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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二十章

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754 天敵、そしてポックリ……

(クラーク)


「皆に叶えてもらう……?」


「そうそう。楽しいよね。一人より沢山の人達で達成できると。

まぁ、全裸だったら流石に止めるかもしれないけど、そうじゃないなら何でも良し!

夢に向かって若者は走るべし〜。

移動するのが大変ならこのオジ……じゃなくて俺がまた運んであげるよ。」


また頓珍漢な事を言い出したが、ジェニファー様は突然不機嫌な顔に変わり、プイッ!!と顔を背けてしまう。


「変なお人。」


それだけ言ってまたいつもの澄まし顔に。

それにガ〜ン!とショックを受けた様子のリーフ様は「思春期の女の子ムズかし〜!」と呟きながら嘆くが……ツンツ〜ンと顔を逸らしているジェニファー様の耳が、見たこともないくらい真っ赤になっていた。


それに何だか焦りの様な……嫉妬にも似た気持ちが沸く。


でもそれが何に対してなのかは分からなくて、俺は変にざわつく心を隠すように二人から視線を逸らし、前に向かって動かしている自分の足元を見た。

そして次に前を走るリーフ様の背中を見て────『今見える場所にリーフ様がいる』それがとても不思議で、口が勝手に動き出す。


「リーフ様は……周りに流され続けるだけの生き方についてどう考えますか?

与えられるモノを享受し、それを失いたくないために自分を偽る生き方を……。」


気がつけば、そんな言葉が口から飛び出していた。


『駄目だね。』

『弱くて情けないね。』

『自分の意見をしっかり持つべきだ。』


そんなありきたりな答えを想像し、それをあえて聞いてしまった自分に嫌気がさす。


一体何を聞いているんだ……俺は。


心底呆れながらも、思いつく限りのリーフ様の答えを同時に予想する。


……リーフ様は、どんな答えを返してくれるだろう?


ドキドキしながらその答えを待っていると、リーフ様はやはりあっけらかんとした様子で俺の質問に答えた。


「いいじゃないか。あるある、そんな生き方も。」


サラリとした非常に軽い物言いに思わず体が固まってしまったが、そのままリーフ様はペラペラと喋り続ける。


「俺なんて気がつけば流されているよ。ただでさえ頭トリさんの、キャパシティーはお猪口だから。

どんぶらこ〜どんぶらこ〜……気がつけば知らない場所だね。うん。

まぁ、結局は周りに迷惑かけなきゃ何でも良いと思うけどな、それも一つの生き方生き方。」


それから川に流れた桃?についての謎の歌を歌いだしてしまったリーフ様。


『もしや実際に川に流された時の話を……?』


そんな考えが一瞬頭の中に過ったが、慌てて頭を横に振ってその考えを散らした。


「で、でも!そんな生き方って……あまり良くないと周りは絶対に言いますよね!?

確かにそんなの駄目でしょう!

いつも一歩踏み出したくても、色々な事が頭を過ぎって結局踏み出せない。

そんなに簡単な事じゃないんだ……。

いつまでも変われない、言いたいことも失う事が怖いから言えない……。

だから楽な方に……流れてしまうんです。

そんな生き方……正しいわけがないじゃないですか!」


最後は思わず語尾が強くなってしまい、ハッ!と正気に戻った俺は直ぐに「申し訳ありません!」と謝ったが、顔から血の気は引いていく。


『公爵家の人間になんてこと……!』


そんな気持ちと共に、完全な八つ当たりをまたしてしまったという申し訳ない想いから、気持ちは一気に沈む。


そんな八つ当たりをされてしまえば、当然怒るはず……。


そう考え身構えたが、リーフ様からはそういった気配は一切感じられず、寧ろ必死に悩んでいる様な素振りまで見せてきた。


「う〜ん……。まぁ、そういう見方もあると思うんだけど……俺は流されるって、初めは人のためを想ってやる事だと思うんだよ。

流れってもんは、逆らえば必ず誰かは傷つくからね。

自分の意見を抑えて引く、それって凄く平和的で優しい事だと思わないかい?

でも────。」


リーフ様はそこで一旦言葉を切って、ガラリと雰囲気を変えて続きを話す。


「残念ながら、ず────っとず────っと流され続けちゃうと、その先はあまりいい場所じゃないんだ。

特にマービン君みたいに、周りに意地悪をするような事を良しとしたまま流されていけば、その先は地獄に繋がっているよ。

歳を取ると、もう泳いでどこにも逃げられないからねぇ?

お迎えがくるまで、そこで待つことしかできないんだよ。」


フフフフ……とおどろおどろしい声と笑みを浮かべて言ったリーフ様はその後、若干青ざめた俺とジェニファー様に向かって直ぐに「な〜んちゃってっ!」と戯けた態度で言った。


「ごめん、ごめん。脅かしすぎてしまったか〜。レオンが全く怖がらないから新鮮でつい……。

────まぁ、結局人生ってホント難しいなぁ〜って話だよ。

流され続けても駄目だし、必死に留まってても流れを受けすぎて疲れて駄目。

逆らって進めば周りを傷つける事もあるし……。

要は人生は、そのさじ加減で悩み続けるモノで、その配分がその人の『個性』だよ。

自分が流されては駄目だと思う、ここぞっ!て時にだけ踏ん張って流されなきゃそれで良いと思うけどね〜、俺は。」 


キッパリと言い切った独特な考え方にジェニファー様が小さく吹き出す。

そしてクスクスと笑う顔を見ていると、フッと俺の中にある焦りや嫉妬にも似た変な気持ちが、心の奥に引っ込んでしまったのを感じた。


「なるほど。流される事も人生には必要な事と……。それがリーフ様のお考えなのですね。」


「うんうん、必要必要。

だって皆が流れに逆らったら、川の流れが変わっちゃうじゃないか。

俺はたまに逆らうくらいが、丁度いいなと思ってる。

年寄りにとって大きすぎる変化は天敵だからさ……ショックでぽっくりしたら大変だから、気をつけないと。 」


「「???」」


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