769 なぜなぜドロティア帝国
(リーフ)
「もうっ!何で僕も食べさせてくれないんですか〜!
そんなすんごいものを食べさせてくれるならぁ〜た〜くさん!サービスしたのにぃ!」
そう言って、うるうるお目々でチラッチラッと襟を捲って鎖骨を見せてくるサイモン。
それにシラっ〜……とした目を向けて、その顔を横から押しのけて喋り始めたのはリリアちゃんだ。
「……兄さん、黙って。
リーフ様、凄いですね。ランクSSSなんて一生掛けてもお目にかかれない代物ですよ。
たしか────ダイヤエデン・フィッシュの最後の目撃情報は2000年より前だった気がするのですが……。」
顎に手を当て考え込むリリアちゃんに、ソフィアちゃんが同意する様に頷いた。
「えぇ。確かまだドロティア帝国が侵略を始める前に一度だけ大量流通された事があって、この国にもそれが持ち込まれたとされています。
その頃はまだ国同士の交流はなかったので、様々な地へ積極的に赴く商人達が他国から持ち込んだ様なのですが……その出どころは、未だに推測の域を超える事はありません。
さらに激動の時代と言っていいほど様々な事があった時代でもあるので、非常に情報が混乱していて、とんでもない嘘の様な話も多いですから。」
そうして熱い歴史講義を始めてしまった二人を見てホッコリしながらも、少しの興味を持った。
前世での俺の人生の相棒と言っても過言ではない『アルバード英雄記』
それはあくまでレオンハルトの目線だけで綴られた物語だったため、そんな世界の歴史的なものは、詳しくは載ってない。
だから初めて聞く様な話ばかりだが、それを色々聞いてきて思う事は、随分と情報が朝の満員電車並に混雑しているというか……色々矛盾しているのでは?と感じる出来事も多いという事だ。
裁断機でバッサリ切り取ったかの様な『ゼロの歴史』以降、歴史の痕跡はあれど非常に情報が曖昧で、きちんとした確証に基づいた歴史は、ドロティア帝国が侵略を開始したわずか1500年前くらいから。
それより前の歴史は、あくまで自国で起こった事のみ記録されてはいるが、それも『王族と貴族』という身分が誕生した2500年前から当分はドタバタで、嘘か誠か分からない歴史が沢山ある。
そこでフッと、疑問が浮かび上がった。
ドロティア帝国って、何であんなに積極的に侵略を繰り返すのだろう?
スーパー実力主義で、それこそ『力なき者は生きる価値なし!』を貫くドロティア帝国。
そうなるきっかけは何だったのか?
そんな疑問に軽く頭を捻っていると、ジト──ッとした目を向けてくるモルトとニールに気がついた。
「??どうしたんだい?二人共。」
「そんな凄い魚なら俺も食べたかったっす!」
「ダイヤモンドの輝きの魚に、一度お目にかかりたかったです。」
ジロジロジロ〜!と不満を訴えてくる二人に対し、俺は直ぐに 「ごめんごめん。」と謝った後、言い訳する様に続けていった。
「いや〜実はさ、その【森のめぐみ】の店長さんが、それはそれは美しい女性でね。
そんな凄い食材を持っていったら凄いって言ってくれるかな〜って下心があったんだ。だからつい……。」
デレデレ〜とダラシない顔をしながら、頭を掻く俺。
それを聞いた全員がピタリと止まって一斉にこちらを向いてきたため、俺はビクッ!と体を震わせた。
「????な、何だい?皆どうかした?」
どんぐりの様なパッチリお目々で俺を見る皆。
それを見回しながら尋ねると、サイモンが身を乗り出しダンッ!とテーブルを叩く。
「ど、どういう事ですか!?その女と僕、どっちが大事なんですか────っ!!」
その勢いに驚き限界まで頭を後ろに引くと、レオンの硬いお胸にゴチン。
いてて……と地味な頭の痛みを感じる────間もなく、すかさず動いたリリアちゃんがサイモンの頭を鷲掴み、そのままテーブルに思い切り叩きつけた!
「兄さん、落ち着いて?まずは事実確認が必要……そうでしょ?」
そう言ってリリアちゃんは、俺とレオン以外のメンバーへ視線を向けると、その全員がコクリッ……と頷き、一斉に胡散臭い笑顔を顔に貼り付けた。
そしてそれをキープしたまま、レイドがこれまたわざとらしくピュピュ〜と口笛を吹きながら俺に話しかけてくる。
「リ〜フゥゥゥ〜?俺、ちょ〜っと小耳に挟んだんだけどよ?
お前って年上のメスが好きなんだってな!
で?その店長さんっつーのは年上……なんだよな?」
「うん!(身体は)年上だねぇ。
まぁ、でも女性に歳を聞くなんて野暮な事できないから、正確な年齢はしらないけど……多分40代くらい?かな〜。」
ニコニコと答えると、レイドはひたすら胡散臭い笑みを浮かべながら何度か頷いた。
「へ、へぇ〜……。────で?お前、そのメスの事好きなっ────ふぐぅぅぅっ!!!!」
言葉を遮るように右からはモルト、左からはニールの正拳突きがレイドの腹を襲い、そのせいでレイドの体は崩れ落ち、そのまま腹を押さえて沈黙する。
それを見て大丈夫だろうか?と声を掛けようと思ったが、その前にモルトとニールがホタホタと笑いながら話しかけてきたため、意識はそっちに向いた。




