757 リーダー
(クラーク)
更にリーフ様の両手をつかんだレオンは、グイグイと自分の方へ引っ張って、アレもコレもと、恐らくは我慢した事に対する『等価交換』とやらをリーフ様に要求していく。
その気持ち悪い行為は───突然難しい顔を浮かべたリリアが二人に近づいていった事で、一旦中止された。
「リーフ様、扉が開かない原因ですが……どうやら特殊な魔法陣が描かれている事が分かりました。その事についてご相談したいです。」
その言葉に、ほとんど白目を剥いたまま頷いていたリーフ様の意識が回復し、目はキラキラと輝き出す。
「えっ?って事は開くための特殊な条件があるってことかな?」
「そうですね。でもそれが酷く難解で条件が分かりません。
しかし、中にいるボスモンスターは<マジシャン・ウッド>で間違いなさそうです。」
「「「「「マジシャンズ・ウッド!? 」」」」
そのモンスターの名前が聞こえた生徒たちは、全員驚きの声を上げた。
何と言っても<マジシャン・ウッド>は、Aランクモンスター。
正直まだ学生である俺達だけでは、絶対に勝ち目はないであろう強さを持っている強敵モンスターだ。
< マジシャンズ・ウッド >
体長10m超えの植物型Aランクモンスター。
その姿は巨大な巨木の形をしていて植物とは思えぬ非常に好戦的な性格をしており、人も積極的に襲い胴体部分にある大きな口で捕食しあっという間に消化してしまう。
高い物理、魔法耐性にあらゆるデバフに対しても耐性があり、更に攻撃面では無数に出現し伸びる枝と樹冠部に生えている葉っぱを飛ばす物理攻撃に加え、全属性魔法の適性を持っているため近距離、遠距離もほとんど隙がない。
そのため大部隊での討伐が強く推奨される。
個人個人で戦っても勝ち目はないモンスター<マジシャンズ・ウッド>。
どう戦うか……?と、つい考えてしまったが、結局はそのモンスターがいる部屋に入れないのでは意味がない。
そのため、とりあえず俺もその扉の前にある台座に行ってみようと、足を一歩前に出した、その瞬間───……。
───ガラ〜ン♬コロ〜ン♬
空いっぱいに大きな鐘の音が響き、その煩さにその場の全員(化け物レオン以外)が耳を塞いだ。
そして、それがやっと収まった頃───続けて女性の?アナウンスの様な声が響く。
《一年生全員の認証が完了いたしました。
扉の『ロック』を解除することができます。───解除しますか?》
『ロック?』
『解除?』
その言葉に疑問に思ったのも束の間、直ぐに扉の前の台座からフワッと魔法陣が浮き出てきて『解除する』と言う文字に形を変えた。
どうやらその文字に触れると扉が開く仕様のようだ。
「「「 うおおおお───!!! 」」」
扉の突破方法に気づいた全員が、一斉に歓喜の声を上げる。
そうして騒ぐ生徒たちの中、ソフィア様が冷静にその台座の方へと近づき、その文字を繁々と見下ろした。
「───なるほど……。どうやら扉に掛かっていたセキュリティー魔法は、一年生全員がこの扉の前から一定の距離以内にいなければ、解除できないものだった様ですね。
クルト先生の『力を合わせて頑張れ』は、これの事でしたか。」
そこで気づいた。
この『塔の制覇』の本当の狙いを。
解除の最後の一歩になった自身の足を見下ろしながら、フラン先生の狙いについて考えた。
いつもはライバル関係にある生徒たち。
通常なら塔の攻略途中で、いがみ合ったり蹴落とし合ったりすることがある。
我先に辿り着こうと相手を脱落させてしまえば、塔の制覇はその時点で失敗。
貴族と平民の混合となる一学年全員参加のこの課題で、未だかつてクリアーした者達がいないというのは……この時点で非常に納得してしまった。
「……フッ。」
思わず笑いをこぼしながら、俺は周りにいる同級生たちを見回す。
今年の一学年は歴代最高と呼ばれるくらいレベルが高く、更に爵位などによるトラブルがほとんどない、まさに『奇跡』と呼ばれている学年なのだそうだ。
そんな事はライトノア学院が創立してから初めての事で、更には俺達の学年を始めとして、上の学年の生徒達にも目まぐるしい変化が現在この学院に起こっている。
皆をグイグイ引っ張っていく圧倒的存在感を持ったカリスマリーダーが現れ、そのリーダーの掲げる正義に沿って動く───のではなく 皆が皆、『自分の正義』を選んで動き出した。
そしてその方向性は不思議な事に同じで、それを客観的に見ている俺は思う。
『心の底から人を蹴落としたい、それが楽しい!』
そう感じる人は、実は世の中には少ないのかもしれないと。
本当は助けたいけど世の沢山の『当たり前』が邪魔をして、自分の正義を持って動けない事がきっと多い。
そしてその邪魔する『当たり前』全て取り除けば───『奇跡』になるんだ。
「…………。」
その『奇跡』の中で、全員の視線は一斉に一人の人物へと集まっていった。
Aランクという途方もない圧倒的な『力』の前でどう戦うか?
その指揮をとってくれるリーダーを、全員が一瞬で選びその指示を待つ。
そして一瞬で決まった『皆が選んだリーダー』本人はというと───それによって特に変わった様子は見られず、プレッシャーなどは微塵もないワクワクした声で話し始めた。




