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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二十章

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746 届かない

(クラーク)


罵り仲間割れをしている彼らの顔全員の顔が自分の顔に変わった、その時────突然その頭上に黒い穴が多数出現する。

そして、ポイポイと球状の何かが落ちてきたと思えば、辺りは一瞬で黄色い煙に包まれ、その場は阿鼻叫喚の悲鳴に包まれた。


「……マリオンか。」


見覚えのあるスキルに視線を前から後ろへ移すと、そこには胸を張って仁王立ちしているマリオンの姿があった。



魔導具の名門中の名門【スタンティン家】。


その子息であるマリオンとは、昔から何かと馬が合わないというか……喰えないやつという苦手意識があった。


同じ伯爵家を名乗っている手前、それなりに顔を合わせる機会があったのだが……弁が立つタイプの人間であったため、突くような話題を出せば、きっちり100倍になって帰ってくる上に、貴族としてのマナーや礼儀も欠かさないため隙がない。

それは、マリオンの親であるスタンティン家の当主や奥様も同じタイプだった。

身分を尊重しているにも関わらず、上手いことエドワード派閥に加入せずにのらりくらりと躱していると、両親が悔しそうに愚痴をこぼしているのも聞いたことがあるので間違いない。


そんな彼らの唯一弱点となりうるのは、スタンティン家の長男……つまりマリオンの実の兄である<レイブン>が廃爵され平民落ちにされたという事実だ。

その当時、周りには様々な噂が広がりマリオンに対する中傷的な噂も数多くあったが────その全てに、マリオンは負けなかった。


アゼリアと同じく。


その事実は俺に、複雑な気持ちを抱かせた。



ペラペラと話し終わったマリオンは、チラッとリーフ様の方へ一瞬視線を向け、『どうだ!見たか!自分が一番すごいのだ!』 と言わんばかりの、偉そうな顔を見せる。


────ムカッ!!


何だか面白くない気持ちが湧き、イライラした気持ちに支配されると……全く同じイライラした雰囲気を漂わせたアゼリアが大きく飛んで後方に戻ってきた。


「マリオンの作る魔導具は性格の悪さが滲み出ている。」


そう言ってチラッとリーフ様の方へ視線を向ける。


────ムカムカッ!!


「陰険さなら貴様が一番だ、マリオン。」


苛ついた気持ちのままそう言うと、笑顔のままピクリと片眉を上げたマリオンは、ハハハッと心がこもってない様な笑い声を上げた。


「力押しの怪力女と、後方でチクチク攻撃するハチ男に言われたくないなぁ〜?」



その一言でピンッ……と空気が変わる。



不穏な空気が流れだし、お互いピリピリと緊張が走ったのと同時に、三年生達と大して変わらぬ罵り合いに突入。

しかしその直後に後方の方から打たれた弓の攻撃によりそれは中断されてしまいお互い、プイッ!!と顔を背けた後は戦いに集中しだした。



頭にくる!

あの二人はやっぱり気に入らん!!



ふつふつ沸く怒りの感情に翻弄されながらも、不思議な事に何故か心は晴れやかで……。



「…………?」



あれ?と、その不思議さに首を傾げた。


そもそも俺たちはこんなに軽口をたたけるような関係ではないし、アゼリアに対しては更に複雑な想いがあって近づく事さえ身構えていたのに……??



気がつけば見たこともない場所に一瞬流れ着いてしまう自分が心底不思議に思い、俺は何となくリーフ様の方に視線を向ける。

そしてフッと思った。



もしも俺とアゼリアとマリオンの全員が平民で、確執もなにもない状態だったら……毎日こんな感じで過ごしていたのだろうか?



そんなありもしない妄想が頭を過ぎり、直ぐに俺は頭を振ってその考えを消し去った。



その後も言い争いにいがみ合いを続けながら『協力』の『き』の字もなく戦っていた三年生達。

元々学院の授業のほとんどを気分が乗らねばボイコット、もしくは他の爵位が低い者達にやらせていたツケが回ってきたのか、あっさりと俺たちに倒されてしまった。


その結果、目の前で男子生徒達は闘技場に裸で磔、女子生徒達は口に出すのも憚れる絵を顔中に描かれて座り込んでいるという────夢でももっとマシだという程の、恐ろしい光景を晒している。


三年生達は、マービン様のせいで本来特級組になるはずだった平民や低位貴族達は全員辞退してしまい、その全員がマービン様を支える派閥の者達であった。

その結束は非常に強く、教員たちは手を焼いていたそうだが……それも接着するための『犠牲』なしでは、あっという間に崩れ去るものであった様だ。


「……フッ。」


三年生全員の顔がまた自分の顔に変わっていったので、思わず笑ってしまったその時、マービン様がやっと目を覚ました。

当然、マービン様は、烈火の如く怒り出した。



「お、俺は間違った事など言っていないだろう!!

別に、たかが平民の女如きに注意したくらいで、何でここまでの事をされないといけないんだっ!! 」



怒りと憎しみに満ちた目でリーフ様を睨みつけ、この国にとっては完全な『正論』を述べて反撃をし始める。

それに対する反論をしたら返り討ちになるだろうが、もしするとしたら────……。



『その身分に重きを置いた考え方は、間違っている!』


『人は生まれながらに平等で────。』



────と言った所だろうか?

しかし、そんな言葉は恐らくマービン様には届くまい。



多くが認める『正しき思想』とは、例えるなら無敵の要塞で、外からそれを崩すのはほとんど無理に等しい。

それを否定するという事は、相手の生きてきた人生全てを否定するという事だから。



つまり『正しい』『正しくない』以前の問題で、それを受け入れる事は、とても難しいと言う事だ。


こんなにガチガチで、更に結束しているマービン様の要塞を打ち砕く事は不可能。

一人で何を言おうとも、多数の認める世界を『正しくない』モノには絶対に出来やしない。



「そうだ……できやしない。」



騒ぎ続けるマービン様を見つめボソッと呟くと、かつての自分がマービン様と完全に重なった。



『俺の言っている事に誤りはなかった。』


『俺を選ばなかった世界の方が悪い。』



未だにその『俺』は、往生際悪く叫んでいる。


そんな『俺』にリーフ様は言う。



「では何が問題か……?それはずばり────……君自身に魅力がない事が問題だ!」


「??????」


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