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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二十章

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760 悲しい話

(フラン)


以前悪さをしようとした貴族の生徒達。

それに注意をしようと、私自らがその生徒達の元に行ったのだが……彼らは偶然通りかかったリーフ殿を見つけた瞬間、ヒヒィ───ン!と子馬の様な声を上げ一目散に逃げていってしまった。

それを思い出すと私も……!


「…………〜っ。」


思わず口から飛び出そうになる笑いを必死に抑え込み、改めてその学院内で嵐の中心に存在しているリーフ殿のことについて考える。


その容姿からメルンブルク家から酷い扱い……いや、憎まれている存在であるリーフ・フォン・メルンブルク殿。


現在メルンブルク家の人間達はリーフ殿をどうにかして秘密裏に消そうと躍起になっている様だが、現在全て失敗に終わっている様だ。

だが、学院の入学院試験の際、リーフ殿の暗殺未遂事件があったと聞いた時は流石に驚いた。

それを元第二騎士団団長であるドノバン殿から聞いて、その気配の消し方からも、恐らくはトップレベルの実力者達を相当数集めての作戦だったのが伺える。


『何かしらの対策を……。』


そうドノバン殿に提案しようとした瞬間、私の脳裏にはリーフ殿の隣にいる恐怖の存在が浮かび上がった。

途端に震えだす私を見て、ドノバン殿はバチンっとウィンクをし『大丈夫だから気にすんな〜。』と言って私の肩を軽く叩く。

そして更に続けて『まぁ、2人には学生生活ってやつを謳歌させてやってくれよ。』とだけ言い残し去っていった。


「……リーフ殿は自分の両親を、そして自分を取り巻く環境を恨んだりはしないのだろうか?」


ボソッと呟いた言葉にセリナとレナは笑いを治め、曖昧な笑みを浮かべたまま黙った。


両親は子供にとって『始まりの場所』で、絶対的に安全なその場所から子供は世界の姿を見て育っていく。

世界は厳しく、残酷で、冷酷で、そんな場所に何も持たずに丸裸で出ていけば、あっという間に自分の全てが壊され引きちぎられてしまうだろう。

だから最初、リーフ殿と会うまでは『自分を捨てた親を憎み、世を憎み、全てのモノ達に復讐を……。』と考えている人物であると想像していたが、その考えは100%裏切られた。


「う〜ん……。何だかリーフ君ってちょっと変わった距離感を持っているというか……凄く客観的なんですよね。

でも、自分には関係ないって感じの客観的ではなくて、何だか違う世界に住んでいる人って感じかな?

だから恨みとか憎しみとか、そういった感情を持つイメージがないんですよね〜。

私、リーフ君を見ると、あの猫ちゃんを思い出すんですよ。

あの踊る───……。」


「あぁ、【シュペリンの踊り猫】ですか?」


レナが思い出せずに考え込んでいると、横からセリナが答えた。

するとレナは思い出したと言わんばかりに「そう、それそれ!」と答えた後、話を続ける。


「あの猫ちゃんってフラッとどこからか現れて、勝手に踊りだして、周りの人たちがそれにつられて踊りだすじゃないですか〜。

戦火によって焼かれた地や建物を直すわけでもなく、けが人を治したり何か言葉を掛けるわけでもない。

ただ歌って踊るだけ。

なのに周りの人たちは動き出すんですよ。

自分にできることを探して動き出す、その結果国は蘇っちゃうんです。

その頃には猫ちゃんはどこにもいなくなっていて、それ以後誰一人その姿を見たものはいない───って形で終わっているから、諸説では絶望に沈んだ人たちに『希望』を与えては去る妖精の話では?とも言われてますよね。」


「……確かに言われてみれば似てるかもしれんな。

では、今まさに踊っているリーフ殿の後ろで、生徒達は踊りながらついて行っているところか。」


中々当を得ている話に多少の愉快を感じそう答えたが、横でそれを聞いていたセリナは、少なくとも愉快は感じてなさそうな様子でポツリと呟いた。


「その本、確かにそういった見方があるのですが……私はとても悲しい話に見えるんですよね。

人々に『希望』を与えた猫は、その後、一体どこに行くのでしょう?

一生一人で楽しく踊って人々に『希望』を与え続ける?

それって凄く孤独で……どの世界にも居場所がないんじゃないかってどうしても思ってしまいます。」


考えたことのない視点からの言葉に、レナと私はまた黙る。


確かに孤独といえば孤独……なのかもしれないな。


何となくスッキリしない気持ちを抱いていると、塔の前に待機していたクルトとルーンがこちらに気づいて直ぐに駆け寄ってきた。


「フラン学院長!来てらしたのですか!」


「セリナにレナまでいるのかよ!勢揃いで見学なんて初めてだな。」


クルトとルーンは私達を見渡し、驚いた様子をみせたがその後直ぐに「「気持ちは分か(るけどな!)りますがね!」」と言って笑い、その後ろにズラッと並ぶ他の教員達も同様に笑った。


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