777 希望と始まりのイシュル像
(リーフ)
俺が恐る恐る声を掛けると、先生たちは大きく体を震わせた後、一斉にレオンを指さした。
何でも先生たち曰く、物凄い殺気が突如学院内に発生したため、慌てて飛んできたのだとか。
なんてこった!大事になってしまった!
頭を抱えた保護者の俺は、すぐさまレオンの上から降りてフラン学院長のところまで行き、謝罪と事の顛末を話した。
「なんと!イマジナリーフレンドとな?」
「そうそう。その子と無事仲直り?したみたいだからもう大丈夫みたいですよ〜。」
難しい顔でそう呟いたフラン先生は、スキルで出したらしい巨大ハンマーを消して、教員達全員に武器を下ろすよう指示を出す。
その姿はいつも通りとても貫禄あるものであったが、未だに小さな女の子にしか見えないフラン学院長の外見だけ見るとその状況に違和感を感じてしまう。
「そういえばフラン学院長ってドワーフ族なんですよね。」
「何だ、急に?その通りだが……?」
俺はその答えを聞いて、ふ〜む?と唸りながらジロジロとフラン学院長を見下ろした。
ドワーフ族は剣や防具などとにかく制作系に非常に特化した器用さならNO・1な種族だが、実は身体的能力で言えば体力や腕力なら人族よりも上で獣人にも引けをとらない。
そして外見的な特徴は身長が小さく、そのため幼く見える事で男性のドワーフなどはそれを嫌い貫禄をつけるためヒゲを生やすのが昔では普通であったそう。
しかし女性はヒゲなどが生えてこないため、かなり歳をとっても成人前に見える者達も多く、フラン先生も例に漏れずにそれに該当しているというわけだ。
急にジロジロと見下ろしてくる俺に居心地が悪かったのか、フラン先生は体を小刻みに動かしていたが、俺はそんなフラン先生の外見をじっくり見て、確信した。
未来の夢で見たアゼリアちゃんのお母さんは、恐らく『ドワーフ族』だ。
夢で見た映像では成人しているか否か?に見える程幼かった謎の小さな女の子は、言っていた言葉から多分アゼリアちゃんのお母さん。
なら何故人族の国でメイドさんに?という疑問が浮かぶ。
ドワーフ族はその特性と価値観から大抵は鍛冶屋などの武具や防具を扱うお店や制作系の仕事にしかつかないし、外見が子供の様に見えるためこの国ではあまりドワーフ族を積極的に雇おうとしない。
それにも関わらずその悪いお父さんのお屋敷で働いていたとすれば……。
もしかして、ドワーフ族の価値観に基づいた能力に恵まれず、自国に居場所がなかったのかもしれないな……。
俺はその考えに行き着き、深い深〜いため息をついた。
身分、力、魔力、知力……そしてものづくりのセンスや能力と、それぞれの国ごとに重視されるものは違う。
それはつまり、その場所に求められる価値ある能力に恵まれなかった者にとって、その国で生きていく事はとても難しいと言うことだ。
これでも他の国との国交がある分、大昔よりは遥かに生きやすくはなったらしいが、それでもまだまだ。
俺はフッと後ろを振り向きレオンへ視線を向けると、そこには幸せそうに微笑んでいるレオンの姿があった。
レオンも、広い世界の中で自分に合う場所を見つけてそこで生きたいと思うのかな?
世界が消えてしまうまで。
その時隣にいるであろう『誰か』を想像し、何だかモヤモヤモヤ〜としたものがサウナの様に心に広がった。
それを必死におじさんチョップして蹴散らしながら、続けてアゼリアちゃんの方へ視線を移す。
アゼリアちゃんは現在俺よりやや大きい身長である事から、恐らくは人族。
獣人との子供は全員獣人になるが、ドワーフ族との子供は確率的には半々────要は遺伝子に従った『運』で生まれてくるので、アゼリアちゃんは人族として生まれたが、その身体的能力はドワーフ族のモノを受け継いだのでは?と思われる。
ドワーフ族本来のパワーと器用さ、それに人族の順応力やスピードなどがプラスされたハーフちゃんは、型の多さから難しいとされる刀を扱う資質【闘武士】からすれば、その能力を最大限に引き出すことができるまさにベストボディ。
ラッキーラッキー!
その幸運を喜んでいると、ハッ!と続けて思い出したのは、未来のビジョンにて、そのドワーフ族のアゼリアちゃんのお母さんがいた場所だ。
大きな海と崖。
そして崖の上には巨大なイシュル像とその周りには沢山の剣の像が飾られていたがあそこは一体……?
「フラン学院長!一つ聞きたい事があるんですけど……崖の上に建っているイシュル像と周りに沢山の剣が刺さっている場所って知っていますか?」
「??あ、あぁ。それは勿論知っておるぞ。有名な場所だからな。
【希望と始まりのイシュル像】だろう?
ガンドレイド王国の<ボイール>という街に建てられている。
……元々あの崖は、死んだ者達を水葬するための場所でな。
天国に一番近い場所と、大昔から言い伝えられてきた神聖な場所だ。」




