788 決闘
(ドノバン)
「────っ〜っ!!?」
その言葉もズガンッ!と心を抉ってきたが、とにかく物理的な痛みのせいで、意識がお玉ちゃんにしかいかない。
そのためしばしの時間、その地獄の苦しみに耐えやっとそれが治まってきたら、今度湧き上がるのは今まで感じたことのない激しい怒りの感情であった。
「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁっ────!!
お前っ!侯爵家の俺を怒らせて、ただですむと思うのか?」
まるで三流の悪役みたいなセリフを吐きながら、イケメン君を睨みつけると、周りの奴らは青ざめて沈黙していたが当の本人はフッと鼻で笑う。
「喧嘩に負けたら親に敵をとってもらうのか?この卑怯者め。」
「────っんなっ!!!??」
あんまりな言葉に煽る様な笑み。
それを見た俺は頭のてっぺんまですっかり血が上り、ビシッ!!とイケメン君を指差し大声で怒鳴った。
「『決闘』だぁぁぁ────っ!!!!」
『決闘』は、<仮想幻石>をつけて行う一対一の一本勝負。
負けたヤツは、勝ったやつの命令を一つだけきかないとならないっていうルールの元行われる模擬戦の一種だ。
それに対しイケメン君は「受けて立つ!」と承諾し、お互いギラギラと睨み合いながら【闘技場】へと向かった。
そうして騒ぎを聞きつけた沢山のギャラリーが見守る中、俺は愛用の大剣を持ちながら、拳を構えるイケメン君を睨む。
相手の資質は知らないが、俺は上級の戦闘資質、一対一なら絶対に負けるはずがない。
そう思っていたし、周りの誰もが同じ様にそう思っていたはずだ。
だから俺の頭の中には、戦う前からすでにイケメン君が土下座をし、ペコペコと俺に謝る光景しか浮かんでいなかった。
「お前、ホント馬鹿だなぁ〜。
侯爵家の俺に逆らって、この国でこれから生きていけると思うのか?
未来を棒に振ってまで正義のヒーロー面したかったとか……。
このクソ痛々しい偽善者が。」
挑発する様に笑いながらそう言ってやると、奴はふぅ……と大きなため息をついた。
「私は正義のヒーローなどではない。
穏やかで平和な世で暮らしたいと常に思っている、酷く臆病で弱い唯の一般人だ。」
「はぁ??お前何言ってんの?
だったらなおさら黙っていれば、その『穏やかで平和な世』ってやつで暮らせるっつーのに、何しゃしゃり出てくんだよ。
矛盾し過ぎだろ。ばっかじゃね〜の?」
全く一致しない言動と行動に笑ってやったが……奴はそれに対し、怒るわけでもビビるわけでもなく、クックッと小さな笑いを漏らす。
「我慢できなかった。」
「────はっ?」
まるで子供の様な事を言い出したイケメン君に一瞬呆けてしまったが、そのままそいつは俺をまっすぐに見つめた。
「お前たちみたいな権力をおもちゃの様に使い、下位の者達を虐げては笑う化け物の様な姿を見るのが、我慢の限界だった。
さっき、フッと思ったのだよ。
私の望む『穏やかで平和な世』とは、こんな見たくもないモノを永遠に見せつけられる世界なのかと。
こんなクソみたいな我慢をし続ける事が『正しい』世界の姿なのかとな。
正直こんな事をしてしまった以上死罪になるだろうと思っているが、今、人生で一番私の心は『穏やかで平和』な状態になっている。」
そう言い切ってスッキリした様な爽やかな笑みを浮かべたイケメン君に、俺は不思議な気持ちを抱いた。
ヤツの顔には、恐怖や後悔などの感情は見当たらずとても満ち足りた顔をしていて……?
「…………っ。」
なんだかよく分からないが、それが最高に癇に障った。
「『決闘』開始────!!」
審判を引き受けてくれた教員が開始の合図を上げると、俺はその怒りに身を任せそのまま奴に向かって飛び出し大剣を思い切り横に振る。
大抵のヤツなら、これでジ・エンド。
しかし────奴はその『大抵のヤツ』には該当しなかった様だ。
剣攻撃をしゃがみ込んで回避し間合いに入ってくると、そのまま重い拳の一撃を俺の腹へ放って来た。
「────っ!ぐっ……っ!!」
一瞬息が詰まった俺に対し、そいつは大声で怒鳴る。
「努力をしない上級資質など、ただのゴミクズだ!!」
それにカッ!!となった俺は、即座に足でイケメン君を蹴ってやったのだが、奴は手をクロスさせしっかりガード。
それにより、怒りは加速する。
「うっるせぇぇぇ────!!!偉そうに説教垂れるな!!
お前みたいな下層民が、この侯爵家の俺に逆らうんじゃね────よっ!!」
ヤツに向かい今度は大剣を振り下ろしたが、一瞬で横に飛んでそれを避けた奴は、そのまま俺の顔に強烈なパンチを叩き込んだ。
「爵位など、戦場で役に立つかっ!!モンスターに食われて死んでしまえっ!!」
その容赦など一切ない攻撃に、体まで吹き飛ばされそうになったが、俺はグッ!と耐え、そのまままた大剣を振る。
「食われるのは、お前の様な下層民だろーがっ!!訳わからねぇ事、言ってんじゃねぇ──よっ!!」




