741 似ている
(クラーク)
代々優秀な魔法使いを輩出してきた魔法特化の名家である《レイモンド家》。
現在は今までの功績から、名だたる伯爵家の一つとして周知されている我が家は【エドワード派閥】の重鎮である事でも有名であった。
現当主<ロイド>とその妻<ローズ>は俺の実の両親であり、二人の間に生まれた子供は俺のみ。
それは実質、正当なる《レイモンド家》の血筋を受け継いでいるのはこの俺<クラーク>だけであるという事だ。
そんな《レイモンド家》の先代、つまり俺の祖父に当たるのが、<ドルトン>様だ。
ドルトン様は非常に優秀なお方で、数々の伝説的な功績を立てた初代の生まれ変わりだと言われる程の偉大な人物である。
そんなドルトン様の一人娘が、俺の母である<ローズ>。
そしてそんな母が惚れこんで連れてきたのが、当時爵位が遥か下であった没落寸前の男爵家の子息の父<ロイド>であった。
子供であった俺にとって両親は唯一絶対的な存在で、両親のすることに間違いなどない、それこそが俺の世界の全て!……だったが、周りから見ればそうでは無かった様だ。
『偉大なる先代の一人娘にしては実力は凡庸で、更に男選びの才能がない娘』
『金にも女にもダラシないどうしようもない無能当主』
それが世で見る両親の姿だった。
それに対し俺が真っ先にしたことは、『目を瞑り、耳を塞ぐこと』
・・
それは俺の『世界』には存在しないはずのものなのだからと、そう信じて疑う事は一度もなく、俺は今の今までそれを必死に続けている……。
しかし最近は俺の瞑った目と、塞いだ耳をトントンと叩く音が聞こえてきて仕方がない。
それはエドワード派閥の動きが活発化していくにつれて、強くハッキリとしていく様な気がした。
苛烈で過激な事で有名な【エドワード派閥】。
我が家も含めたその派閥の名家達は、身分というものに対し酷く極端な思想を持っている。
それを守るためなら『悪』も『正義』に変えてしまう事、そして、それを『正義』として、何をしても罪悪感の微塵もない事が心底恐ろしい。
そんな当たり前の『正義』を貫く派閥の現在のトップは、公爵家《メルンブルク家》。
そしてナンバー2に位置しているのが辺境伯《ライロンド家》。
その次が我が伯爵家の《レイモンド家》という序列が、暗黙の了解になっている。
このナンバー2に位置する《ライロンド家》と我が家は、非常に懇意にしている仲で、俺とライロンド家の跡取り息子の歳が近いため、何度か顔を合わせたことがあった。
その跡取り息子こそが、ライロンド家次男の<マービン>様だ。
俺は、この方もライロンド家の人間も、どうしても好きになれない。
『過激な思想』
『身分が低い、特に女性に対する過度な暴言』
『身分至上主義の行き過ぎた過激な発言、行動』
頻繁に見られるマービン様の行動……いや、ライロンド家や他の過激なエドワード派閥の貴族達の全てを受け入れるのとができなかったのだ
しかし────両親は、二人揃ってそんな連中と酷く話が合う。
つまりは……同種であるということだ。
そしてそんな両親と共に人生の道を歩いている俺も、いつかは流され必ずそこへ辿り着く。
「しばらく一人にしてくれ。」
ジェニファー様を送り届けた後、俺はその隣に位置する寮の自室に帰ると、そのまま中にいた従者達に頼み人払いをした。
そして誰もいなくなった部屋の中、貴族としては下品であるのは分かっていたが、ソファーにドカッ!と深く座るとそのまま大声を上げて笑い出す。
マービン様や高位貴族達のあの醜態!!
笑わずにはいられない!!
久しぶりに感じた愉快に身を委ね、俺は思う存分笑ってしまった。
本日は全一年生と最終学年である三年生の特級組との合同演習の日で、その朝俺は酷く憂鬱な気持ちで目を覚ました。
実力主義を掲げるアーサー様の運営される中学院は、その理念に賛同する者達によって運営されているため基本的には貴族といえど、中々身分で特別扱いとはいかない。
しかし、それも伯爵家や辺境伯など高い身分の者達が集まってしまえば、完全に通す事は難しい。
現在のライトノア学院の三年生達は特に名だたる貴族達が多く集まった年で、辺境伯の<マービン>様を筆頭に大きな派閥を作りあげ、流石のアーサー派閥の教員たちも止める事は難しい状況が続いていると以前から聞いていた。
更にそれを大幅に加速させた原因はもう一つ────現ライトノア学院教員、かつエドワード様が個人で所有している王宮騎士であった<ジュワン>という男の存在にある。
彼が裏で手を引いてエドワード派閥の生徒達の思想を過激にしていったという話は、わざわざ調べなくとも入学院試験の時の言動や態度をみれば一目瞭然であった。
まぁ、本人はその後直ぐに、呪いの化け物によって因果応報────いや、それ以上のご退場をしたが……。
それに対して多少なりとも薄暗い気持ちは晴れやかになっていたが、まだまだ心地よい学院生活……とまではいかない。
そのまま気乗りしない気持ちを隠しながらジェニファー様のお迎えに行けば、俺と同じ想いなのか、いつもの勝ち気で挑発的な笑みを無理やり浮かべたジェニファー様の姿があった。
……本当にジェニファー様と俺は似ている。




