775 違和感大爆発
(リーフ)
赤ちゃんは絶対におもちゃを舐めたがるから、大変大変。
レオンもさてはこっそり舐めてるな〜?部屋に置いてあるおもちゃ!
カルパスに貰ったカゴいっぱいの赤子グッズ。
それがむき出しで寝室に置いてあるのを思い出し、しまった!と今更後悔した。
レオンの手が届かない所に隠さなきゃ!と直ぐに思ったが、背が俺より高いため上は駄目。
隠し場所について頭を悩ませているとレオンは俺の手をギュッと握り、意を決した様に喋りだす。
「でも……本当に不安なんです……。
最近はなんとか代用行為で心を慰めてはいますが、日に日に好意的な目は増えていく……。
俺が一番近くにいるのに誰も諦めようとせず、常に沢山の人が群がってきます。
『ルール』に従いながら、現状どうしたら楽になるのでしょう。」
悩まし気に息を吐き出すレオンに、俺はムムッ!と眉を寄せて難しい顔になった。
レオンの想い人は、信じられないほどモテモテの少年らしい。
まぁ、絶世の美少年であるそうなので予想はしていたが、更にCランク冒険者、魅力溢れる人とくれば、確かに心配は尽きない。
「ふ〜む……。それは────……。」
ジッと切なげに見つめてくるレオンの心情を大体把握し、困ってしまった。
『嫉妬をどうしたら抑えられるか?』
レオンが知りたいのはコレ。
それに対して俺がパッと思いつく事と言えば────まぁ、結局は例えどんな状況であれ、その不安が完全になくなる日はないんじゃないかな〜?と言う事。
人の気持ちは変わる時は変わるし、その変化が良い所でも悪い所でもある。
だからその不安なんてものは結局、変わっちゃうものに求めるよりは、その時その時で自分が納得できるものを見つける方が早いんじゃないかな〜と思う、多分。
うう〜ん……?
俺は背中を支えているレオンの手に全体重をかけながら考えて考えて────……とりあえずは、絶世の美少年さんにこうしろああしろと言うよりは、レオンの素直な気持ちを伝えて現状貰える口約束を増やすしかないかも〜と考えた。
「とりあえず、レオンの望んでいる事を口にして完全に『婚約してほしい』と頼んでみるのはどうだろうか?
結婚できる歳まで待っててほしいから、それを結んで欲しいって。
例え口約束でも約束は約束だし、多分好きならいいよって言ってくれるかも────……。」
「────えっ!!!?そ、そんな事で婚約してくれるんですか??!!
それって候補者ではなく、完全に婚約者として認知してもらえるって事ですよね!!
────っ!!やった……っ!!やった……やった……っ。
あぁ!!どうしよう!!
そんな簡単な事で、俺達婚約できちゃうんですね!!」
イメージは『将来僕たち結婚しようね!』と言い合う幼稚園児────的な軽い調子で言ったのに、レオンが普通ではない食いつきを見せてきたのでびっくり仰天してしまう。
「お……う、ううん???」
勢いに押されて一瞬固まったが、とりあえず斜め上に向かって3・2・1しようとしているロケットの気配を感じ、俺は慌ててレオンに言った。
「レ、レ、レオ〜ン?ちょっと落ち着こう。あくまでこれは口約束で、未来はまだ未定のお話でね?
ほら、まだレオンもお相手も12歳で将来を決めるのは────。」
「俺と!!どうか俺と結婚するまで他の誰も選ばないで下さい!!
────はい、これで永遠に側にいるのは俺だけになりました。
元々広い世界の中で、おもちゃ達を消さずに遊ぶにはこれ以外方法はないのですから……これでいいですよね?
あ──良かった。リーフ様が納得できる方法が見つかって!これでもう俺だけですね、婚約者。」
「えっ???えぇぇ……??う、ううん???」
怒涛の勢いで話される内容に、俺の心からは次から次へと不安な気持ちが飛び出してきた。
も、もしかしてこれ、レオンの一方通行な片思い……だったりしない?
少しだけ悪い言い方するとストーカー的なヤツ!
ゴクリと唾を飲み込み、『いや……まさか……。』『ウチの子に限って……。』と否定する言葉を口の中で呟いたが……今までのレオンとの思い出が邪魔して、その考えはどんどんと俺の思考を占拠しだした。
こだわりが強くて極端思考。
何かに執着すればそれが達成するまでゴネ……じゃなくて絶対諦めない頑固な性格!
もしこれが恋愛面で遺憾なく発揮されたとすれば、やんわり断ろうとしている相手に、ものずご〜くしつこくゴネたのではないだろうか……?
『はいはい。じゃあ沢山いる婚約者候補の一人って事で〜。』
だからこそ、相手は面倒……じゃなくて一時的措置によって、こんな感じで話をはぐらかしたんじゃない??
「レ、レ、レ、レオ────ン!!ちょっ、ちょっ、ちょっと聞いておくれ!!ホントにホントに聞いて?!
ま、まず選ばれる前に、その相手の子とたくさんお話して、それでお互いを知る事から始める事が凄く重要で────。」
「??お話なら毎日しています。俺が知らない事は何一つありませんよ。
他に比べる対象などいない絶対的な美しさと同時に気高く高潔な内面、『世界』全てを簡単に包みこんでしまう様な慈悲の心を持つ至高の方。
そんな方が全部、全部俺のモノ。
────あ、勿論それに胡座はかかずに、最短で結婚をしてそれを完全なモノにするつもりですので、ご安心下さい。
引き続き、稼いだお金は全てお渡ししますね。」
盛大な惚気とそのはじけっぷりに固まる俺の鼻先を、スリスリと優しく撫で、続けて俺の頭皮の匂いを嗅ぎ出すレオン。
それを大人しく容認している間にも、俺の中の違和感はどんどんどんどんと強くなっていき……突然パパ──ン!!と弾けた。




