(クラーク)831 悪夢の始まり
(クラーク)
ジェニファー様は、自身が白バラを好きであることを絶対に人に気づかれない様に細心の注意をしている。
『亡くなってしまったお母様が大好きであった真っ赤なバラを、自分も大好き』
そう周りに思わせる事によって、ジェニファー様にお母様を重ねてみているグレスター卿を悲しませない様にしているのだ。
その一心でジェニファー様は自身の本心は必死に隠し、そう振る舞う事でそれを真実だと思い込もうとしていたのに……リーフ様は、隠れている本物をあっさりと外の世界に引っ張りあげてしまった。
それについてジェニファー様がどうお考えかは分からないが、少なくとも貰った白バラは、『公爵家のリーフ様に貰ったものだから……』と言って大切に自室に飾り付け、枯れてしまった後は押し花にして持ち歩くくらいは嬉しかった様だ。
後にこっそりとリーフ様に『なぜ白バラなのか?』と聞いてみたのだが、これまたあっさりと『白いバラを見た時嬉しそうだったから〜。』と返されてしまった。
確かによく人を『見て』いる。
しかし、だからといって別にその人の心に寄り添うとか、助けようとする事は特にしない。
それがリーフ様の不思議な所だと思う。
俺は改めて『リーフ様』という人間について考えてみたが、考えても考えても明確な立ち位置がぼやけていてよく分からない。
何となく『この学院のボスはリーフ様』とは認めてはいるのだが、人を導く強く賢い王様……とかではないし、全てをねじ伏せる様な屈強の戦士や全ての人を癒やす聖者などもピンとこない。
では一体何なのだろう?
そう頭を悩ましていたその時、頭に突然浮かんだのは、つい先日ジェニファー様が立ち寄った学院図書館で目にした一冊の絵本だ。
『シュペリンの踊り猫』
子供なら一度は読んでもらう有名な絵本だが、本の内容としては絶望した国でただ猫が踊るという意味が分からないもの。
しかし、結果的にその踊る猫と共に人々は踊りだし、国が見事に立ち直ったという明るい終わり方をしているので、子供に読むにはちょうどいい内容なのだと思われる。
今まで特にその絵本について思う事はなかったが、何だかこの内容が非常にリーフ様のイメージと合っている様な気がして少々印象に残ったのだ。
ただ楽しく一人で踊っているだけなのに、気がつけば回りの人間達は同じ様に踊っている。
ジェニファー様も、そして俺も…………。
ハッ!としてそれを否定するように首を横に振ったが、何となくその絵本が頭から離れてくれなくて、覚えている事を少しづつ頭の中から引き出していく。
『シュペリンの踊り猫』の作者は不明。
しかし、その謎多き絵本の発信地は、確かエルフの国<レイティア王国>だったはず……。
更にドロティア帝国が侵略を開始した時には、既にこの絵本は存在していた事から『これは予言書だったのでは?』と考える学者もいたそうだが……争いが落ち着いた後、この猫の様な行動をした者が誰もいなかったため、ただの偶然であると言われている。
「そういえばソフィア様がこの間、とても面白い事を言っていたわ。」
ボンヤリと考え事をしていたところに突然話しかけられて、内心ドキッ!!と驚いてしまったが、それは隠して返事を返す。
「どの様な事を言っておられたのですか?」
「リーフ様はもしかして神様かもしれないって。でもイシュル神様ではない気がすると仰ってたわ。
だから二人で『ではどんな神様なのか?』と考えたのよ。
強いけど戦の神……ではないし、怒ると怖いから癒やしの神様とも違うでしょう?」
確かに……と思わされる内容だったので、俺は小さく頷きながらその話を聞いていると、ジェニファー様は俺が同意した事に笑い、そのまま話を続けた。
「そしたらソフィア様が『希望の神様』はどうか?と仰って、それがとてもしっくりきたのよ。
だから私とソフィア様の中で、リーフ様は『希望の神様』になったの。」
その時の事を思い出したのか、ジェニファー様はクスクスと楽しそうに笑ったので、俺も同様に笑みを溢す。
「確かにそれはピッタリかもしれませんね。俺もちょうど先程リーフ様に関して考えておりまして……。
何となく『シュペリンの踊り猫』にイメージが似ているなと考えていたところです。」
「まぁ。それは確かにピッタリだわ。
あの絵本の猫は一説によると、『希望』を指していると言われているものね。
明日ソフィア様にお話する話題が見つかったわ。」
ワクワクとご機嫌な様子のジェニファー様の前に、給仕の者が本日のランチのスープを静かに置く。
フワッと香るスープの良い香り。
それに誘われる様にジェニファー様はスプーンを手にし、ゆっくりっとスープへ近づけていったその時────突然バシュッ!!という大きな発射音が空に響き、同時に赤い煙がまっすぐ空に向かって伸びていった。
「緊急電煙……?」
「何があったのかしら……。」
周りの生徒たちのざわつく声が聞こえだし、何が起きているのか不安を感じている雰囲気が色濃く漂いだしたが、俺とジェニファー様は、一瞬で青ざめた。
両親達が……エドワード様が動きだした────!!




