772 矛盾点が一杯
(リーフ)
あっちを見てもこっちを見ても、お客さんは全員ムキムキ。
そしてフワフワした耳や尻尾などの身体的特徴を見る限り、そのお客さん達はほぼ全員が獣人さんのようだ。
獣人さんに人気のお店なんだろうか……?
ふむふむ……と推理しながら、続けてそれを相手にする定員さんへと視線を移した。
ムキムキ獣人さん達と、とてもフレンドリーに話している店員さん達。
その和やかなで楽しそうな雰囲気は、百点満点。
しかし────……その全員が、えらくゴツい武器をしっかり装備しての対応のため、フリフリドレスとのミスマッチ感が凄い。
ぎゅ……牛丼の上にプリン的な??
またしても考え込んでいる俺の前で、今度は突然『本日のお楽しみイベント』なるものが始まった。
────ムムッ!!
エチチな匂いがプンプンするそのイベントに、大きく反応した俺は、窓に顔をギュムッ!とつけながら中を覗き込んだ────が……?
「レディ〜……マッスル!!」
「「マッスルマッスル!!!」」
元気いっぱいな掛け声で始まったのは、なんと『腕相撲大会』だった。
膨張する筋肉と筋肉。
浮き出る太い血管に、鬼気迫る表情……エチチな雰囲気は微塵もない。
更にそれに参加した4人は見事(?)に店員の女の子達に完敗し、床に叩きつけられ気絶していたので、修行の一種と思って大丈夫そうだ。
ここでやっと疑いは、完全に晴れる。
「ハハッ……。」
とんでもないエチチなイベントを思い浮かべてしまった俺。
恥ずかしさに耐えきれず、隠れる様にレオンのマントの中にスポッと入り込み、レオンのぬくもりに包まれたまま、直ぐにその場を後にしたのだった。
ちなみに4人は婚活と謳って、よく街なかでナンパにも挑戦している様だが、基本モルトとニールは女の子達から完全無視。
レイドは下品な言動が目立つため殴り飛ばされ、メルちゃんに至っては、物乞いと間違われてパンなどの食物を渡される始末。
目的の結婚に至るまでは随分遠そうだ。
グススン……と、すすり泣きまで始めた4人を、サイモンとリリアちゃんはフッと鼻で笑った後、サイモンはレイドの出した紙を手に取り改めてよ〜く観察し始めた。
「……ふ〜ん?レオンの婚約者ってそんな物凄い美少年なんだ?
────で、歓楽街系のお仕事……って、あれ??でも、おかしくない?
だってそれ系のお店って、僕たちの歳じゃまだ働けないよねぇ?」
そこで俺を含むその場の全員が、ハッ!として動きを止めた。
歓楽街にあるお店で働く仕事は様々だが、基本的にお酒を使うお店や身体接触系のお仕事は、18歳以上からでないと実際には働けない。
『15歳で成人の扱いだからいいんじゃないの? 』
そう最初は不思議に思ったが、ここでまた出てくるのは子供大事大事なイシュル教会の教えだ。
12歳で準成人、これは『神の子供』から『人』の身へと変わったよ!という合図。
それから成人の15歳までは『人』の身に慣れるための期間……つまり研修期間の様な扱いなのだほうだ。
そして、晴れて『人』のカテゴリーに完全移行したよ!の成人15歳を迎えると、今度は『人』としての成人期間がスタート。
つまり、この成人とは『人』の0歳児に換算されるということ。
ちょっと0歳児では完璧な大人とは言えないよねぇ〜?という考えの元、お酒やエチチな事はNG。
要はその0歳児に神の遣いである子供が出来てしまった場合、その子供が不幸になる可能性が高いよね!という点を考慮している様だ。
そのため、それから約三年くらいはゆっくり期間を置いて、18歳から『人』として一人前。
それからはどうぞご自由に、ご自身の人生を謳歌して下さいねぇ〜!────って事で、歓楽街系のお仕事も勿論ご自身の責任でどうぞ?になる。
その事を思い出した俺。
────あれ?
…………あれれれれぇ〜???
全員の頭が横に傾き、一周回って斜めの世界が正しい姿になっている中、リリアちゃんが一番始めにスッ……とまっすぐに立ち直る。
「確か歓楽街のお仕事自体は12歳では無理ですが、お皿洗いやお掃除などの裏方のお仕事なら問題ないので、それでは?
でも稀に、親の借金などによって早いうちから裏方として秘密裏に売られ、15歳で実際に働く方々のサポーター、そしてその後18歳で本格的に無理やり働かせる……というお話は聞いたことがあります。」
それに対し、酷く冷ややかな目で次に立ち直ったのはソフィアちゃん。
うっすら笑っているが、その雰囲気は酷く冷たい。
「まさに我が国の汚物汁と言える悪魔の所業です。
本人の意思無くその様な事をする輩は、我が教会が発見し次第全員奴隷としての人生を贈って差し上げているので、もしそうならば是非教会にお任せを……。」
それに負けじと、俺もカシャカシャカシャ!!と凄まじい勢いで脳みその処理完了!
子供を秘密裏に売る様な行為に、おじじの怒りは大噴火!!
直ぐに後ろで我関せずと省エネモードのレオンに迫った。
「なんてことだ!そんな事情があるお嬢さ……じゃなくて坊やだとは……!
何でもっと早く言わないんだい!?
ちゃんと婚約者さんの事話さないと駄目じゃないか!!」
「────えっ!!?で、でも……まっ、まだ完全に決まったわけではないですし、お、お付き合いの段階で……いつかはって……事でしたから……。
まだまだお金も足りてませんし、リーフ様が困るのではと……。」
オロオロとするレオンを見ながら、俺はフ────ッ!!と大きく息を吐いた。
多分レオンはそのトラブル満載美少年の事を話せば俺に迷惑が掛かると思い、話さなかったに違いない。




