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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二十二章

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829 マリオンの決意

(マリオン)


「俺はどうするべきですか?」


不安で怖くてどうしようもなくて、それをどうにかしたくて……。

目の前のリーフ様に問いかけると、リーフ様は「ん〜?」と言いながら首を傾げる。


「そうだねぇ〜?どうしようか。

右でもいいし左でもいい。それに下でもいいし上でもいいと思うよ!」


そう言って笑うリーフ様に俺は不安になって、しがみつく手に更に力を込めた。


「怖いっ……怖いんです。だって、こんなにも何も見えない真っ暗闇の中を一人で進むなんて……。

何でリーフ様はこんな中を、そんなに迷いなく歩いていけるのですか?

選んだ先にどうしようもない絶望が待っているかもしれないのに!!」


泣き喚く勢いで叫んだ俺に対し、やはりリーフ様は「ん〜?」と言いながら顔を傾け────……。


「そっか!考えてなかった!」


そうあっけらかんと言って笑う。

そのあまりに軽い言い方とどうしようもない答えに、流石に俺は恐怖を忘れてポカンッとしていると、リーフ様はそのままひとしきり笑った後、続けて言った。


「何が出てこようとも、それも含めて俺の人生だ。無駄なモノは一つもない。

喜びも悲しみも……苦しみも憎しみも絶望だって、全部俺が人生を必死に生きて来た証で、コレは前に進まなければ手に入らなかったモノなんだよ。

勿論止まったっていい。

このまま止まってぼんやりと移りゆく景色を楽しむのだって一つの『選択』だ。

そこがその人の選んだ人生の終着点なんだから。」


そう言ってスタスタと歩くリーフ様から視線を外し、よく目を凝らして周囲を見渡すと、周りには沢山の人達がいて前へ前へ歩いていく姿が見えてくる。

そしてその人達は立ち止まる者もいれば座り込んでいる者、寝転んでいる者までいる様で、歩いている者達もかなり遅いペースで歩いていく者もいれば全力で走っていく者まで様々であった。

それをボンヤリと眺めていると、リーフ様は突然俺に話しかけてきた。


「マリオンはさ、どうして魔道具を作るのが好きなの?」


「……えっ?そ、それは……。魔道具は一から自分で組み立てていくモノですから。

自分の思い描いた理想の魔道具が、自分の手で一つ一つ出来上がっていくのを見ることが、俺は好きなんです。」


「そっか!」


リーフ様は足を止め、嬉しそうに笑った。


「じゃあマリオン、君はもう大丈夫だよ。だってそれって人生と同じじゃないか。

君が思い描いた理想の人生、それを一つ一つゆっくり探して組み立てていけばいい。

マリオンは一体どんな終着点に辿り着くんだろうね。凄く楽しみだ!」


弾むような声でそう言い終わると、リーフ様は俺をゆっくり下へ降ろしてくれた。

真っ暗な闇の中で確かな地の感触を足に感じながらその場に立つと、リーフ様はワクワクして仕方がない!といった表情を浮かべたまま、まっすぐ前を指し示す。


「じゃあ、俺は先に行くね!

きっと俺は死ぬまでずっと歩き続けるから、ずっとずっとマリオンの前にいるよ。

俺は俺の、そしてマリオンはマリオンのペースで前に進んで行けばいい。

さぁ!お互いハッピーエンド目指して頑張ろう!」


そうしてリーフ様はまるでスキップをする様に、前へ前へと進んでいってしまった。

そのまま真っ暗闇に一人残されてしまったが、不安と恐怖で一杯だった心は、リーフ様同様ワクワクした気持ちで溢れそうになっていて、俺はグッと握った拳を見つめながら笑みを浮かべる。


この先にはずっとリーフ様がいる。

たとえこの先にある世界がどんなに辛く悲しい絶望しかない世界だとしても、リーフ様は変わらず前に進んでいくだろう。

それが俺の心から恐怖を吹き飛ばしてくれた。


自分の拳から視線を逸らし、今度はリーフ様が行ってしまった『前』を見つめると、遠くの方にホワッとした小さな白い光りが目にはいる。


リーフ様は、もう随分と遠くに行ってしまったらしい。

一生かけても追いつけないかもしれない。

でも俺が目指すのはあの光りなんだ。


小さな光を見失わない様に見つめ、俺は不敵に笑った。


痛くても苦しくても悲しくても。

どんな絶望が飛び出してきたって、俺はあの光の世界に辿り着いてみせる。


だってここは、俺の終着点ではない!!


