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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第十九章

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727/831

725 それぞれの最後

(リーフ)


ずっとずっと叫んでいるのに俺の声が一つも届かない事が悲しくて、更に声が枯れるまで叫んだのに何一つ伝わらない。


そうしているうちにまた景色は変わり、今度は冒険者ギルドがある東門の前に俺はいた。



ここも沢山のモンスターが襲い掛かってきており、ほとんどの冒険者達が既に息絶え、そこら中に物言わぬ死体として転がったままだ。


そんな中で戦い続けているのは数人で、その内の二人は非常に見覚えのある人達であった。



「まさかこんなものを手にしていたとはのぉ……。神の罰をも恐れぬ愚か者どもが。

恐らくこの街も周辺の街々も全て全滅じゃろうて。

()()を倒すためには、ドロティア帝国と同じ選択をするしかあるまい。

ニコラ王は決断を迷われている様じゃが、長引けば長引くほど被害は拡大していく。

もう既に、遠い街にまで被害の手は広がっているようじゃからな。」


「そんな……!せめて子供達だけでも助けられないのでしょうか?

仕方がないとはいえ、まだ幼い子供達にそれを負わすのはあまりにも酷い!」



一人は2m……いや下手をしたら3mくらいはありそうなムキムキの大男だが、声と口調からそれがヘンドリクさんだという事が分かった。


そしてそのヘンドリクさんと話しているのは、ゴツいナックルを装備しているエイミさんで、二人は飛びかかってきたモンスターをやすやすと倒しながら会話をしている。


しかし、ヘンドリクさんはいつもの穏やかそうな顔ではなく、非常に険しい顔をしており、エイミさんも同様に険しい顔をしていて、かなり怒っている様だ。


会話の詳しい内容はよく分からないが、何者かのせいで何か恐ろしいモノがグリモアを襲い、それによって街は壊滅状態になっているらしい。

そしてそのせいで、グリモアだけではなく遠い街までそれが広がっているほど被害が甚大である事も……。



「一体何が襲ってきているんだ……?」



必死に考え込んでいると、突然俺の脳裏には、先程森の上空いっぱいを覆っていた『何か巨大な影の様なモノ』が思い浮かんだ。


      

まさか……()()がその原因のヤツ?



今度はその正体について考えていると、エイミさんの悲痛な声を聞いたヘンドリクさんは、キュッと顔を歪め、辛そうな声でそれに答える。



「……無理じゃろうな。わしとてなんとか助けてやりたいが……その経路は全て閉じられてしまっている。

相当な魔術の使い手が向こうにはついているようじゃ。

こんな老いぼれの命なら喜んで差し出すのに……神はなんと無慈悲な事を……。」



最後は自傷気味に言ったヘンドリクさんの元に、上から両手に巨大斧を持った男性が落ちてきて、向かいくるモンスター達の集団をキッ!!と睨みつけた。



「俺は……俺は情けないっ!!

今まで必死に努力して努力して……っ!!A級冒険者までせっかく上り詰めたのに、子供一人すら救えないとはっ!!

こんな事をした奴らを、全員ぶっ飛ばしてやりたい!!

ヘンドリク様、これは神の起こした事ではありません。

非道な人間たちが起こした、ただの最低最悪の人災です!

俺は無駄だと分かっていても抗ってやるさ、最後までっ!!」



両手に大斧を持った男は、ザップルさんであった。


ザップルさんはその後「うおおお────!!」と大声をあげると、そのままモンスター達の集団に突っ込んで行ってしまう。


それを見たエイミさんは悲しげな顔を見せたが、やがてフフッと笑った。



「確かにそれしか私達にできる事はありませんね。

こうなったら暴れるだけ暴れて、後に残される人たちに対し精一杯のメッセージを残しましょう。

グリモアの冒険者達は『悪』に屈せず戦い抜いたと。

そしてどうか、後世で『悪』を討ち滅ぼす者達が現れますように……!」



エイミさんは一度祈りを空に捧げると、ナックルがついた両拳をパンッ!と打ち合い、ザップルさんに続いてモンスター達の集団の中に消える。


ヘンドリクさんは、そんな2人を見送った後、ふぉっふぉっと嬉しそうに笑った。



「全く……。そんな事を若者に言われてしまえば、年寄りの立つ瀬がなくなってしまうのではないか。

助からんなら、せめて順番は守らねばのぉ。死ぬのは老いぼれのワシが先じゃ。

こんな出がらしみたいな老いぼれがどれだけ命を燃やせるか、楽しみになってきたわい。」



そうしてヘンドリクさんも、モンスターの集団の中へと消えていった。



────カシャッ!


今度はスライドする様に景色が変わり、見るからにボロボロの小屋の中が映し出された。


そこには辺り一面色とりどりのキノコの残骸が散らばっていて、生えていたキノコは全滅している様だ。


そして何かを引きずった様な血の跡が、小屋の隅の方へと続いている。


俺は嫌な予感をビシビシと感じながら、その血の跡を目線で辿っていくと、その先にいたのは────……必死に数本のキノコを抱えて壁にもたれ掛かっている、血だらけのライキーさんであった。



「ラ、ライキーさん……?」



ひゅー……ひゅー……という、か細い呼吸音は、外の沢山のモンスター達の足音や鳴き声によって掻き消され、直ぐにでも逃げなければ命はない事は誰が見ても分かる。


しかし────ライキーさんは既に、腹の側面はほぼ全て食いちぎられており、更に両足も喰われてしまったのかなくなっていたため、息絶えるのが先かモンスターに襲われるのが先か……という状態であった。


そんな中、ライキーさんは抱えているキノコをギュッ……と抱きしめ幸せそうに笑った。



「……僕……と……君を繋ぐ……大事………な……最後の絆……。

今度は……絶対に……離さ……ないよ。────あーちゃん……。」



そう口にした瞬間、巨大なモンスターの足が小屋を踏み潰す。



────グシャッ!!!


すると────大きな破壊音と赤い血しぶきと共に、ライキーさんのキノコ小屋は全壊してしまった。


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