801 ご登場!
(リーフ)
「もしかして蝶々……?」
恐る恐る俺がそう言うと、ケンさんとマルクさん、そしていつの間にか側にいたヘンドリクさんが同時に頷いた。
「おいおい……。呪災の卵っつーのは蝶々が生まれる事もあんのかよ。聞いてねぇぞ。 」
「鳥かと思ってたけど違ったね。
恐らくドロティア帝国で暴れた奴とは全く違う能力を持っていると思った方がいい。面倒だな……。」
「なんと不吉な……。まさにこの世の終わりを表しているようじゃ。」
三人はお互いに顔を合わせて頷きあうと、ケンさんが即座に守備隊員達に指示を出す。
「総員に次ぐ!!呪災の卵の孵化確認っ!!
これより大規模なモンスター行進が予想されるため、作戦通り前衛の盾班でまずは迎え撃つぞ!!
魔法攻撃班は俺の指示を待って待機!
守備隊の誇りにかけて絶対にここは守り切る!!常に連携する事を忘れるな!!
グリモア支部守備隊行くぞぉぉぉ────!!!」
「「「「「「おおおおお────っ!!!!」」」」」」
ケンさんの激励に震えていた隊員達からは、大きな雄叫びがあがった。
ケンさんとマルクさんも背中に背負った武器を構え、来るに備えていたのだが────突然カッ!と光り輝く魔法陣が空に現れた。
なんだ?!なんだ!?と、どよめきながら全員がそれを見上げていると、そこから一人の人物が落っこちてくる。
あれは────……?
「お〜、すまねぇ!出遅れたぜ。」
その人物はのんびりした声と共に俺たちの前に着地すると、ゆっくりと立ち上がり、ニカッ!と笑った。
「世紀のお祭りおじさん代表!ドノバン様だ!俺もお祭りい〜れ〜て!」
「ドノバン!!」
ピッ!と片手を挙げて挨拶するドノバンを見て、思わず驚いて叫んだ。
勿論他の面々も驚いて声を出せないでいるが、とうの本人は全く気にする素振りはなくホジホジと耳をほじる。
「ちょ〜っと王宮で保管している【転移リング】借りちゃった♡」
<移転リング>
マジックリングに【転移陣】を施したモノ
耳をほじっていた小指に息をフッと吹きかけ、目を三日月の形にしているドノバン。
その姿を見てヘンドリクさんが「……盗んだのか?」と呟くと、ドノバンはギク──ッ!!と身体を大きく震わせた。
その反応から、それが事実であることが分かったが、それよりも何故ここに……?
「ドノバンは何故ここに来たんだい?だって────……。」
本来の未来でもここにいたドノバンは、これから何が起こるのかは知っているはず。
勿論100%自分が『代償』になるであろう事も……。
俺の質問を聞くとドノバンは心底嫌そうな表情を浮かべながら、俺に向かってシッ!シッ!と猫の子を追い払う様な仕草を見せた。
「全くよぉ〜。子供はあっちに行ってな。
これはいつも若者達に虐げられている可哀想なおじさん達の、やっ〜と!回ってきた活躍場所なんだぜ?ガキが邪魔すんじゃね〜ぞ。」
俺、年上……。
納得しかねる言葉にムッ!とする俺だったが、ケンさんやマルクさん、ヘンドリクさん達は同時に吹き出し、周りの隊員達からも笑いが漏れた。
更には「おばちゃんもいるわよ〜!」という野次まで飛ぶ。
ケンさんは笑いが収まった後、スッと右手をドノバンへ差し出した。
「あんたぁ相変わらず変わってんな。普通《侯爵》様なんて遥か後ろの方で座って見ているもんだっつーのによ。
あんたくらいだぜ?前線に飛び出してくる奴なんてさ。」
ドノバンはニヤッと笑って、差し出された手をしっかりと握る。
「座っているだけじゃ〜痔になっちまうだろ?上の連中のケツは全員お陀仏だ。ご愁傷様〜。
俺は絶対嫌なんでぇ〜騎士として戦って死ぬって決めてるんでぇ〜。
────まっ!ここは最高の舞台ってやつだからな!
ツンツンして可愛くねぇ若者達に、おっさんとおばさんの凄さ見せつけてやろうぜ!」
「……そりゃ、毎日セクハラ三昧の酔っ払いおじさん相手には、ツンツンするに決まってるじゃないですか。」
バチ──ン!とノリノリでウィンクしたドノバンだったが、空から聞こえた声に途端にウゲッ!!と嫌そうな表情になる。
新たに上空から聞こえた声に全員が空を見上げると、ドノバンが来た時と同じ魔法陣が浮かんでいて、そこから一人の青年が落ちてきた。
空に溶け込んでしまいそうなスカイブルー色の髪に、爽やかさ100%!の王子様フェイス。
第二騎士団現役副団長<ユーリス>さんだ。
俺達の前に落ちてきたユーリスさんは地面に着地すると、そのままゆっくり立ち上がりフッと不敵に笑う。
「全く……。騎士団をとっくに引退した御老体は、後ろに引っ込んでて下さいよ。ここは、現役騎士のこのユーリスにお任せを。」
「お、おまっ!!ユーリス!なんでお前がここにいんだよ!?
第二騎士団は王都の警護を任されていたはずじゃ……?」
ワナワナと震えながらユーリスさんを指差すドノバン。
それを受けているユーリスさんは、ハ〜ンっ?と馬鹿にしたような笑みを浮かべて言った。