俺はどんどん小さくなっていく光を睨みつけ、足に力を入れて思い切り走り出す。

先程のリーフ様同様、まったく迷いのない足取りで、ただまっすぐ、まっすぐに────。



「見て下さい!!蝶の前に大きな黒い塊が────っ!!!」


ロダンがそう大声で叫んだため、その場の全員がハッ!としながら蝶の方へ視線を向けた後、揃って恐怖で引き攣った表情を浮かべた。

俺もハッ!として意識が戻ってきたが、突然変わる景色に思考がついてこず若干ぼんやりとしてしまっていて、「リーフ様……?』とキョロキョロとその姿を探してしまう。

そうしている間にも、蝶の前に出現した黒い球体の何かは巨大化していき、そして────……。


《────いかんっ!!!おれは恐らく呪いの攻撃だ!!街を狙っているのか!?これでは、街がっ……!!》


切羽詰まった父の声を遮るように、その黒い巨大な球体は街に向かって放たれた!


「きゃあああ────!!!」


ローリンの悲鳴が上がり、ソレが街を飲み込もうとするのを、青ざめて震えながら見つめる父とフリック達。


『もう駄目だ!!』


全員がそう覚悟した、瞬間────突然キラッと光る何かがその黒い球体へ飛び込んでいったと思ったら、そのままあっという間に巨大な球体は消え去り、真上の空が晴れ上がる。

すると、その光から逃げる様に、黒い蝶が後ろに大きく後退したのを見て、俺達は目を見開いた。


《────っ!!??ばっ……ばかなっ!呪いが……消えただと……??!》


父の意識と繋がっている伝電鳥がパタパタと馬車内を飛び回り、その動揺を伝えてくる。

フリック達も何が起きているのか分からずポカンと晴れ上がってしまった空を見つめた。


『呪い』を消し去るなど、『普通の人間』には絶対に不可能。

でも、俺は────『普通』じゃない人間を知っている!


頭に浮かぶのは、常に前にある背中。

これは確信だ。


あの化け物と戦っているのは、リーフ様だ!!


「────ハハッ!」


感情が抑えきれずについ笑ってしまった後、そのまま馬車のドアを思い切り蹴り飛ばしドアを吹き飛ばした。

その瞬間、グラッと揺れる本体に、フリック達は驚き座席に必死に捕まる。

そして慌てふためく父と皆を尻目に、俺は直ぐにスキルを発動させた。



<魔操技師の資質>(ユニーク固有スキル)


< 秘密の宝箱 >


予め多次元空間内に保管しておいた魔道具を、簡易的に作り出した魔道路を通してこの場に召喚する事ができる空間系特殊召喚スキル。


更に多次元空間内に保管されている間、その魔道具の魔力チャージと修復が自動で行われるが、自身のレベルを大幅に超える破損の場合は直すことができないため注意が必要。


(発現条件) 

一定回数以上未知の魔道具の作製に成功する事

一定以上の魔力、魔力操作、知力、魔道具の知識、器用さ、ひたむきさ、努力値を持っている事




俺のスキルによって、馬車の横に固定するように現れた巨大魔法陣。

それに向かって魔力を流しながら、俺は一つの魔道具を召喚する。


「オリジナルゼンマイ型魔道具<バイク>召喚。」


俺の言葉を受け、魔法陣はバチバチと電流の様なモノを周囲に飛ばしながら光り輝き、ゆっくりと一つの魔道具が姿を現した。


前後についた2つの大きな車輪に、まるで時計の内部を思わせる様な複雑な構造をしている胴体部位。

全体的に馬よりも小さく、前後にある車輪の中央辺りに人一人が乗れる幅の鞍がついていて、前部には両手で持つ形のハンドルが着いている。


俺が一から原理を考え、両親に内緒で組み立てていったオリジナル魔道具<バイク>

これも、リーフ様が話してくれた夢の魔道具だ。


《マ、マリオンっ!!一体何を……っ!?》


「マリオン様っ!」


「お待ち下さい!!」


必死に止めようとする皆の声を振り切り、俺は馬車から飛び出すと即座にそのバイクに跨る。

そして────……。


────ギュルルルンッ!!


特徴的な大きな音を立てて、バイクは馬車の進行方向とは逆に走り出した。

グルンッとハンドルを回せば、バイクの動力源であるゼンマイのネジはガキンッガキンッと音を立てて更にスピードを増す。


スピードはスターホース並。

これなら直ぐにグリモアへ到着できるだろう。


身を打ち付ける様な生暖かい風を浴びながらも、後ろは振り返らずにただひたすら前へ前へ。

また空にぽっかり空いていた穴は、徐々に黒いモヤによって塞がっていってしまったが、不安も恐怖も今の俺にはない。


グリモアからそれなりに離れているにも関わらず、空中を飛び回っている伝電鳥と伝言シャボン達。

俺はそれを見上げ大声で叫んだ。


「伯爵<スタンティン家>、マリオン・オブ・スタンティン!!

これより公爵家ご子息、リーフ・フォン・メルンブルク様の命を受け、グリモア防衛線に参戦する!!」



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