776 えっと?何か??
(リーフ)
<違和感その1>《毎日話している》
そもそも俺と365日24時間一緒にいるのに、どうやって毎日会い、しかも愛を深めたのか……?
考えてみれば、レオンが俺と別行動したのは、ここに来てからたったの2回。
1回目は変態集団に襲われた時、そして2回目は昼休みに図書館に行った時の非常に短い時間だけ。
こんな短期間で婚約まで辿り着くほどの愛情は育つものなのだろうか??
<違和感その2>《専属契約を使う際のコスト面》
レオンは冒険者ギルドで稼いだ自分の取り分は、現在全て俺に献上している。
勿論俺はそれを使い込んだりはせず、将来レオンが独り立ちをした時の資金にしようと貯金してはいるが、現在のレオンの手には一銭もない。
つまり────手元にお金がないのに、目の玉が宇宙にいくほど高い専属契約料金を払えるお金がないということ!
「あ〜……。うんうん。なるほどね〜。」
何故そんな簡単なことに気づかなかったのかと頭を抱えてしまったが、過ぎた事よりとにかく今を考える。
つまりつまり、この2つの違和感から導き出される答えは一つ。
そのモテモテで大変な絶世の美少年は────……。
レオンの『イマジナリーフレンズ』じゃない……?という事だ。
あちゃちゃ〜!と、手を額に当てて目を閉じた。
レオンの頭の中で作り上げた存在しない少年。
いわゆる理想の恋人。
まぁ、それを考えると『イマジナリーボーイフレンド』?ってやつの様だ。
予想外の答えに頭はズキズキ痛みだし、額に当てていた手を頭に回し優しく擦る。
子供返りに記憶喪失、そしてイマジナリーボーイフレンドときたら、一体この次は何か来るのか?と、いっそ楽しみになってきた。
「────ハハッ!」
漏れる笑みとは正反対に、心はズズ〜ンと凹んだが、それは必死に笑顔の下に隠す。
そして席に着席して、ポリポリ小麦焼きを食べているモルトとニールへ目を向けると、直ぐに両手をモニモニと動かした。
《レ・オ・ン・こ・ん・や・く・しゃ・ニ・セ・モ・ノ!》
幼なじみ〜ズの俺達のみに通じる、モールス信号ならぬ『リーフ信号』。
以前遊ぶために作ったのだが、中々便利でこうしてたまに活用している。
その信号を受け取ったモルトとニールは驚愕の表情を浮かべた後、グスングスンと涙を流し『分かります、分かります!』と言わんばかりに何度も頷いた。
急に泣き出した2人を見て『何だ?何だ??』と言いたげな皆に対し、モルトとニールはヒソヒソヒソとレオンの『イマジナリーボーイフレンド』の存在について説明する。
すると、全員が何とも言えない同情的な目をレオンに向けてきたので、俺はこの時点でできる事について考えた。
前世で数多くの子供たちを見送ってきた俺としては『イマジナリーフレンド』は、そこまで珍しいというものではない。
ふっとした時に誰もいない場所で喋りだす。
透明な何かと突然遊びだす。
そんな子供をポチポチと目撃したことがあったが、それは全員が歳を重ねる事で自然と治まっていった。
その存在を否定してしまうとますます酷くなるため、基本は放置。
何かを聞かれた時だけ「じゃーその子も一緒に遊ぼうね〜。」などと肯定を続けていれば、不思議な事に、いつの間にかそのフレンドは姿を消してしまうのだ。
鼻先でワシャワシャ〜と頭を乱してくるレオンの好きにさせながら、現状俺が取るべき最適の行動をトリ頭フル活動で考えて考えて────……。
『強欲な両親に虐げられながらもCランク冒険者という高い実力を持ち、健気に働いていて、謎の理由で娼館と仮契約を交し、更にはレオンを婚約者候補NO・1にしてくれている絶世の美少年』
────という設定のイマジナリーボーイフレンドを否定してはいけないという結論に至る。
……ニッコリ!
その答えにたどり着いた俺は、笑顔でパチパチとレオンに拍手を贈った。
「そっか、そっか〜!レオン、婚約おめでとう!あとは結婚まで一直線だ!
お相手は永遠に待っていてくれるだろうから、安心してゆっくり関係を進めていけばいいよ。」
「はいっ!!俺はちゃんと『待て』ができる器の広い男ですから。
これで俺達は婚約者……何だか夢みたいだ……。
やっとここまでたどりつきましたね。長かったな……。」
憂いるレオンの表情から伺うに、そのフレンドさんとは随分と壮大なストーリーがある様子だ。
凝り性のレオンの事。
きっとその設定だけでも本になるくらい、細やかな自分設定があるに違いない。
それを知っている俺は驚くことなく、レオンの頭を撫で回しながら、ホッと胸を撫で下ろす。
とりあえず、訳ありの悲劇の少年が現実に存在してなくて、良かった〜。
安心したので、ペタペタとくっついてくるレオンから視線を逸し、フッと周囲へ視線を移すと────……俺達の周りを取り囲む、完全戦闘態勢の全教員達の姿が目に飛び込んできた。
「────ヒュオッ!!!??」
驚きすぎて、変な音を立てて息を飲み込む。
ジリジリと足を動かしながら、俺達がいるテーブルを囲うように各々の武器を構える教員達。
その最前列には、クルト先生やルーン先生、フラン学院長にセリナ副学院長にレナ先生がいて、険しい表情で汗をダラダラ垂らしながらこちらを睨みつけていた。
「あ、あの〜……何かあったんですか……???」




