。

他にも『呪いを受けた奴を殺すとうつる』ものや、『時間経過によって命を奪う』ものもある。

その性質のせいで、昔たった一つの呪いが次々と感染し、精鋭された騎士団一個部隊が一瞬で全滅したこともあった。

……ありゃーひでぇもんだった。

どんなに強力な力を持っていても戦いにすらならずに死ぬ。

これがどれほど怖い事なのか、戦闘職の奴なら嫌というほど分かるさ。」


思った以上の恐ろしさにゴクリと唾を飲み込んだ。


そ、そんなに呪いが恐ろしいものだったとは……。


本にはそこまで詳しい説明が書かれていなかったので、俺としては初めて知った事実だ。


俺の呪いのイメージは藁人形と釘を持った白い着物の女性、さらに先程追加された糸ミミズなので、正直軽く見過ぎてた事は否めない。


これは認識を改めなければ……。


キリッと真面目な顔をしたところで、突如、ピンっ!と閃いた。


レオンの筋力UPのためにやらせている『馬』

これをやる事によって、周囲の人にこの呪いはうつりません!と自然にアピールする事ができるのでは?!


最高のアイディアに、心の中でガッツポーズ!


なんて万能!正に馬様々だ。

もう俺は一生馬刺しは食べない!

最も尊敬する動物は馬ってこれから絶対答える!


思わず祈る様に目を瞑ると、ドノバンは腕を組み爽快に笑うと、硬い雰囲気を崩した。


「怖ぇ〜よな。だがな、そう簡単に呪いは使えるもんじゃねぇから安心しろ。

呪いには二つほど弱点がある。

その一つが、『代償』だ。

その発動する呪いと釣り合う『何か』を捧げなければ、呪いは発動する事が出来ない。

その必要な『代償』は、人によって全く違うみたいで、何をもって決定するのか分からねぇ。

ただ威力の強い呪いほどその『代償』は大きく、術者の手、足、視覚、聴覚……そして命、それでも足りない場合は発動しない。

そりゃー割にあわねぇし、博打性も高すぎるだろ。」


ドノバンは、はぁ〜とため息を吐きながら説明してくれたのだが、その言葉については聞き覚えがあったので、ふむ……と自分の知る知識について思い出す。


『代償』


まさに人を呪えば穴2つ……その言葉を具現化したような発動システムだ。

そのシステムはどうやら神にも適応されるらしく、邪神<ゼノン>も、この『代償』により、レオンハルトにあっさりと殺される羽目になったのだ。


世界の裁定者を呪う『代償』は大きく、不死である自身の全てを捧げなければならなかった。


「そして二つ目。『術者が死ねば呪いは解けてしまう』点だ。

呪いの媒体と言える術者の感情が消えてしまう事で、その呪いは維持する事が出来ない。

だから呪いに対処する時は、真っ先にそいつを探す。────そして……。」


ドノバンは、自身の首を掻き切るフリをした。


『術者が死ねば呪いは解ける。』


それは俺も知っている。

そのおかげで邪神<ゼノン>が死んだ後、レオンハルトは本来の姿を取り戻した。

ゼノンは、それが分かっててレオンハルトの前に姿を現したんだ。

彼の死に顔はそれはそれは幸せそうな笑みを浮かべていたらしいから。


人の生き死にの話に少ししんみりした気持ちになってしまったが、次にドノバンが口にした言葉に俺の気鬱は吹き飛んだ。


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