780 不思議な子供
(ザップル)
《緊急伝煙が上がる少し前》
「あら、ザップルさん今お帰りですか?今日も高ランクモンスターの討伐、ご苦労さまでした。」
依頼書の束を抱えたエイミが俺に話しかけてきたので「ありがとう。」と返事を返し、近くに設置されている依頼ボードへ視線を移す。
そこに張られている依頼書は、モンスターの討伐だけではなく街の人たちからのちょっとしたおつかいなどの依頼も張られていて、それを目にした俺は思わず笑顔になった。
「────うむ!完全ではないが、こうした依頼がポツポツまた出てくる様になるまで街は回復したのだな!俺は嬉しい!」
少し前までは、とにかく命の危険や切羽詰まった依頼書で溢れていた依頼ボードだったが、今は平常通り新人冒険者達が安心して受ける事ができる依頼も増え、高ランク冒険者も安心して依頼を受ける事ができる様にまで回復した。
つまり、それは街の状況も復活してきているという確かな証でもある。
「何だか、すっかり以前のグリモアに戻った感じですよね。少し前までは、危険なモンスター討伐ばっかりでしたから……。
納品依頼が増えた事からも、街の流通は完全に回復したと思って良いでしょう。」
ご機嫌な様子でそう言うエイミに笑顔で答えながら、少し前まではこんな風に笑える日がまたくるとは想像できなかったな〜と思い笑みは深まった。
毎日毎日緊急で入ってくるモンスターの討伐依頼。
耳に入るのは、増加したモンスター達がもたらす深刻な被害情報に、高ランクモンスターの目撃情報。
そんな暗い話題ばかりで心身共に疲弊はしたが、それでも何とか仲間達と支え合って耐えていた。
しかしそんなギリギリの状況の中で起こったのは、王都からのクソ冒険者<ゲイル>と<ナックル>の派遣だ。
そうしてトドメを刺されたグリモアは、窮地に立たされた。
俺が何かをすれば、クラス同士の戦争が勃発してしまうため、耐えるしかない日々────……。
しかし耐えた所で状況は徐々に悪くなる一方で、トップを張っている以上弱音は決して漏らさなかったが、漠然と『もう駄目なんだろうな』という想いは、常に心にあった。
そんな時、そんな絶望を晴らし期待と希望を与えてくれた存在が、突然姿を現したのだ。
俺は笑みを浮かべたまま、ギルドの入口から入ってきた一般人を何気なく見ていると、そいつは、えっほえっほと沢山のフルーツの盛り合わせを持ってカウンターへ。
そしてその盛り合わせを受付に渡し、そのままニコニコと笑顔で去っていく。
その後に入れ替わりで入ってきた他の人達も、同様に何かの品物を持ってきては、受付に渡して笑顔で去っていった。
「毎日入れ替わり立ち替わりよく来るな〜。また『お供えもの』か?
レオンに多次元ボックスがあって、本当に良かったよ。」
「日に日に『お供えもの』が増えてしまって、預かるこちらも大変なんですよ〜。
最近では街の子供たちにも何かしたみたいで、その子たちがどんぐりやらお花やらを毎日お供えしにきちゃうし、何だか賑やかになっちゃいましたよね。
まぁ、多次元ボックスに入れておけば腐らないからいいんですけど……。
────そういえば、レオン君の多次元ボックスの容量ってどうなっているのかしら?結構な量でもケロリと入れてますよね?彼。」
うう〜ん??と悩む仕草を見せるエイミだったが、悪い事ではないため俺はハッハッハッ〜!と大声で笑った。
『救世主』様などと大層な名前をつけられてしまったのは、僅か12歳の子供で、名前は<リーフ>。
リーフは最初は普通の、なんてことはない普通の少年だと思いきや────次から次に度肝を抜かれる様な行動を起こし、今では知らぬものがいない程の有名人になってしまった。
ナックルをぶっ飛ばしてくれた時は、期待と希望で胸はワクワクと高鳴り、気がつけば心に巣食う『絶望』は遥か彼方へ。
それからも誰もどうすることのできない事だけをサラッと解決しては、気がつけばもう次の場所にいる。
その姿を見ると不思議な事に誰も彼もが「俺も──……。」「私も──……。」と各々のペースで動きだし、あっという間にグリモアは以前と……いや、以前にも増して活気を取り戻してしまった。
「何だかリーフって、本当に不思議なヤツだよな。まだ12歳なのに、大胆だし何かにつけて動じない。
マイペースだが意外にも周りは見ているし、人を引っ張っていくタイプではないのに一緒にいると気がつけば背中を押されている様な気がするんだ。
でも、その進む方向を教えてはくれないというか……う〜む!分からん!」
自分で言っていてもサッパリな内容に、勿論エイミも分かるはずもなく「何言ってるんですか……。」とため息をつかれてしまった。
しかし本当にリーフという子供のイメージを掴むのは、本当に難しい。
何か計り知れない何かがある様な……時々遥か年上の人間と話している気分にさえなってくるから、本当に不思議だ。




