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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二十一章

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798 本当にありがとう

(リーフ)


「カルナがくれた『幸せの場所』。そして、彼女が残してくれたかけがえのない宝物であるリーン。

それを絶対にこの手で守りたい。

今は、才能に胡座を掻いてただ戦ってきた過去の自分も良かったと思っているんだ。

この力で私は最後まで戦うよ。

ここは絶対に通さない。リーンも街の人達も守りたいと自分の意志でそう思ってる。」


マルクさんはそう言い切って背中に背負い込む巨大な折りたたみ式の武器を手に取った。


────ガシャンッ!!


大きな音を立ててそれは形を変え、俺の前にその全容を見せる。


巨大な大鎌。

更に柄の先端の方に鎖で繋がれたトゲ付き鉄球がついているという、見たこともない形の武器であった。


「凄い武器だね。初めて見る形だ。」


「そうでしょう?これは昔使っていた自分なりに考えて作った特注品の武器なんです。

だけど、恥ずかしながら手入れをしてなかったせいで、錆びて使い物にならなくなっていて……。

少々困っていましたが、ちょうど半年前くらいにガンドレイド王国に仕入れに行くという商人さんがいて、その人に頼んでメンテナンスをして貰いました。間に合ってよかった……。

これで全力で戦える。」


マルクさんは嬉しそうに武器を撫でたが、そんなマルクさんをケンさんは鼻で笑う。


「おいおい、現役守備隊舐めんなよ?お前の出番なんざねぇってくらい俺が活躍してやんよ。

俺の新しい相棒……この『巨大盾』でな!」


そう言ってケンさんは、大盾よりも更に大きい巨大盾を背中から下ろし俺に見せびらかす。


独特の白い光沢に、ビンビン漂う威圧感

これは……まさか……!?


「もしかして、コレ、全部ミスリルかい?!この大きさで全部??」


「くっくっく……流石は『救世主様』お目が高い。

ミスリル製の巨大盾、俺の特注品がやっと完成したんだよ。

これを作るために、何年もコツコツコツコツお小遣いを貯めてはミスリルを買い集め……やっと!やっと……っ!!や〜〜────っと完成したんだ!

もう、俺、こいつと結婚するぅ〜。」


巨大盾にチュッチュッチュッ♡とキスし始めたケンさんを、マルクさんは笑顔のまま冷めた目で見つめる。


「……へぇ〜、ケンはその子と浮気して再婚するのかな?若い子に走って……いい年したおじさんが気味が悪いよ。

これでナッツちゃんの親権は奥さんの<ニーナ>さんだね。

若い子をとって、奥さんと子供を捨てるなんてとんでもないゲス男だ。ふーん、へぇー、そうなんだー。」


「おいおい、変な事言うのやめろよなー。俺はニーナ一筋ですぅ〜。

ニーナとナッツは俺の一番の宝物なんですぅ〜。

────だから絶対に守り抜くさ。勿論、街の奴らも同様にな。」


ケンさんは巨大盾を背中にまた背負い込むとおちゃらけた雰囲気を引っ込め、真剣な眼差しを俺に向けてきた。


「それができるのは『救世主様』、お前のお陰だ。本当にありがとう。」


そう言ってケンさんは、深々と頭を下げる。

そして隣にいるマルクさんまで出していた武器を折りたたんで背中に戻し、同様に俺に頭を下げたのでびっくりして目を見開いた。


「俺のお陰???俺、別に何にもしていないよ。一体何を?」


「いや、皆リーフ君のお陰だと皆思ってるんだ。」


マルクさんがそう言いながら頭を上げると、いつの間にか周りの守備隊の人達全員もコチラを見ている事に気づいた。


「リーンも……この街の子供達も全員助かる。

『未来』を救うための準備ができたのは、全部君のお陰だ。

それが戦う者達にとってどれほどの希望になるか……言葉では表せないよ。

本当にありがとう。命を掛けるには、十分過ぎるほどの報酬だ。」


マルクさんが笑みを浮かべながらそう言うと、周りからも「ありがとう!」「ありがとよ!」「ありがとう!!」と、感謝を告げる言葉が至る所であがる。

それらを聞きながら唖然としていると、ケンさんは胸ポケットから取り出した新たなタバコに火をつけると、吸い込んだ煙をフゥ〜と空に向かって吐き出した。


「かつてドロティア帝国を半分飲み込んだ『呪災の卵』。 

そんな呪いの化け物をどうやって倒したなんざ、それなり年食っている戦闘職の奴らなら知っているヤツは知ってるさ。

知らねぇヤツらだって、何となくは分かっている。

ありゃ〜人の命を代償にしねぇと倒せねぇ代物さ。しかも大勢のな。」


煙によって濁った空を見上げながら嫌な予感がして口を閉じると、ケンさんは空を見上げたままフッ……と笑った。


「本当はこのグリモアを中心に、周りの街の大部分が誰であろうとお陀仏だったはずだ。

女も子供も若いヤツらもな。

だがよ、大規模な【転移陣】が仕掛けられたのを知って気づいたんだ。

ニコラ王は『代償の選択』をしたんだってな。」


「『代償の選択』????」


聞き慣れない言葉に俺がそう聞き返すと、ケンさんは無言でタバコを大きく吸い込みもう一度空に煙を吐き出した。


「『代償の選択』は、犠牲にする人間を選ぶって事だ。

ニコラ王は爵位でそれを選ぶお方じゃねぇから、恐らくは年齢で区切ってそれを選んだんだろう。

未来ある若者達を助け、俺達みたいな年配者全員をその『代償』にする。

国を救うために、必要な犠牲ってこった。」


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