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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二章(リーフ邸の皆とレオン、ドノバンとの出会い、モルトとニールの想い)

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(イザベル)74 勝負の行方

(イザベル)


「────ゴホンっ。」


完全に奴の雰囲気に飲まれそうになっていたその時────父上の咳払いにより、ハッ!と正気に戻る。

父上はいつもの完璧な微笑を顔に貼り付けたまま、未だ不思議そうにしている化け物に話しかけた。


「君は……いや、レオン君と呼ばせて貰ってもいいかな?

レオン君は、随分とリーフ様に対して盲信的なようだ。

もしもの話なのだが、リーフ様が今この場で君に死ねと命じたら、君は死ねるのかな?」


「??当たり前だろう。何故そんな当然の事を??」


『死』に対してすら、感情が全く動かぬ化け物。

それに恐怖し震える私とは対照的に、父上は動揺一つ見せずに再度化け物に話しかける。


「……そうか。────ならば、今から君に一つテストを受けて欲しいんだ。

リーフ様のお側に今後ともいるつもりなら、それなりに強くなければ務まらないからね。

目の前にいるイザベルと、剣の一本勝負をしてみてくれないか?

君が勝てば、今後リーフ様のお側にいる事に何もいわない。その隣は君だけの居場所だ。

────ただし、彼女が勝てば、このままここから去って頂きたい。

その場合、君の周囲の環境は必ず改善すると誓おう。

どうだろうか?」


父上の提案を聞いた奴はあっさりと「分かった。」とだけ答え、大事そうに抱えている袋を柔らかい草の上にソッと置いた。


それがまるで愛しい恋人に触れるような優しい手つきだったため、また別の恐怖を感じながら、父上の方へ視線を向けると────……。


『本気でやってみろ』


そう父に目で合図されたため力強く頷く。


その後直ぐに父上は近くの倉庫から木刀を2本持ってきて、私と化け物にそれぞれ一本ずつ投げ渡し、自身は私と化け物のちょうど真ん中あたりに立った。


「剣のみの一本勝負だ。ルールは至ってシンプル、相手に一撃加えた方の勝ち。ただし、致命傷を与えてしまえば負け。

二人のどちらが怪我をしてもリーフ様は悲しむ。────分かるね?」


「分かった。」


化け物は納得した顔で頷き、私も同じく頷いた。

すると父上は、開始の合図を出すため手を叩く準備をしたのだが────木刀を静かに構えた私とは正反対に、奴は構える事はせずただダランと木刀を持っているだけ……。

覇気もやる気も一切感じず、そこにいるだけという出立ちだ。


「────くっ!!ふざけた真似をしおって!」


剣の素人だとしても、もう少し身構え方があるだろう!────と怒鳴りたくなる気持ちを必死に抑え、私は父上の合図を待つ。


ピーンと張り詰める空気の中……私と奴の間に、風で飛んできた一枚の落ち葉がヒラヒラと舞い落ちてくる。

そしてそれが地面にそっと触れた、その時────……。


「────では、始めっ!!」


父上の開始の声が上がり、それと同時に手を叩く音も聞こえた。


試合開始の合図!

その瞬間に、先に飛び出したのは────私の方だ。


奴はただ目の前で、ぼんやり立っているだけ。

そんな隙だらけのやつに向かい、私は完璧なタイミングとこれ以上は無いほどのスピードで、スキル<風読み>を発動した。


常人なら瞬間移動したとしか見えない程のスピードのこの攻撃スキルを、避けることなど不可能だ!


「────私の勝ちだ!!」


勝ちを確信しながら、やつに向かい剣を振り切った────……が、私が斬ったのは宙。

先ほどまでそこにいたはずの奴は、そこにはいなかった。


「────っ!?なっ!??や、奴は────どこに!?」


動揺しながら消えたアイツを探す……間もなく、私の首に木刀が当たっている事に気づいた。


「────っ!??!!」


それを確認できた途端に、心臓は激しく鼓動し始め、汗が大量に吹き出す。


……ドッ……ドッ……ドッ……。


心臓が煩く鳴る音しか聞こえない中、乱れる息を必死に抑え、ゆっくり……ゆっくりと視線を横に向ければ────コチラを見ている空っぽの瞳と目が合った。


────ヤツが私の真横に立っている!!


「………………っ!!?!」


あまりの事に私は足元から崩れ去り、父上は今まで見た事がないような酷く驚いた顔を見せた。


動く姿はこの眼で捉えられず、まるで最初からそこに立っていたかの様に、奴は私の横にいて剣先を私の首に当てている。


空っぽの目で私を見下ろしながら……。


ガクガクと震える私に一切の興味も見せず、奴はただ無表情で私を見下ろしていた。


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