728 大好き、ずっと
(リーフ)
────プツッ!
………………。
ザァ〜……ザァ〜………………。
突然スイッチが切れた様に景色が消えたかと思えば、昔のテレビのチャンネルを合わせる時の様に砂嵐が現れ、その後ぼんやりと現れてきたのは何処かの森の中の景色であった。
周囲をよくよく観察すると、そこが学院内に囲まれている森の一部、それも闘技場近くである事が分かり、更によく見知った人物が魔導書片手に何かの巨大魔法陣を必死に書いている姿が見えてくる。
その人物は────リリアちゃんであった。
リリアちゃんはブツブツと呟きながら、酷く複雑な魔力を練り、どんどん見たことのない魔法陣を創り上げていく。
そしてその周囲にはやはり見知った人物達、サイモン、レイド、メルちゃんがいて凶暴化しているらしい森のモンスター達を必死に蹴散らしていた。
「おい!リリア!その訳わかんねぇ魔法陣、まだ完成しないのか?
そろそろ闘技場の方に戻らねえと、モンスター共がどんどん集まってくるぞ!」
前から襲いくる狼型のモンスターを大剣で薙ぎ払いながらレイドが言うが、リリアちゃんは首を横に振り「もう少し……。」と返事を返す。
レイドは、はぁ〜と大きくため息をつきながら、描かれていく巨大魔法陣を見下ろす。
「……見たことのねぇ魔法陣だな。何か見ているだけでゾワッとするぜ。
もしかしてここらへん一帯を吹き飛ばす様な、すげぇヤツなのか?」
ワクワクしながら更に近づいて魔法陣を覗き込むレイドに、突然横から現れた新たな狼型のモンスターが飛びかかってきたが、後方から飛んできた高火力の衝撃波によってパンッ!とモンスターは弾けとんだ。
「……レイド……油断……駄目。」
高火力の衝撃波はメルちゃんの弓矢であった様で、レイドは汗を掻きながら助けてくれたメルちゃんに「わりぃわりぃ!助かったぜ!親友!」と言って大剣を構え直す。
すると上空から数匹の鳥型モンスター達が、レイドとメルちゃんに狙いを定めながら迂回して攻撃しようとしたその時────突然そのさらに上からサイモンが現れた。
「こっちだよ〜!────まぁ、もう遅いけど。」
サイモンはあっという間にそのモンスター達をタガーで斬り落とし、トットッ……と軽いステップで地面に着地する。
そしてそのまま周りへの注意を怠らず、リリアちゃんに話しかけた。
「ねぇねぇ、リリア。その魔法陣ってホントに何なの?
絶対必要だって言うからここまで来たけど……もうそろそろ限界だよ。
闘技場に張られた結界の中に避難しないと、凶暴化したモンスターにやられちゃう。」
「……絶対に必要なの。もう少し……もう少しだから、お願い、持ちこたえて。」
ブツブツ言いながら普通じゃない程の集中力で魔法陣を描いていくリリアちゃんに、サイモンは肩をすくめながら「了解。」と言って、群がってくるモンスターをレイド達と協力して倒していく。
そして見事なチームプレーによって周囲のモンスター達を一掃すると、「できた!」というリリアちゃんの声が上がった。
そのためレイド、メルちゃん、サイモンは直ぐにリリアちゃんの元に駆け寄り、禍々しい紫の光を発し始めた魔法陣へ視線を向け、同時にゴクリと喉を鳴らす。
「ね、ねぇ、リリア、このやたら邪悪属性っぽい魔法陣って何??
そろそろ答えを教えてよぉ〜。」
いつも通りに軽い感じで尋ねるサイモンに、突然リリアちゃんは正面から抱きつく。
そんなリリアちゃんの行動に全員驚きキョトンとしたが、リリアちゃんはサイモンに抱きついたままポツリポツリと喋りだした。
「兄さん。今まで私の事を守ってくれてありがとう。
いつも兄さんは巫山戯たふりしていつも助けてくれて……私の一番の憧れの人だった。」
「??えっ?何?急にどうしたの?リリア。」
突然の感謝の言葉に訳が分からない様子のサイモンはオロオロしたが、リリアちゃんは構わず話を進める。
「……ねぇ、兄さん覚えている?
あのクソ男が、15歳になったら私を正妻にするって無理やり押しかけてきた時の事。
あいつは色々な所にパイプを持っていたし、無茶を通す様な力もあったから皆泣き寝入りするしかなかった。
でもその後、悪事がバレて失脚したけど……あれ、兄さんでしょ?
私とお母さんのために、危ない橋を渡ってまで助けてくれたんだよね。
私は、本当は『人』が大好きで、でも弱みを見せられなくて意地を張っちゃうそのままの兄さんが大好きよ。────ずっと。」
「リ、リリア?」
流石におかしいと怪訝な顔を見せたサイモン。
そんなサイモンからゆっくり離れたリリアちゃんは、笑顔を浮かべたままドンッ!!とサイモンを突き飛ばし、その光る魔法陣の中へ入れた。




