732 白の世界とデジャブ
(リーフ)
それをやはり見ている事しかできなかった俺は、今まで見た映像が悲しくて悲しくて……その苦しさに耐えられずに、空を見上げ大声で叫ぶ。
「こんなのってあんまりじゃないかっ!!!ばっかやろぉぉぉぉ────────!!!」
すると────……?
────ピシッ!!!!
空一杯に何かが割れる音がしたかと思えば、景色はまるで時が止まったかのように静止してしまった。
「な、何だ……?」
俺は目の前で宙に浮いたまま全く動かない小さな葉っぱを凝視していると、更にビシビシビシ──!!という大きな割れる音と共に、景色に蜘蛛の巣の様なひび割れが入り始める。
それに目を白黒させると、やがてパリィぃ──ンという破壊音がしたと思ったら、その景色全てが割れて一瞬で一面真っ白な世界へかわってしまった。
「ど、どーなってるんだ?」
その変化についていけなくてポカ──ン……と、口を開けたまま周囲を見渡すと、前を見ても後ろを見ても、上を見ても下を見ても、そこは一面真っ白な世界。
なんだかそこに激しい既視感を感じた。
「あれ……?ここは……もしかして……?」
「やぁ。こんにちは。大樹君。……いや、今は『リーフ』君かな。」
突然前方に聞こえた様な気がした『声』?に導かれるまま前を向くと────宙に簡素な木の椅子が一つ浮いているのが目に入る。
そして、そこに誰かが座っている様な気がした。
いや、何を言っているんだ?と俺も思うが、視線の先に誰かが座っているのだが、脳がそれを認識できない?のだ。
人の形をしていると目が捕らえているのに『人』だと認識することも、男なのか女なのか?子供なのか成人なのかも認識できない。
何故かその存在はそこにはいないと、視覚以外の器官は訴えてくるという訳の分からない現象に襲われた。
「??…………???」
ただただその感覚が不思議で、キョトンとしながら視覚からのみの情報を目だけで捉える。
背丈としてはヒョロっとした体型の男性?の様で、髪は薄い黒色の短髪に白いシャツとただの黒いズボンという何処にでもいそうな格好だ。
しかし────何故か顔は黒い鉛筆でぐちゃぐちゃに書きなぐったかの様に塗りつぶされている。
まるで小さな子供が画用紙に描いた絵みたいだ……。
そんな事を考えていると、その人物のその顔からフフッ……という笑い声?の様な音が聞こえた。
「ごめんごめん。驚かせちゃったかな?
私の存在は『人』には認識する事ができないんだ。
それどころか姿も見えない、声も聞こえないはずなんだ、本当はね?
でも君は────が────────だから、私の存在が分かる様になったんだよ。
だから、一度会ってみたくてね、こうして会いにきたんだ。」
「???えっ?……そ、そうですか……。どうもありがとうございます……???」
聞こえない単語の発音もあったためサッパリ言っている事が分からなかったが、とりあえずお礼を告げると、謎の人物は特に気を悪くした様子もなく会話?を続けた。
「君は本当に凄い。
────の支配を自力でねじ伏せ、その干渉から飛び出すなんて……一体君はどこまで進化してしまうのだろうね。
まさか────に与えた進化の力をそう使うだなんて……そもそも作った────からは真逆じゃないか。
……まぁ、ただそこから出るつもりがないから────は君を見逃してきたのだろうね。
少し面白いおもちゃ……とでも言った所か。」
ねじ伏せる……?進化??……おもちゃ……???
辛うじて聞こえたキーワードがどうにも結びつきにくく、ハテナが飛び散ったが『もしかして俺の前世のお仕事の事?を言っているのかな?』と思い当たったので、一応それに答えた。
「よく分からないですけど……とりあえず褒めてくれてありがとうございます。
おもちゃは子供には必要なものだと思うので、興味あるものを安全に遊ばせるよう気をつけて全力で子供の世話をしてきました。」
おもちゃは意図せず子供にとって危険な物になりうるため、そこは目を光らせて遊ばせていた自信がある。
自信満々でしっかり答えると、謎の人物はとても嬉しそうに笑った。
「ハハッ!なるほど、なるほど!そうきたか!
そうだね、君はとても熱心で、全力で人生を駆け抜けその幕を引いている。
どの人生…………でもね。
そのせいで、君がいる場所ではおかしな事ばかりが起きるんだ。
本来決まり切っているはずの世界達の『運命』を変える事はできないはずなのに……。
それは大海の流れを指一本で変える様なもの。
それを君は何度も何度も!
今回は人の身のまま『目』まで手に入れてしまったんだから本当に驚かされてしまったよ。
一体君はどこまで運命を変えてしまうんだろうね。」
「???は……はぁ……。あの、貴方は一体……???
それに何故、俺の事を知っているのですか?」
疑問だらけの会話に、このよく分からない状況……。
もしかして俺、死んじゃった?
そんな最悪な可能性が頭を過ぎると、その死因はレオンが寝ぼけてアナコンダ・ホールドを強めたからに違いないと思い当たり一気に顔が青ざめる。
どうしよう、どうしよう……。
悪役がお亡くなりになっては、英雄のレオンの未来が!




