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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二十二章

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808 星たちの様に

(ソフィア)


「転移はどういった手順で行っていきますか?」


《【転移陣】が施されている教会の一階にある礼拝者達用の祈りの場へ、まずはソフィアとアゼリアを向かわせ転移させる。

そして次は教会に避難している子供達から、移転を始めてくれ。

周囲の街も、ソフィアが移転でき次第、全てその順番で移転していく。

移転先はグリモアから最も離れた場所に設定したので、そこで私専属の王宮騎士達が保護する事になっているから安心して送って貰って大丈夫だ。

ソフィア、アゼリア、混乱している子どもたちへの説明を頼んだぞ。》


「……はい。」


私の感情など置き去りにし、決定していく計画がただただ恐ろしい。

しかし私にはYESと答える事しか許されず、ただコクリと頷くと、父は一瞬困った様な顔で私を見たが、直ぐにヨセフ司教へ視線を戻した。


《最後は、戦闘中の35歳未満の戦闘員達を下がらせ移転後、直ぐに【聖令浄化】に必要な<聖浄結石>を、規定の位置に送るので発動させてくれ。 

エドワード派閥の者達にこの動きを察知されぬ様、慎重に頼むぞ。》


「承知いたしました。」


ヨセフ司教は深く頭を下げて礼をすると、周りにいる神官達もそれに続き頭を下げる。

その全員の顔には不安や恐怖などの感情は感じられず、ただ強い決意を感じた。


王都もその範囲に入るなら、今この国に脅威をもたらしたであろう者達も全員が道連れになる。

つまり────父は自身の命を掛けて、その全員を連れて行くつもりだという事だ。


私は下げていた顔をゆっくりと上げ、スクリーン越しの父の顔を見つめた。

そして、自分にとって父がどういった人物であったかを一つ一つ思い出す。


我が父ニコラは、平和と平等をこよなく愛する博愛主義者であった。


その理念に従い、毎日国のためにと忙しなく動き回る父と『聖女』として全国を飛び回っていた私とでは、さほど時間を共にすることはできなかったが、王として常に正しくあろうとする姿は私の憧れそのものであったと思う。

しかし、正しくあろうとしても、その正しさと相見えぬ者達も多く存在していた。


『今の事業をもっと大きくして利益を得たい』


そんな野心溢れる商人や貴族達にとって、父の”平等”に重きを置いた統治は、非常にもどかしいものであったらしく、爵位が高い者達はエドワード派閥に、そして実力高き商人や爵位が低い者達は、アーサー派閥を支持する様になっていっていった。


ヨセフ司教の様に、”平等”によって救われる人もいれば、そうではない人達もいるのも事実で、彼らは口を揃えてこう言う。


『こんなに身を削る勢いで頑張っている自分の努力が”努力なき者達”と同じ扱いをされてしまうなど、それこそ不平等ではないのか?』────と。


何が正しくて何が間違っているのか?

そんな迷いが生じていた時、父は私にこんな言葉を贈ってくれた。


『”正しき”は星の数ほどあって正解はない。

だから、夜空に輝く星たちの姿こそ、人が暮らす世の正解なのだと私は思っている。』


そう言って、父は星たちがそれぞれ別に輝き存在している夜空を指差しフッと笑った。


父には父の出した”正しき”があって、自分の選択した正義に則った統治を目指し、それに反発する勢力がある。

それこそが正解なのだと、父は言う。


だからこそ他の星たちを全て消し、夜空を独占しようとするエドワードお兄様に対し、父は今の今まで必死に対抗してきた。

だが……エドワードお兄様は、とうとうここまできてしまった。


父は全てを道連れに死ぬ事を選んだ。

自分の”正しき”を守るために。


「……お父様は私の憧れでした。例え過ごした時間は短くとも、お父様の教えて下さった事は全てこの身に受け継いでおります。

あとは、このアルバード王国第一王女ソフィアにお任せ下さい。

今までありがとうございました。」


短い言葉の中に、最大限の感謝を込める。

それを感じ取ってくれたらしい父は、王の仮面を捨て幸せそうな笑みを浮かべた。


全員がそれぞれの最後を選択し、それを命がけで実行しようとしている。

私も一番選ぶべき選択肢を取り、彼らの想いを受け継いでいかなければならない。


悲しむ暇など、私には許されないのだ。


答えを出した私は父に礼をすると【転移陣】が設置されている教会の一階へ向かうため、そのまま振り返る事なくその部屋を後にした。


◇◇◇

その後、【魔道路】を通り抜け、一階の礼拝用様の祈りの場へと到着すると、そこは恐ろしい程の静けさが漂っており、ひどく冷たいイメージが浮かぶ。

そんな中でも、そこにはいつもと変わらず巨大なイシュル像が静かに立っていて、私達を見下ろしていた。


「……イシュル神よ。」


私とアゼリア、そして私が無事に転移を完了するまで見守ってくれるためついてきたヨセフ司教は、同時にイシュル像へお祈りを捧げる。


いつもは幸せそうな人々の笑い声で溢れている教会内。

今は痛いくらいの静寂に包まれ、酷く不気味な場所に感じてしまった。


「ヨセフ司教、【転移陣】は────……。」


祈りを終えた後、私はヨセフ司教にその場所を尋ねると、ヨセフ司教は巨大なイシュル像の前の大きな台座をどかして、床に手を置き魔力を流した。

するとカッ!と赤く光る線が地面に独特の模様を描いていき、やがて巨大な魔法陣が完成する。

私はその周囲を照らす魔法陣の赤い光に一瞬目を細めながら、まるで大量の血で描かれたみたいだなと思い思わず苦笑いをした。


「さぁ、ソフィア様。魔法陣にお入り下さい。」


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