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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二十章

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753 優しい夢

(クラーク)


なんとリーフ様はジェニファー様に近づき、腰をワシっ!!と掴むと、驚いて息を飲むジェニファー様をそのまま肩に担ぎ上げてしまった。


「────っ???!!」


いつものお澄まし顔は崩れ去り、目を見開いて驚くジェニファー様。

俺とクルト先生達も何事かと言葉を失っていると、その原因であるリーフ様はやはり全く気にする様子もなくニコニコして言った。


「じゃあ俺が運んであげるよ!それならドレスでも大丈夫でしょ?

全く〜最初から言ってくれれば、いつでも運んであげるのに〜。

次からは早く言うんだよ。」


めっ!と子供を叱りつける様な言葉を受け、ジェニファー様が担がれたまま固まっていると、リーフ様は開かれている塔の扉の方をクルッと向く。

その直ぐ前には、いつの間にか化け物レオンがいた。


「よ〜し!じゃあ、行くぞ、レオン!それにクラーク君!

────あっ、クラーク君もフリフリだった。

担いであげよう。

俺のもう一方の肩と、レオンの肩どっちが────……。」


「どちらも結構です!!!」


とんでもない申し出を、全力で拒否する。

ただでさえ刺々しい雰囲気を全面に出している化け物レオンに睨まれ、凍りついているというのに!

そんなレオンの様子に一切気づいてないリーフ様は「そう?」と答えた後、ブツブツと「まぁ、男だし、ねぇ……?」「最悪全裸にして……。」という恐ろしい言葉が聞こえたため、俺は全力を持ってこの塔に望む事を決意した。


そして塔に向かって走り出したリーフ様と、それに影の様にくっついていく化け物レオンの後ろにピッタリとついて俺も走る。


一応先程は外の階段を飛び降りてきたのに、入る時はまた一階から順番に向かうつもりらしい。

本人いわく『ルールは守って楽しく!』がモットーなんだとか。


そういうものか……?と一応納得しながら、塔の内装を見回す。


一面灰色の壁に石造りの道や壁は、まるで遺跡の様な作りになっていて、そこら中にウヨウヨとモンスター達が徘徊している状態であった。

まぁ、そうは言っても、既に先に入った生徒たちによりほとんどのモンスター達は倒され、本来の数よりはだいぶ減っている状態の様だが……。


相変わらず好戦的な奴らめ!


そこら中に残る戦闘の跡を見て、頭の中には、アホみたいに突っ込んでいっては笑っているクラスメイト達の姿が浮かぶ。

そんなクラスメイトに一応感謝をしつつ、一気に塔を駆け上がっていると、黙ったまま大人しく担がれていたジェニファー様が突然リーフ様に向かって話しかけた。


「貴方は私に、着替えろとは言わないのね。」


唐突に言われた言葉が理解できなかったのか、リーフ様は首を傾げたが、ジェニファー様はそのまま続けて言った。


「貴方だって心の底では思っているのでしょう?

こんな時でも着飾る事を優先する強欲な女とか、迷惑掛けてでも譲る気がない我が儘娘だ……とか?

そもそも、真面目に授業を受けるつもりがないだろうとか……。」


ボソボソとジェニファー様がそう言い終わった瞬間、前方にある柱の影から10mは超える巨大な<剛腕・トカゲ>が突然姿を現す。

そして、その巨大な腕を……リーフ様達に向かって振り下ろした!



< 剛腕・トカゲ >


体長5〜10m程のトカゲ型Fランクモンスター。

巨大で岩の様にゴツゴツした両腕を持ちそれを振り回し攻撃してくるが、強い攻撃力の反面スピードがイマイチ。

かつ自身の縄張り以外で攻撃をしてくる事はめったにないため、危険性はそれほど高くない。



「ちょっとジェニファーちゃん、お空飛んでてね。」


「────えっ……?」


リーフ様は一瞬で飛び上がり攻撃を回避すると、それと同時に空高くジェニファー様を放り投げる。

すると、ジェニファー様は、あっ!と叫ぶ暇もなく空を舞った。


「────な……っ!?」


呆気にとられる俺の前で、リーフ様は振り下ろされた剛腕・トカゲの腕に足をトンっとつけると、そのままモンスターの顔目掛けて走り、抜いた剣でその首を一瞬で吹っ飛ばした。


電光石火!


まさに見事というしかない隙のない攻撃で剛腕トカゲを倒してしまったリーフ様は、そのまま崩れ落ちていくモンスターの体の上をトットットッと走り抜け、落ちてくるジェニファー様をキャッチする。

そして、今度はお姫様抱っこをしたまままた走り出し、大きく口を開けてポカンとするジェニファー様に言った。


「それがジェニファーちゃんの戦闘服なんだろう?

じゃあ、いいじゃないか。自分が好きな服、着ればいいよ。」


「……せ、戦闘服ってなんですの?

……好き……かどうかは分からないわ……。

でも着てたいの。大切なモノだから。

沢山の人に、ドレスや装飾品に囲まれた私を見て欲しい……。

それが私の……望み……。」


最後の言葉は、まるで自分に言い聞かせるかの様で……俺の耳にはやっと聞こえるくらいであった。


空虚な愛を見せつける事、全てを我慢してまでそれをする価値。

……それが正しいか正しくないかは、俺達にとって重要ではないのだ。

正当性では変えることのできない想いが、この心にはある。


そんな俺達の薄暗い想いを全く知らないリーフ様は、何故か楽しそうに笑った。


「へぇ〜!そっかそっか〜。

じゃあ、それがジェニファーちゃんの夢なんだねぇ。

凄くいい夢じゃないか。

優しくて素晴らしい夢だよ。」


「……えっ?」


全く予想できなかった答えを返されたジェニファー様は、純粋に不思議だと訴える目をリーフ様に向けた。


「優しい……?なぜ着飾って自慢するように見せつける事が、優しい夢になるんですの?

意地悪な夢の間違いじゃありませんこと?」


「意地悪??

だってさ、その夢を叶えるには沢山の人が必要で、ジェニファーちゃんはその人たちを大事にしないといけないじゃないか。

皆に叶えてもらう一人じゃ絶対に叶わない夢だもんね。

まさに運動会の大玉転がし!俺、大玉転がし大好き〜。」


うひょ〜い!と、とても楽しそうに笑うリーフ様だが……ウンドウカイ?オオダマコロガシ??という聞いたことのない言葉に、少々俺は戸惑う。

しかし、ジェニファー様は微動だにせず、ただジッとリーフ様を見上げていた。



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