(クラーク)836 希望の神様がいる場所
(クラーク)
「いますぐグリモアに引き返しなさい!!」
突然の怒号に、前で運転している御者がビクッ!!と身体を大きく震わす。
「えっ!!む、無理ですよぉ〜!!今引き返したら死んじゃいます〜!」
ビクビク、おどおどと返事を返す御者に、ジェニファー様はドスンと低い声で言った。
「今引き換えして助かるのと、このまま王都に着いて不敬罪で死罪になるの、どちらが良いかしら?さぁ、選びなさいな。」
本気を感じた御者は「ヒィィィ〜!!」と情けない声を上げながらグリモアに向かって進路変更した。
ジェニファー様は満足そうに頷くと、乱暴な仕草で座席に座り直す。
「クラーク、私の夢を叶えるためには沢山の人達が必要なの。
だからグリモアの人達が死んでしまっては、その夢は遠ざかってしまうわ。」
「……そうですね。」
フッと笑いながらそう返せば、ジェニファー様はまるで悪い魔女の様な笑みを浮かべ、グリモアの方向を指差す。
「私は欲深令嬢のジェニファー。だから私は、自分の夢を叶えるためにこれからグリモアに戻るわ。クラーク、覚悟はよろしくて?」
軽く礼をしながらジェニファー様に目を合わせた俺も、悪い笑みを浮かべて笑った。
「主人の願いを叶えるのが専属聖兵士の務めですので。このクラークも、共にジェニファー様の夢を共に叶えましょう。」
俺達は走り続ける馬車の中で二人揃ってニヤッと笑い合うと、突然グリモアの方向から伝電鳥が飛んできて、予想通りにあの化け物と戦っているであろうリーフ様の言葉を伝えてくる。
『まさか本当にあの呪いの化け物と戦えるとは……。』
分かってはいても、そのありえない事実に大層驚かされたが、更に間を置いて伝えられたソフィア様の声には二人揃って腰を抜かしそうになった。
何とソフィア様まで戦う覚悟をし、グリモアで既に戦いを始めているらしい!
「ソフィア様はもう戦っているのね。また私、負けちゃった……。
────フフッ、また明日お話できる話題がまた見つかってしまったわ。」
ジェニファー様はそう言って、窓の外を飛び回っている伝言シャボンに向かって声を掛ける。
「大司教グレスターの娘ジェニファー・ドン・レイシャス、只今より神の導くがままグリモア防衛線に参戦いたします。」
恐らくは自身の父に当てた言葉。
そんなジェニファー様の声を受け取った伝言シャボンはあっという間に王都の方へと飛び去ってしまった。
それを見送り、ジェニファー様は満足そうにソフィア様に勧められた本を撫でる。
それを見て俺は笑ったが、突如進行方向からやってくる飛行型モンスターの群れの気配を感じ、窓の外へ視線を戻す。
「ぎゃあああ────!!!ぜ、前方に飛行型モンスターの群れが来ますぅぅぅ────!!!死ぬっ!!死ぬぅぅぅ────!!!」
御者の情けない叫び声を聞きながら目を凝らすと、前方から真っ直ぐ突っ込んでくるのは、Dランクモンスター<イブニング・バード>の群れの様であった。
< イブニング・バード >
体長1m程の夜行性鳥型Dランクモンスター。
細く針の様なくちばしを持ち、非常に早い動きで暗い空を自在に動き回って敵を翻弄する。
集団で狩りをし、空からスピードを生かした攻撃を全員で仕掛け獲物を全身串刺しにするため魔法での遠距離攻撃が推奨される。
俺は直ぐに窓から這い出て馬車の上に登ると、片膝をつきながらまっすぐ向かってくるイブニング・バードの群れを睨みつける。
まっすぐ、ただひたすら前へ。
いらないモノは、全てあの灼熱地獄に置いてきた。
この心に残っているのは自身の気持ちと持っていきたい己の信念のみ。
ゆっくりと魔力を練り上げながら、向かってくるイブニング・バードを十分に引き付ける。
ずっと流され続けた俺の、ここが最後の踏ん張り所だ。
きっとここで流されてしまえば、俺は一生あの地獄から出れずに永遠に彷徨うことになる。
そうしたら、もう追いつけない。
目を細めて、向かい来るモンスターの『先』にある世界を見つめる。
今は自力で見れない美しい世界。
その景色を自分も見たい。
「……真っ直ぐ前へ……ひらすら先へ……先へ……。」
俺は一斉に馬車に体当たりをしようとするイブニングバードに向かい、真っ直ぐ指を差すと、そのままスキルを発動した。
<魔術導師の資質>(ユニーク固有スキル)
< 光の協奏曲 >
光属性の魔力を音に乗せ打ち出す魔法系攻撃スキル。
音による振動がかなりの広範囲に伝わるため広範囲の敵に対応でき、更に魔力が大きい程威力が上がるが一定のリズムで魔力を打ち出す必要があるため高い魔力テクニック能力が必要となる。
(発現条件)
一定以上の魔力・魔力操作・魔力テクニック・リズム感を持つ事
光属性魔法の適性を持ち、更に光属性魔法での戦闘経験を持つこと
一定種類以上の楽器の演奏レベルを持つこと
────ドンッ!!
大きな音を立てて真っ直ぐに突き抜ける俺の魔法攻撃により、前方から体当たりを仕掛けていたイブニング・バードは全滅。
それにより、グリモアまで続く真っ直ぐな道ができた。
己の心情を現すかの様な真っ直ぐな道を見て満足そうに微笑んだが、御者はまたヒィィ〜!!と悲鳴を上げる。
「うわぁぁぁ────ん!!やっぱり安全な王都へ引き返しましょうよ〜!!何でわざわざ危険な場所に戻るんですかぁぁぁ────!!」
グスングスンと泣きながら叫ぶ御者に、俺は呆れながら盛大なため息をつく。
「俺達が向かう先には『希望の神様』がいる。そここそが、世界で一番安心で安全な場所に決まっているだろう?」
沢山読んでいただきありがとうございました!
来年もマイペースに書いて行きます〜よろしくお願いします・:* .\(( °∀° ))/.:




