767 ジョリジョリと新作試着
(リーフ)
ちなみにルルちゃんも、年頃のお嬢さんなのにあまり光り物に興味はないらしく、俺とレオンを凝視しニッコリしているだけ。
俺はというと、お金やキラキラより今が楽しいか否かのみに価値を見出すイノシシおじさんなため、高いイコール『そうなんだ〜。』で情報の処理は完了。
そのためニッコリしながら、マリンさんに答えた。
「じゃあ、なおのこと皆でこの刺し身食べちゃおう!そんなお高いお刺し身の味や如何に……だね!楽しみ楽しみ〜。」
「ええ!?私達もいいのかい?」
驚くマリンさんに、俺は大きく頷いて見せた。
何と言ってもこれはマリンさんの好感度を上げるまたとないチャンス!
こんな大チャンスを見逃すわけにはいかない!
そんな下心大アリの俺がキラッと目を輝かすと、マリンさんは困った様に眉を下げたが、直ぐに嬉しそうに笑った。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかねぇ。」
ニッコリ笑顔が、ダイヤエデン・フィッシュより眩しい!
思わず目を細めながら「是非とも!!」と答えた後は、俺の顔はデロデロの締まりのない顔に早変わり〜。
やっぱりねぇ〜世の中は愛だよ愛。
俺は国庫予算のお金より、マリンさんの笑顔の方が100万倍嬉しい!
その喜びに打ちひしがれていると、今度は後ろのレオンの目が光り、俺の耳元でボソボソボソ〜と喋りだす。
「……ジョリジョリ10往復……あと新作試着にダンスでお願いします。」
レオンの覚えた<等価交換>は、流石は英雄……チャンス!と思えばこうして直ぐ飛び出してくる。
『他の子たちをいい子いい子してズルい!』から、今みたいに『僕、退屈だけどちゃんと大人しく待ったよ!』まで……。
そりゃ〜もう様々なタイミングで。
最初の頃は一つ一つ選別し、それは等価交換ではないと否定する事もあったが、レオンの性質『納得するまで諦めない』が発動し、もうそれはそれは、ゴネてゴネてゴネてゴネてゴネゴネゴネ〜…………。
────あれ?もう、言う事聞いていた方がめちゃくちゃ早くない?
それに辿り着いてからは、俺は全てにおいてOKを出してきた。
おじさんの特性の一つ、『基本は流されるままに……』が発動し、レオンのゴネゴネさんと奇跡のマッチング!
そのため俺はいつもの様に「うん、いいよ!」と条件反射で答えると、レオンはラッキー!と言わんばかりにニヤッと笑った。
ちなみに『ジョリジョリ』とは、前世で子供たちによくやっていたヤツで、チョロっと生えたヒゲを顔に擦り付け、その不快感マックスだが何となく癖になる感触を味わわせる行為である。
それを、寝ぼけた俺がむにゃむにゃしながら「はい、ジョリジョリジョリ〜♬」と言ってレオンの顔に顎を擦り付けた所、非常にその感触が気に入った様で、今や大のお気に入りだ。
そのため、こうして事あるごとに、それをせがまれる様になった。
やっぱり子供に『ジョリジョリ』は大人気!
それをされながらキャーキャー喜んでいた子供たちの反応を思い出し、お胸はほっこり〜。
ただ、まだ俺のおヒゲが生えていないため、その真価は発揮されておらず。
だから、今度ノリがいいドノバンにでもやってもらおうと思ってる。レオンに!
名案を思いつきニコニコしていたが……その次に続く言葉に、ズズ〜ンと面倒な気持ちがプラスされてしまった。
『新作試着』
これが最も苦痛というか問題というか……中々俺としては楽しくはないかな〜?に分類される事だったりする。
レオンは俺にウエディングドレスを着せたりしてお人形ごっこデビューをして以来、それにガッツリ嵌ったらしく、暇な時間を見つけては様々な服を自ら作る様になった。
しかも────……。
『何でもお任せ!手先……いや、触手の器用さならば随一でございます!』────な黒みつまで作製をお手伝いし始め、基本戦闘狂のあげ玉が最高級の素材を取りに行き、取ってきたそれを使って二人は黙々と服を作っている。
一着おいくら?と、言いたくなるような洋服たちが3人によって次々と生み出されては、多次元クローゼットにズラリと並べられているのだ。
英雄の資質は、お裁縫もお任せ!
もう、マッサージ師に大工さんに運搬業に……職業幅が広すぎて何が何やら。
「あああ〜……。」
頭を抱えて唸り声を上げると、レオンは俺の身体をヒョイッと持ち上げ素早くお椅子に座った。
ホントは嫌だけど、一生懸命に作ってくれているのに、着たくな〜い!と言って悲しませるのは……ねぇ?
ご機嫌な様子で俺のお手々をモミモミしてくれるレオンを見て、仕方がないので今回もその新作とやらを着る決心をする。
戦闘服やラフな格好……いや、せめて男の子向けの服だけなら良いのに。




