755 ズルいズルい〜
(クラーク)
ブツブツと呟やいた言葉に、俺とジェニファー様が不思議な顔をしたのに気づくと、リーフ様はあからさまに怪しい素振りでピュピュピュ〜♬と口笛を吹く。
「ま、まぁまぁ、さじ加減はホント人それぞれだから!
一生逆らい続ける『戦い大好き民族』みたいな人もいるし、流され続けるクラゲみたいな人生の方が安らぐなんて人だっている。色々だよ。
そう考えると人生のテーマは『自分のさじ加減を知ること』かもしれないね。
若いうちは泳いだり流されたり、存分にキャッキャしておくべきだよ。
年寄りはしゃぐと一瞬で溺死するから、若いうちに楽しもう!」
またしても非常に軽い調子で返されてしまい、一気に体の力が抜けた。
流れに逆らう勇気も度胸もなく、かといって留まり続けるほど強くない。
だけど流され続けるのは、辛くて苦しい。
リーフ様曰く、そんなどうしようもないジレンマも別にあっても良いもので、絶対に譲れないここぞという時だけ踏ん張ればいい────だそうだ。
その言葉達は酷く俺の体も心も軽くしてくれたが……それでも今の俺は、まだここを動くことができない。
そのせいで変わらず怒りや悲しみ、焦りの感情は常に心の中にあるが、そんな自分もその『個性』なのだろうかと思えば、前よりは自分を認めてあげられそうな気がした。
だが────……。
『このままずっと流され続ければその先は地獄に繋がっている。』
その言葉は、全ての想いに覆い被さる様に俺の心にベッタリと張り付いて、離れそうになかった。
その後は、淡々とモンスター達を倒して進んで行き、やがて99階まで辿り着く。
このままボス戦に参戦だと思いきや……何やら100階に繋がっているであろう巨大な金色の扉の前で、生徒たち全員がガヤガヤしながら止まっている事に気づき首を傾げた。
リーフ様がくるまで待っていた?
────いや、それはないか。
例え一人でも意気揚々と戦う同級生たちの姿は今まで何度も目にしてきたので、その考えは直ぐに掻き消す。
ではなぜ……?と考え、扉の前にある台座の様なモノへと視線を向けた。
そこにはソフィア様とリリア、そして他の頭脳系資質持ちの者達がいる。
そして更にレイドやメルなど獣人を中心にした力自慢の前衛の者達が、扉に手を掛け一斉に押しているが扉はびくともしてない様子だ。
そこでやっと、どうやら扉が開かずに足止めを食らっているのかと気づき、その理由を考えていた、その時────。
「ああああああ────!!!!」
非常に煩い悲鳴が上がり、今度は声がした方へ視線を向けると……そこにはエルフ族の男、サイモンの姿があった。
「何でリーフ様が、ジェニファーちゃんをお姫様抱っこしてるんですか!?
ボクだってまだしてもらったことないのにぃ〜!ズルいズルい!!」
ジェニファー様を指差し、ギャーギャーと騒ぐサイモンのせいで、その場の全員の視線は俺達の方へ向く。
しかしやはりそれに一切動じる事なくリーフ様は「サイモンは俺より身軽なんだから階段登れるでしょ?」と、まるでお姉ちゃんばかりズルい!と怒る妹を叱る様に言った。
「違うも──ん!そうじゃな──い!!」
そう叫びながらジタバタ暴れるサイモンに対し、ジェジファー様は意地悪そうに口角を上げ『ホホホッ!』と笑い声を漏らす。
「あら、ごめんあそばせ?私も最初は断りましたのよ?
でもリーフ様がど〜〜〜〜────っしても!……と仰るので!
────はぁ……美しさは罪ですわね。」
いつもの様な取り澄ました感じではない、ジェニファー様のからかう様な言動に、リーフ様は困った子を見るような目を向け「全く……。」と言いながら、優しくジェニファー様を地面に降ろした。
すると、その途端にサイモンがズイズイッ!!とリーフ様に迫る。
突然の至近距離にリーフ様は背中をしならせて顔を後ろに離そうとするが、逃さない!とばかりにサイモンは更にリーフ様に顔を近づけた。
「リーフ様は、あんな派手な感じのキラキラしたのが好きなんですか?!ヒラヒラしててキランキランの宝石とか!!」
「えっ??────まぁ、うんうん。キラキラしてて綺麗だよね、宝石とかって。
ドレスもヒラヒラ動かしてあげると嬉しい?ものらしいし。」
そう言ってリーフ様は、ズモっ……と不穏な雰囲気を滲ませながら睨んでいるレオンを見つめ────「いつキラキラをモギモギしに行くか不安だけど……。」と良く分からない事をポツリと呟いた。
リーフ様の答えを聞いてムッと頬を膨らませたサイモンは、タタ────ッ走って遠くに行き、そこから全力ダッシュでリーフ様の方へ。
そしてそのままジャンプしてリーフ様に飛びつくと、思わず受け止めてしまったリーフ様の腕の中で、モゾモゾと動いて体を固定しその首に両手を回す。
そうして無理やりお姫様抱っこをしてもらったサイモンは、ニッコニコとご機嫌な笑顔を見せた。




