805 ルセイル王国の歴史
(ソフィア)
『全てが自分の思うがまま』
国も人も自分の欲望を叶えるためのおもちゃと成り果て、全てを手にした王が次に思うことは────……。
『足りない』
王はもっともっと自分のおもちゃが欲しいと願い、目をつけたのは他国の存在。
王はその他国を自分のモノにするため、蹂躙することを考えた。
しかし……当時それぞれの国同士には交流がなかったため、他国の実力は未知数。
その事が、王の足を一旦止める。
『完全なる勝利を収めるためにはどうすればいいのか?』
そう考えた王がまず実行したのは、『兵力の強化』だ。
兵士達へありとあらゆる薬や強化魔法を駆使した強化改造、兵器型の魔道具の開発、生産、そして殺傷性が極めて高い魔法の研究などなど、命を尊重しているとは思えない様な非道な実験を何度も繰り返し、それはもう酷いものだったと言われている。
そしてその探求の手は、とうとう【魔素領域】にまで伸びた。
魔素は酸素とは違い、それ自体に物凄いパワーがある事は当時でもよく知られていたそうで、それを利用することができればさらなる力を手にすることができる────王はそう考えたのだ。
そうして立ち入った【魔素領域】で見つかったのが『呪災の卵』だ。
真っ黒な正体不明の卵という事で最初は酷く警戒していたそうだが、腐って大地に還っていくのを見て王は無害であると判断し、それを持ち帰る事にした。
そして何人かの兵に運ばせようと命じ、兵達がそれに触れた瞬間────……。
────ジュッ!!
肉が溶ける様な音と共にその卵に兵士がくっついてしまい、やがて人の皮膚で覆われた卵へと姿を変える。
それを見た兵士たちは全員真っ青になったが、王だけは違った。
『素晴らしい!!これを有効に活用できれば他国に脅威を与える最強の兵器になるだろう。』
そんな歓喜する王の命令によって、当時【魔素領域】近くにあった犯罪者達を収容している大きな街にそれを運んだのだそうだ。
すると到着した途端、卵は大地に根を張り『ここから決して離れるものか』と言わんばかりに、そこから動かせなくなってしまう。
どうしようかと街で働く兵達が頭を悩ませている間に、卵はどんどんどんどん大きくなり子供程の大きさまで育つと突然────……。
パキッ──ン……!
卵が割れて、中から出てきたのは巨大な鳥の形をした……『呪い』そのものであった。
それはあっという間に街全てを飲み込み、周辺の街々も次々と瘴気に飲まれていった。
呪いという、どうしようもできない強大な力。
更に魔素は瘴気に、そしてそれに伴って各地で起こる大規模なモンスター行進により、人々はなすすべもなく殺されていく。
そうして多くの命が失われていく中、不思議な事にその呪いの化け物は人が悲鳴を上げ恐怖を感じれば感じるほど、そして人が死ねば死ぬほど力を増して巨大化していったんだそうだ。
世界一広大な土地はその半分が失われ【魔素領域】へと変わり果て、このままでは【魔素領域】から最も離れた位置にある王都も全滅してしまう。
それに焦った王は、魔法の研究の際に偶然創り出してしまった禁呪を使う命令を出した。
それが大勢の命を代償に使う<聖令浄化>
王は自身の故郷の街を失い逃げてきた人々や、足りない分は王都から離れた街に住む人々を何の説明もなく『使い』、呪いの化け物を消し去る事に見事成功したのだった。
しかし────悲劇はまだまだ終わらない。
その後の国の行く末はまさに地獄だったという。
国の半分が魔素領域に変わってしまった影響で、四季はもっとも実りの少ない秋と冬になり、まず起こったのが大規模な食料不足だ。
資源もほとんど戦いで使用したりモンスターによって破壊されてしまったりで、凍える寒さを凌ぐ事もできない中の大飢饉により、多くの者達は餓死もしくは凍死してしまう。
それからは街同士の備蓄分の食料の奪い合いや、住んでいた街をなくした者達による治安の悪化、国はもはや国と言えないほど崩壊しているにも関わらず、王と貴族達は自分達の生活を改める事はなかった。
『なぜ自分達が我慢する必要があるのか?』
『だって自分たちは特別な存在なのだから、犠牲になるのは下の者達だろう??』
本気でそう思っていた王や貴族達に話は通じる事はなく、文句をいえば王国の騎士たちによって消されるだけ、そんな日々に国民達の怒りや憎しみは募る。
そんな中、ある一人の男が立ち上がった。
平民でありながら『竜の力』を自在に使える特殊な能力を持っていた男は、まず小さな争いが起こっていた街々を己の力によって次々に占拠、統治下に置くことで、戦力を拡大していった。




