768 天国にいた
(リーフ)
何と言ってもレオンは可愛い物が大好き。
だからどうにもレオンが作るのは、ちょっと可愛いというか奇抜というか……。
今まで着せられた洋服達を振り返り、更にズズ〜ン……と心は重だるくなる。
前なんてお酒大好きウォッカのお祭りで貰ったダンス大会の優勝賞品、あのスケスケ踊り子衣装を完全再現し、それを着させられて踊らされた事もあった。
その姿は、もはや酔っ払いが集まった時の罰ゲーム。
ヤレヤレと困った俺は、リーンちゃんとナッツちゃんに頼み込み、可愛らしい女の子のお人形を貰ってそれをレオンに渡した。
「これで着せ替えしたほうが楽しいよ〜?ほら、ごらんよ。可愛い!可愛いねぇ〜?」
ニコニコと笑いながら、女の子人形を褒めた────のが不味かったらしく、またしても『俺の方が強い』だの、『そんなモノより俺の方が可愛い(?)』だのゴネだしてしまう。
そしてひたすら、くどくどくどくど続くレオンのお話に、付き合う羽目になってしまったのだ。
────ハァ……。
その時の事を思い出すと、大きなため息が出てしまうのは仕方がない。
そうして悶々と色んな事を考えている間に、レオンはテキパキとナフキンを俺の首元に掛け洋服の汚れ防止対策を進めると、挙句の果てには俺の手にしっかりとフォークまで握らせてくれた。
そして<等価交換>のタイミングを、虎視眈々と狙って俺をひたすらジ────っ……と睨みつけてくる、これが俺の現在の日常だ。
「…………。」
……ま、まぁ、お人形遊びもそのうち飽きて卒業するだろう。
最終的にはそう思ったのと、何であれレオンやあげ玉、黒みつの3人が頑張って作ったお洋服を無下にするのは……と考え、結局は『まっ、いっか!』へと舵を取る。
そうして、今日までそんな感じで流されて、全てを諦めた俺は、目の前にあるダイヤエデン・フィッシュのお刺し身に全意識を移した。
光を乱反射させ、キランキランと凄まじい光を放つ真っ白な身。
それがまるでお花が開くように盛り付けられている姿は、ただただ美しい!
それに釘付けの俺とマリンさん、ルルちゃんは、同時にゴクッと喉を鳴らしながらお互い目を見合わせる。
『まずはリーフ(さん)から……。』
二人からそんな圧力を感じ、大きく頷いた俺は、恐る恐るその切り身の一枚をフォークに突き刺し、ゆっくりと持ち上げた。
────と言っても、刺した……という感触は全くなくて、まるで雲を刺した様だ。
「い、いただきま〜す……。」
まずはシンプルにと、それにサッサッと塩を一振りしそのまま口の中に────ヒョイッ!!
するとその瞬間に口の中に広がるのは、ジワっと溶けるような感触と一気に弾ける凝縮された旨味!
────えっ!!!?
その信じられない奇跡の美味しさに目を瞑り、そして開ければ……俺は天国にいた。
「?????」
雲の上、そこにはお花が咲き乱れ、妖精や天使達が一斉に飛び回っては「ようこそ〜!」と俺に話し掛けてくる!
「お、お邪魔しま〜す!」
とりあえず返事を返し、いつの間にか生えている翼を羽ばたかせながら、最終的にはウヒョヒョ〜イ!と目一杯遊び回った。
「…………?」
その後ス────……と意識が現実に戻ると、すぐ目の前に不思議そうな顔をしたマリンさんとルルちゃんの姿が目に入る。
「あ、あれ……??」
『何〜?』と言わんばかりにヘラヘラとしていると、二人曰く俺が刺し身を口に入れた瞬間、急に目を閉じて笑い出したので驚いたとの事だった。
「……天国にいた。」
一言そう伝えると、二人は同時に怪訝そうな顔をする。
食べるのを戸惑っている様子だったので、俺はもう一枚切り身をフォークで刺し、今度はレオンの口へポイッ。
するとレオンが、無表情でいつも通りにもぐもぐゴックンしたため、二人はホッとしながら切り身を口の中へ、そして同時に俺ももう一枚口へと入れた────ら、俺達3人は天国に。
『キャっ!キャッ!』
『うふふふ〜!』
そのまま夢のような世界で、俺達三人は手を繋ぎ、翼をパタパタと動かしながら、妖精や天使達とお空のお散歩を思う存分楽しんだ。
◇◇◇◇
「ダイヤエデン・フィッシュ!!??
まじかよ!!あのランクSSSって言われている幻の魚じゃねーか!」
レイドが突然立ち上がり、そのままテーブルを強くダンッ!と両手で叩いたため、その振動でランチボックスが一瞬宙に浮く。
おっとっと〜!と俺はそのランチボックスを空中キャッチして、優しくテーブルに置いた後、こちらに驚いた顔を向けるいつものメンバーを見回した。
いつもと同じ学院での全員揃ってのランチの時間。
そんなメンバー達に、話題の一つとして、今日の朝にマリンさんの所でダイヤエデン・フィッシュを食べた話をすれば、全員が目を見開いて驚いていた。
そして、その中でレイドがいち早く大声を上げた所だ。
「そうそう。その凄いお魚だよ。いや〜まさか俺、また……じゃなかった。初めて死んで、天国に行っちゃったのかと思っちゃったもん。」
レオンに口を拭き拭きされながら頷くと、サイモンがブス〜ッとしながら立ち上がって顔を近づけてきた。




