(クラーク)834 引っ張っていたモノ
(クラーク)
目を白黒しながら慌てて自身の状態を確認すると、いつの間にか俺の手にも同じヒモが握られていて、ジェニファー様同様、格好はボロボロだ。
更に靴も履いておらず、足は傷だらけである事に気づいた。
────えっ!!?
あまりにも不可解な状況に悲鳴を上げそうになったが、急に体が勝手に動き出し指一本自由に動かせなくなってしまったため、悲鳴は喉の奥へ消える。
隣のジェニファー様も全く同じ様に体が勝手に動き出したらしく、パクパクと口を開け閉めして驚いている様だ。
そうして勝手に動く体のまま、俺達は肩に担いだヒモを引っ張りながら前へ前へと歩き出した。
熱さでドロドロに溶けている地面。
そこを一歩一歩歩くたび足はジュッ!!と焼け焦げ、酷い火傷と傷の痛みに顔は大きく歪む。
助けを呼ぼうにも口すらも自由に動かす事はできず、ただ痛みと苦しみに耐えるしかできない。
しかもヒモの先には、何かとてつもなく重いモノがついている様でとにかく重く、それに俺の手は耐えきれず、歩く度に手の平の皮がズルズルと剥けていくのが分かった。
一体俺はこんな灼熱地獄の中、何を引っ張っているんだ……?
そう疑問に思っても、勝手に動いている体では後ろを向くことすらできない。
何とかジェニファー様だけでも助けなければと思っても、体は全く動かせない為、ただひたすら痛みに耐えて歩く事しかできなかった。
苦しい。
痛い。
熱くて熱くて堪らない……。
限界は等に越えているのに足は止まる気配がなく、その状態のまま時は流れていく。
それは一分くらいにも感じたし、1年くらい経った様にも思える不思議な時間であった。
こんな拷問の様な時間はいつまで続くのか?
もしかして次の瞬間に終わるかもしれないし……。
このまま一生続くかもしれない────?
その可能性が頭を過るとゾッと背筋が凍りつき、体の痛みとは違う絶望の痛みが体を蝕みだした、その時────……。
「────あれ?二人共、そんなに重たそうな荷物を引きずって一体どこにいくんだい?手伝おうか?」
のほほんとした声が突然前方から聞こえ、ハッ!とすると、なんと目の前に不思議そうな顔をしたリーフ様が立っていた。
それに気づくと、突然勝手に動いていた足がフッ!と止まり、身体に自由が戻ってきたため、俺とジェニファー様は同時にその場に崩れ落ちる。
そのせいで地面に触れている膝や手がジュージューと焼け始めたが、限界を越えた足と身体の痛みによりまだマシであると思える程であった。
ハァハァと息を乱しながら、俺とジェニファー様はゆっくりと前に立つリーフ様を見上げる。
「い……一体ここはどこなのでしょうか……?」
そう尋ねるとリーフ様はう〜ん??と顔を傾けながら、やはりのほほんと答えた。
「どこだろうねぇ?適当にお散歩してたらここに辿り着いたからなぁ。
でも、とってもキレイなお花畑だね。空気も美味しいし凄く気持ちがいいよ。」
「……はぁ???」
まるでトンチンカンな事を言われて思わず口から疑問の声が漏れる。
こんな一面灼熱の、まさに地獄という様な焼け野原なのに花畑とは……???
「リーフ様、冗談はやめ────……。」
「二人共、随分頑張ってソレを運んでいたね。ソレは二人にとってもとっても大事なモノなのかな?」
リーフ様は突然ピッと俺達の後ろを指差しそう尋ねてきて、そこでやっと俺とジェニファー様は何かを引っ張っていたのを思い出した。
重くて重くて堪らなかった『何か』。
それは一体何だったのか?と思いながら、二人同時に後ろを振り返り────……一瞬で血の気が引く。
ヒモは大きな荷台の様なモノと繋がっていて、その荷台には沢山のモノが山の様に積まれていたからだ。
『義務』
『責任』
『見栄』
『世間体』
『プライド』
『虚栄心』
『正義』
『恐怖』
そして一番大きく場所をとっているモノ。
それは、ジェニファー様のお父様であるグレスター卿と俺の両親達であった。
こんなモノを引いて、俺達は灼熱地獄を歩いていたのか!!
そう気づいた瞬間、俺達は同時に悲鳴を上げて、ガクガクと震えだしたが────そんな俺達を見ても、グレスター卿と俺の両親は、笑顔でペラペラと喋りだした。
『ジェニファー……それは君には合わないよ。だってカトリーナはこっちの方が好きだったのに……。』
『お金さえあれば幸せなんだ。カトリーナの分も君を世界一幸せなお姫様にしてあげる。』
『クラーク……お前にはがっかりだ。あんな不義の子に負けるなど、俺に恥をかかせてやがって!
こんな惨めな思いをしなければならないのは、お前が不出来なせいだ!』
『貴方は次期当主なのだから、責任をしっかり果たしなさい。招かれたパーティーへは、貴方が一人で首席するのですよ?
これ以上レイモンド家の名を堕とす様な事は、しないでちょうだい。』
好き勝手に紡がれる呪いの歌の様な言葉達に、俺達は耳を塞ぎ身体を丸めた。
逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい────!!……………でも出来ない。
だって俺はレイモンド家の跡取りで…………両親だって俺を頼りにしてくれている。
俺が。俺が…………。
様々な感情が、ぐるぐると心の中で荒れ狂い動けずにいる俺の耳に、突然リーフ様の声がスルリと入ってきた。




