756 流されている……
(クラーク)
「さっちゃんもお姫様抱っこデビュー、リーフ様でしちゃった♡
───あ、そうそう、実はこの先の扉が開かなくて皆で足止めされちゃってるんですよ〜。
物理も魔法も駄目だしスキルにも反応なし!
唯一の手がかりがその扉の前の台座なんですけど……なんだか難解なパズルみたいな文字になっていて解析が邪魔される仕様になっているみたいなんですよねぇ〜。
今リリア達が、必死に解析している所なんです。」
「へぇ〜そうなのかい。
謎解き要素まで用意するなんて、流石はフラン先生だね。」
ぎゅ〜と密着しながらの説明に汗を掻いて見守っていると、突然「おいっ!」という不機嫌全開な声と共にリーフ様達の所へ向かってくる人物が……。
「いつまでそうしているつもりだ、この破廉恥エルフめ!
とっとと離れないならば、不敬罪で極刑にしてやるぞ。」
チィィィッ!!と大きな舌打ちと共に、会話に割り込んで来たのはアゼリアだ。
ちなみに後ろには、汗を掻きながらアゼリアを見つめるソフィア様もいる。
サイモンは顔を歪めて自分を睨んでくるアゼリアに対し、余裕そうな様子で顔をコテンッと傾けた。
「あれ〜?アゼリアちゃん扉押してたんじゃないの〜?───あ、駄目だったんだ〜。
う〜ん……。ゴリラの力をもってるぅ〜アゼリアちゃんでも開かないなら、もう絶対物理じゃ開かないよねぇ?どうしよぉ〜。」
「……貴様、ちょっとばかし可愛いからといって調子に乗るなよ?
それにリーフ様は残念ながら動物ではゴリラが一番好きだそうだ!
残念だったな!」
ハンっ!と鼻で笑いながら胸を張るアゼリアを見て、サイモンは『えええ〜?』と、さも信じられない!と言いたげな不満気な様子で、クルッとリーフ様の方へ視線を戻す。
「リーフ様趣味悪いですぅ〜!
凶暴で乱暴なゴリラよりぃ〜可愛くて癒やしてくれる猫ちゃんの方が良くないですか?」
「……猫の刺し身にしてやる。」
アゼリアが殺気混じりの目を向けサイモンに近づこうとすると、直ぐに駆けつけた獣人のレイドが羽交い締め、そして足には同じく獣人のメルがひっつきその動きを止めた。
「お前ほんっとに短気だな!?───っつーか猫の刺し身って……。
……あ、ちょっとジワっとくる。」
「……まずそう。」
プ───ッ!!と吹き出すレイドと、嫌そうな顔でイヤイヤと首を振るメル。
その間にサイモンは、マイペースにリーフ様の腕から降りて、キャーと言いながらその後ろに隠れる。
相変わらずなんて煩さだ……。
苦々しい顔でそのギャーギャー騒ぐ様子を見ていると、今度はスッ……と気配なく横から現れ、リーフ様の両隣に並んだのはリーフ様の側近候補のモルトとニールだ。
「リーフ様……流石は俺達がついていくお方。このモルトは非常に感動しております。
しかし───……なぜだろう?
尊敬とは違う別の黒い感情が俺の心の中に渦巻いております……っ!」
「〜〜っ!!こ、心が闇に覆われていくっすっ!!
嫉妬という深い闇に飲まれて新たな人格が生まれるぅぅ〜!!」
末端とはいえ貴族だしまともな方だと思っていたが……胸を抑えて呻く姿を見れば、そんな考えは吹き飛んだ。
頭が痛くなってこめかみを揉み込んでいると、リーフ様の後ろに隠れているサイモンがチラッと化け物レオンの方へ視線を向ける。
「そういえば最近本当にレオン、大人しくなったよねぇ〜?
前なんてぇリーフ様に近づくと、直ぐ殺気が飛び出てたのにぃ〜。」
それを知って、何で近づくのか……?
理解に苦しんでいると、リーフ様はサイモンの質問にあっさり答えた。
「あ、それはね〜。レオンは何と!等価交換というものを覚えたからだよ!」
「「「「等価交換???」」」」
騒いでいるアゼリアや獣人共、そしてエルフの男に側近の二人はおろか、聞き耳を立てていた同級生達までその言葉を口に出し一斉に頭を横に傾けた。
一旦全員の動きが止まったのを周囲を見て確認した化け物レオンは、突然スススッ〜〜……とリーフ様に近づいてきたので、後ろに隠れていたサイモンは「キャッ!」と短い悲鳴を上げてアゼリア達の元へ避難する。
それに対しいつも通り無反応なレオンは、リーフ様の目の前に立ち、そのままボソボソと喋り始めた。
「今日は膝枕でチビりんご食べさせて欲しいです。」
「うん!いいよー!」
「頭撫で撫でと耳かき……最後はフッって息を掛けて欲しいです。」
「うん!いいよー!」
「あとマッサージオイルを作ってみたので全身に塗っても良いですか?
顔のパックも作ってみましたのでそっちも……。」
「うん!いいよー!」
「あとは俺の選んだ服を着てガラガラを振りながら子守唄……フリルもまたフリフリ振って欲しいです。」
「うん!いいよー!」
次々と化け物レオンの口から飛び出す気持ち悪い内容の要求達に、レオンの奇行に慣れているはずのリーフ様の取り巻きたちや他の生徒たちも、全員ゾゾ〜っと背筋を凍らせた。
何であんな事を言われて平気なんだ?
俺だったら全力で逃げ出すぞ……?
俺も鳥肌が立ってしまった腕を擦りながら、リーフ様の方へフッと視線を向けると……リーフ様はどこかぼんやりとしていて、よく見れば目も虚ろ気であった。
「…………?」
よくよく観察すれば、どうやら深く考える事なくまるで流れ作業の様にただコクコクと頷いているだけの様だ。
───流されている……。
『俺なんて疲れた時は、ひたすら流されているよ。
ただでさえ頭トリさんのキャパシティーはお猪口だから!』
先程言っていたリーフ様の言葉を思い出し、コレと俺は同じ……と、非常に複雑な想いを抱いてしまった。




